第190話、ここは僕達に任して。


魔剣ダーインスレイヴを手にしたカゲロウは次々と闘技場に居る者達を斬っていった。


「あはぁぁぁ~ん!斬る度に力が増すこの感じ~!か・い・か・ん♪もう止まらないわ~!」


闘技場に居る者達にはもう戦意はない。ただのカゲロウの食事と化していた。


「ヴォイス!!解析はまだか!?」


「すいません!もう少し...もう少しで...。あ!!解析を完了しました。これから結界を解除します!」


「でかした!!頼む!!アスタ、リスク、ラウル!人化解除!俺の元へ。」


「うん!」「...なの!」「了解!!」


「ヴォイス、結界を解除したら俺の中に入ってくれ!」


「分かりました。」


「皆、準備はいいか?」


俺は皆の顔を見る。

皆、今か今かと闘志を剥き出しにしていた。

今さら言葉は不要か。

下に居るのは悪人かもしれない。しかし、命は命だ。償うにしろもっと違うやり方があると俺は思う。悪人達の因果応報と言われればしょうがないのだが。

無秩序に散らしていい命は無いんだ。

俺は聖剣アスタリスクを握り結界解除を待った。


「解除します!!3、2、1。解除完了!!」


結界の解除を終えたヴォイスは俺の中に入った。


よくやってくれた。ヴォイス、ありがとう。


(いえ...、時間が掛かってしまいすいません。)


俺はヴォイスに礼を言い、『瞬歩』のスキルでカゲロウに近づいた。

カゲロウも俺の気配に気付いたのか咄嗟にバックステップをした。


「誰?アンタ?」


「俺はコウ・タカサキ。お前を止めに来た。」


「止めに来た?ハッ、笑わせるね。アンタみたいなお子様に止められる訳がないでしょ!寝言は寝て言って。私は食事中なの。邪魔するならアンタから食べるよ。」


「やれるもんならやってみろ。」


「アンタ...生意気。吠えろ、ダーインスレイヴ!!」


カゲロウの持っている魔剣が龍の形に変わって行く。変形を待っているほど俺はお人好しではない。


「第三の剣技、桜吹雪。」


俺の超高速の連続の太刀がカゲロウを襲う。しかし、龍と化したダーインスレイヴがカゲロウを守った。


「ちっ、ソーマが使ってた時より龍化が早すぎる。」


「それはそうでしょうよ。ソーマが私の為だけにこの子を作ったんだもの。本当にそこだけは感謝よね~。って、アンタの使っている2本の剣はアスタリスクじゃない?懐かしい~。まだあったんだ。ソーマが作った出来損ないの剣が。」


「あ?今、何て言った?」


俺はカゲロウの言葉に怒りが沸いた。

俺にとって妹のような存在のアスタとリスクを出来損ないだと...。


「出来損ないって言ったのよ!だってそうでしょ!?私の時はこのダーインスレイヴちゃんみたいに覚醒もしなかったんだしさ~!ポンコツもポンコツ、大外れの武器だったわ!まあ、切れ味だけは良かったけどね~。それ以外は良いところ全くないし。」


「もういい...。お前少し黙れ...。」


「嫌よ!せっかくこの世界に帰って来たのだもの!散々我が儘放題してやるわよ~!この子も居るしね~。」


と言いながらカゲロウは龍化したダーインスレイヴに愛おしそうに頬擦りをする。

その姿を気持ち悪く見ているとアスタリスクが念話で愚痴ってくる。


(うげぇ~。僕達、あんな気持ち悪い人に使われてたんだね~。最悪。あの人の元で自我が覚醒しなくて良かったよ。)


(本当に気持ち悪いの...。お兄さんに使われて良かったの...。)


お前たち...。


(だから、お兄さん私達の為に怒ってくれてありがと!)

(これからもずっと一緒なの...。)


ああ...。ずっと一緒だ。


(兄貴~!オイラもずっと一緒だぞぉ~!忘れないでくれよ~!)


悪い悪い!ラウル、お前もずっと一緒だ。


(マスター...。私も...。)


勿論ヴォイスもだ。

皆がずっと一緒に俺と居たいという気持ちが嬉しかった。苛ついた俺の気持ちも落ち着きを取り戻した時に、俺の横にはミアとアルト、クラレが追い付いてきた。

師匠のデューク、ルシフェルとボロックとノエル、リアとラテは闘技場のギャラリーを守る為に白装束の者達と戦っていた。

そしてアルトが俺の前に出て、


「コウ君、ここは僕に...いや、僕達に任してもらえないかな?」


「アルト、お前何を言って....。」


アルトの顔を見ると鬼のような顔をしていた。今までアルトのそんな顔を一度も見たことがなかった俺は、言葉に詰まってしまった。


「僕はどうしてもこいつだけは許せない。こいつだけは...。だからコウ君はミアさんと一緒にソーマさんを追って。」


気迫のこもるアルトの声に俺は、


「...わかった。カゲロウアイツは強いぞ。死ぬなよ、アルト。」


「死なないさ。僕はコウ君の相棒だからね。さあ、行って!」


「ああ。」


俺とミアはソーマの跡を追いかけたのだった。

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