第195話、ソーマの願い。
貯蔵庫に向かうと2人の奴隷が寝ていた。お腹がいっぱいになって安心したのだろう。もう少し寝かせてあげるか...。僕はそう思い先に旅の準備をする事にした。
母の作業部屋に行く。母はドワーフだった為に武具を作るハンマーや作業台など持っていけるものは全部大容量の
母の作業スペースや母が作っていた武具をあらかた入れ終えて次は父の作業スペースだ。父は魔力の高さと豊富な知識で錬金術にも名を馳せていた。僕は錬金釜や薬草、ポーション、後は錬金の本などを収納袋に詰めていった。
後は衣類だな。衣類をまとめていると幼いときに着ていた服が出てきた。
「こんなに小さい時の服まで取っておいてくれたのか...。母さん。」
愛されていたのを実感するとまた涙が流れてしまった。しかし、感傷に浸っている時間はない。朝になれば国中大騒ぎになり国の外に出るのもままならなくなるだろう。
僕は涙を拭った。この服は奴隷の子達に着てもらおう。お古だけど今のよりはいいよね?
そうして準備が整った所で地下に向かった。
すやすや寝てる2人は可愛く感じる。
「もしもーし。起きれる?」
僕は優しく声を掛ける。するとビクッっと反応して起きて頭を抱えながら、
「寝てしまってすいません!謝りますから殴らないでください!すいません!」
必死に二人は僕に謝ってきた。
「いやいや、殴らないって。とりあえずこの服を着て欲しいんだけど...。ってその前に2人とも汚れてるね~。よし、まず綺麗にしようか。
『
僕が魔法を掛けると2人は「えっ?えっ?」と自身の周りに回っている光を見る。そして、次の瞬間一気に2人の身体が綺麗になる。
「うん。2人とも綺麗になったね。それじゃこれに着替えて。」
2人服を渡すと二人はそそくさと着替え始めた。
「あー、君は女の子だったね。あっちで隠れて着替えるといいよ。」僕にそう言われると女の子は恥ずかしそうに隠れて着替え始めた。
着替え終えた2人に僕は問う。
「2人はこれからどうしたい?君達の雇い主は亡くなったから君達は自由になったんだけどさ。」
「ど、どうすれば良いのでしょう?」
「わかりません...。」
それもそうか...。こんなに幼い子がこのままこの国で生きていけるとは思わないし。そっか、そうだよな...。僕は決意し2人に聞いてみた。
「良かったら僕と旅をしないか?僕はこれからこの国を出るんだ。やることもあるし、そこに付いてきてくれると僕も退屈はしないかな?衣食はいいけど住むところは野宿の時もあるけど、どうだろうか?」
「僕は...一緒に行きたいです!このままこの国に居てもまた悪い大人に奴隷にされてしまう。それなら一緒に行きます。」
男の子は力強く言った。その言葉に女の子も、
「わ、私も一緒に行きます。宜しくお願いします!」
「じゃあ、決まりだね!おっと自己紹介がまだだったね。僕の名前はソーマ。君達は?」
「僕の名前はアルゴです。」
「私の名前はカゲロウです。」
「アルゴにカゲロウね。これから宜しくね。それじゃ早速この袋に貯蔵庫の食糧全部入れるから手伝って!」
何言ってるの?と疑問な顔をしながら2人はとりあえず手伝ってくれた。
「適当でいいからどんどん入れて~!」
僕がポイポイッと食糧を収納袋に入れる。ドンドン吸い込まれて行くのを見て二人も面白がってポイポイッと入れ始めた。ドンドン吸い込まれて行くのが面白いらしい。2人が初めて笑顔を見せた瞬間だった。
やっぱり子供は笑顔じゃないとね...。
全ての食材を入れて準備は終わった。僕はアルゴとカゲロウに黒いローブを羽織らせる 。
「これから国を出るけど準備はいい?」
僕がそう言うと2人は頷いた。僕は2人に死体を見せないように家を裏口から出てこそこそと歩く。探知の魔法を広げても周囲の反応はない。まだ王が死んだのはばれていないのだろう。静かな国を僕たちは歩く。そして国を守る防壁の側まで来た。この時間に普通には国を出れない。深夜に正面から国を出ることは怪しさ満点だからだ。
「2人とも僕に掴まってくれる?」
2人は何も言わず僕に掴まった。
「よーし。いい子達だ。これからこの防壁を飛び越えるけど声は出さないでね。」
2人は頷く。
「『
身体が浮き徐々に上昇する。そして防壁よりも高く飛んだ。
「2人とも見てごらん。景色が綺麗だから。」
「わあ~。スッゴ!!」
「...綺麗。」
国の街明かりがネオンの様になっており綺麗に映っていた。外から見ると綺麗だけど中から見たら...。いや、止めておこう。
父さん、母さん。行ってきます。
そして、僕達は色んな物を見て色んな国に行って12年が経った。アルゴは18才、カゲロウは17才となり3人ともパーティーを君で冒険者をしている。ランクはSランク。
冒険者として日々充実していた。僕はSランクのお祝いとして僕が打った中でも会心の出来である物を送った。アルゴにはクラレントと言う細目の長剣を渡し、カゲロウにはアスタリスクと言う双剣を渡した。二人は目を輝かしてお礼を言ってきた。その時のカゲロウの笑顔は今でも忘れられない。その笑顔に僕は胸を貫かれた。その瞬間からカゲロウを愛してしまったのだ。
それから男女の関係になるのは必然だった。しかし、ここから徐々に変わっていった。アルゴは常にビクビクし始めた。そしてカゲロウはどんどんと傲慢になっていった。何がそうさせたのか?僕には分からなかった。
いや、分かろうとしなかったのだろう。僕は現実に目を背けてしまった。
それからしばらくしてアルゴが消えた。1枚の手紙を置いてクラレントとともに。
手紙の内容は僕に対して謝罪とカゲロウには気をつけろとかかれていた。
僕はカゲロウに問い詰めた。
僕の言葉は無視されてそのまま出ていった。そして僕は一人になったんだ。
そして、20年の歳月が経ちカゲロウと言う悪女が死んだと風の噂で聞いた。
一体何が起きたのか?
