第198話、許されるなら...。


話はカゲロウと対峙してるアルトに戻る。


「私と同化しろ!ダーインスレイブ!!」


カゲロウのお腹にダーインスレイブが刺さる。そして刺さった場所から融合していきカゲロウと一体化したのだった。


「あぁ~!!いい感じ!魔力がみなぎるわぁ~!!まさにか・い・か・ん!!」


融合していったカゲロウの見ためはまさに龍そのものになっていった。


「トカゲに成り果てるとは...。」


カゲロウの姿を見たアルトはソーマの事を考えて哀れな気持ちになっていた。愛してる女性がそんな姿に自ら変わっていくのだ、アルトにとっては考えても考えつかない。ただ感じるのは哀れみだけだった。


「何だその目は!?そんな目を女性に向けるもんじゃないよ!!!龍の咆哮ドラゴンブレス!!」


カゲロウは大きな口を開けて全てを吹き飛ばす大きさのブレスを放った。しかし、アルトは冷静だった。


「その姿のどこに女性要素が?鏡を見た方がいい。聖者の琴盾ホーリーハープ。」


アルトの前にキラキラと光見えないカーテンのようなものが張られ、そこにカゲロウの放った龍の咆哮ドラゴンブレスがアルトの聖者の琴盾ホーリーハープにぶつかる。

しかし、大きなブレスは光のカーテンに包まれアルトに届くことはなかった。


「チッ!次から次へと変な魔法ばかりうっとおしい!!」


「お前の攻撃は僕には...いや、僕達には届かない。そんな気持ちも入っていない張りぼての攻撃なら尚更だ。」


「フン!格好つけたってアンタ全然攻撃して来ないじゃない!?それじゃ私は倒せないわ!残念ね~!」


カゲロウの言葉に呆れて思わずため息が漏れる。


「はぁ~。僕は言ったよね?お前を全力で叩き潰すと。だからあえて攻撃をさせたのがわからない?お前の手の内を全て防いで、その無駄に高いプライドを折ったうえで倒そうとしてるのが分からないとは...。」


「ガキが...舐めやがって!!」


「でも、もういいかな...。お前を見てると怒りで自分自身が見失いそうになる。これ以上嫌な自分では居たくない。

クラレント!!決着をつけるぞ!」


(はい!)


「「同調シンクロ!!」」


アルトとクラレの声が重なった瞬間、アルトの魔力が爆発的に上がった。そして白銀のオーラがアルトを包んだ。それを感じたカゲロウの表情が強張る。


「こ、こんな馬鹿げた魔力は一体...?それにあの光は...。」


「終わりだ。カゲロウ。聖神の光ホーリーレイ。」


白銀の光線がカゲロウを捉える。光の速さ故にカゲロウは身動き一つ取れなかった。そして、光に晒されたカゲロウに変化が起きた。


「な、なんだ...この光は...?温かい?こ、これは涙?な、何故!?」


「カゲロウ。それはお前の根本、心の奥底ににあった優しさの欠片何じゃないのか?」


アルトに言われてカゲロウは思い出していた。遠い遠い記憶を...。暗く辛かった幼少時代に優しさと温もりと光をくれた一人の人物の事を。


「...ソーマ。私はいつからこうなった...?何でこうなった?分からない。あんなにソーマが好きだったのに...。」


白銀の光に晒されているカゲロウの身体がだんだんと浄化され消えていく。するとカゲロウの側に別の光が近づいた。


「カゲロウ...。」


「ソーマ?ソーマなの?」


「あぁ。僕だよ。」


「ソーマ...。ごめんなさい。私は、私は取り返しのつかないことを。」


「いいんだ。僕も悪かった。あの頃の僕は君を最後まで信じる事が出来なかった。本当にごめん。」


「ソーマ...。」


「カゲロウ。僕と一緒に逝ってくれるかい?」


「そんな...私は貴方に酷いことを何度も...何度も...。」


「いいんだ。それでも僕はカゲロウと一緒に居たい。愛してる、カゲロウ。」


「ソーマ。許されるなら側に居させて...。」


「あぁ。一緒に逝こう。とその前にちょっと待ってね。」


そう言うと光の粒子がアルトに近づいてきた。


「アルトくん。ありがとう。君の...君達には感謝しかない。そして、すまなかった。」


「僕は..。その、何て言うか...。」


カゲロウを消滅させる事しか考えてなかったアルトは言葉に詰まった。しかし、ソーマは優しい声で、


「アルトくんとクラレの魔法のお陰でカゲロウは戻ってきてくれたんだ。いいんだ。そしてクラレ。僕の子で居てくれてありがとう。アルトくんに大事に使って貰うんだよ。」


「...はい。お父さん。」


「良い子だ。それじゃ僕達は逝くね。遠くから見守ってる。」


そう言うと2つの光の粒子が絡み合うように天高く舞い、消えていった。

2人はもう離れることはないのであろう。


ソーマとカゲロウが天に舞い上がり消えていった数分後、魔導兵を殲滅させたパーティーメンバーがアルトの所にかけよった。

アルトは事の顛末をパーティーメンバーに語った。


「どこまでも勝手で、どこまでも迷惑をかけるんだから~!ソーマ兄ちゃんのバカ~!」と、リアが声を荒げた。

天に帰ったソーマはきっと笑っている事だろう。最愛の人と一緒に...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る