僕は知りたかった。死んだ場所はグングニル王国があった場所。今は神聖国サザンクロス。
僕達がグングニル王国を離れて1ヶ月後にエルフとドワーフの長が僕の両親の死を知り全面戦争仕掛けたのだった。結果、王も死んでグラグラなグングニル王国は敗戦したのだった。
神聖国サザンクロスに着くと衛兵に止められた。どうやら人族は厳重なチェックを受けるらしいが僕はエルフとドワーフのハーフだ。
名前を聞かれて答えると、「ま、まさか王子が戻られた!」などと言ってきた。
王子?何の事だか全く分からぬままサザンクロスの王城に通された。しかも大層豪華な馬車で。そして、王の間に辿り着くと2人の王が座っていた。一人はドワーフ老人、そしてもう一人はエルフの男。
「おぉ。おぉぉぉ。良く顔を見せておくれ。」
2人の王が僕の顔をマジマジと見た。
「間違いない、クラークとサラの面影がある。」
僕は驚いた。その名前は両親の名前だったからだ。
「何故その名を?貴方達は一体...。」
「わしらはお主の祖父じゃ。御主には本当にすまなんだ。辛い思いをさせて。」
「本当にすまない。今さら謝っても2人は帰ってこぬのに...。」
「い、いえ僕は...。」
「積もるもあるじゃろ?少しゆっくりして行くといい。」
「その前に父と母に挨拶してきていいですか?」
「あぁ...。そうだな...。」
それから僕は実家があった場所に向かった。そこには綺麗な大きな墓石と両親の名前が刻んであった。そこに手を合わせて祈った。
何を祈ったのだろうか?とりあえずただいまとだけは伝えた気がする。
そして、夕方王城に戻り2人の祖父と話をした。
何度も両親には帰って来てくれと手紙を送っていたらしい。しかし、返事もなくその国当時のグングニル王に引き渡して欲しいと頼んだのだが結果、殺された。それに激怒した両一族が全面戦争を仕掛けて滅ぼしたのだそう。
こんなことになるなら最初から追放などさせなきゃ良かったと両祖父が嘆き僕に謝ってきた。
僕は謝罪を受け入れ、ただ頷く事しか出来なかった。そして、僕には聞かなきゃ行けないことがあった。
「すいません。ここサザンクロスにカゲロウと言う女が来てたと聞いたのですが...何か知ってますか?」
そう言うと空気が一変した。
「どこでその名を?」
「い、いや、風の噂で聞いたのですが。」
「あれは酷い女であった。いい話があると言いながらわしらの前まで来て挨拶するまでは良かったのじゃが、アヤツは魔眼の持ち主じゃった。洗脳の類いじゃろうな...。それを使ってきたのじゃ。儂らはそれらを無にするアーティファクトを身に付けておったから良かったのじゃ。危うく乗っ取られるところじゃったわい。」
そんな事があったのか。魔眼なんていつの間に...。まさか、僕はずっと洗脳されて...。いや、決めつけるのは早いか。
「それで処刑した...と。」
「そうじゃな、処刑して今は解剖し終わったな。これから研究しなければならぬの。魔眼は珍しいし、心臓、脳とあらゆる部位を解体して研究に回しておる。」
「そ、そんな事が...。」
俺は絶望を感じた。愛するものが何故?どうして?僕ばっかり。そんな負の感情が巻き起こった。
「そうじゃ、少しはゆっくり出来るのだろ?良かったら研究を見てみるか?御主はクラークににて博識じゃろ?ここには色々な書物もある。魔術、錬成術、人体錬成術、人魔錬成術など色々な。」
人体錬成術?
それを使えばカゲロウは生き返るんじゃなかろうか?そんなバカな発想が頭をよぎった。
そして、その日から人体錬成術の書物を全て記憶する。そして人魔錬成術。
その二つの研究を始めた。錬成術は等価交換これは絶対だ。しかし、人魔錬成術は魔力を媒体としている。しかし、人間を錬成するとなるととんでもない魔力が必要になるとかかれていた。なら人体錬成術と人魔錬成術を混ぜたら使えるんじゃないか?
そんな研究をして数十年がたった。
結果命を生むためにはには命を使わなければならなかった。カゲロウを復活させるのに、それだけの為に人を使う。そんなことは出来なかった。
そして、僕は手紙を残してサザンクロスを離れカゲロウの事を忘れようと旅をした。
そして数百年が経ち、カゲロウを忘れた時にアバドンで武具屋を始めたんだ。
そしてまた数十年が経ち、コウ。君に出会った。
君は僕が作ったアスタリスクを持ってきてくれた。そして、アルトがクラレントを装備していた。そこで忘れていた記憶が徐々に戻ったんだ。そして、行動に移した。
ただカゲロウに逢いたい。もう一度あの笑顔が見たい。僕の願いはただそれだけだったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます