第189話、目覚めた災厄の女。
ステージ上に起きた事を見ていた俺達はなにもできずにいた。
「何て惨いことを...。」
聖女ノエルは嘆いた。それをボロックが支えていた。俺はヴォイスに結界の解析を頼んだ。何重にも複雑に構築されてまだ時間がかかるらしい。俺は何も出来ずにステージ上を見ていた。
ステージ上ではソーマがまた何かをしていた。
「おっと危ない、これを集めないとカゲロウが目を覚まさないじゃないか。僕ってドジだな。
するとステージ上からもやが現れてソーマの手に集まっていった 。もやが消えるとソーマが持っていたのは虹色に輝く飴玉位の大きさの何かだった。
「レベル100の魂がこれだけ詰まった物ならそろそろ彼女が目覚めてもいい頃かな?」
ソーマはそんな事を言いながら虹色の玉をカゲロウの口に含ませた。すると、カゲロウから異様なオーラが放たれた。
「おっ!強い反応があったね。これなら...」
そう言いながらソーマは詠唱に入る。詠唱に入ってる間に攻撃できればいいのだが、俺達は閉じ込められて動けない。下に居る大勢の連中もさっき倒された連中が最高戦力であったのだろう。他に続く者が出なかっただけでなくビビって逃げようとしていた。しかし、ソーマの部下であろうか、大勢の白装束の者達が逃がさないように囲んでいたのだった。
「......この世界に一つの魂を呼び戻したまえ。
そして、この肉体に宿りたまえ。」
ソーマの詠唱が完成した。さっきまでの青空は黒色に染まり辺りは静寂に包まれていた。
「禁術・
黒色に染まった空に魔方陣が現れて一滴の光がカゲロウに落ちた。そして、カゲロウの身体から強い光が放たれた。
「う...う...。こ、ここは?」
「カゲロウ!?カゲロウだよね!?」
「私は...カゲロウ。そう、カゲロウ。貴方は...まだ意識がハッキリしない。」
「やったぁ~!成功したんだ!僕だよ、ソーマだよ。」
「ソーマ?...あぁ、ソーマですか。久しいですね。何年ぶりでしょうか?...そんなことより私は死んだはずでは?」
カゲロウは少し戸惑いながらも自分の感触を確かめる様に両手を開いたり閉じたりしていた。
「300年ぶりだよ!ずっとカゲロウ、君に逢いたかったんだ。」
「...300年。貴方は私に逢うために復活の魔法を覚えたと...。ありがとうございます。」
「礼なんていいさ。僕が好きでやってるだけだから!それよりも聞いて欲しいことが...。」
「ちょっと待ってください。今目覚めたばかりでまだ頭が回らないのです。それに何だかお腹が空いていて。この身体は人間の者ではないですね?」
「ご、ごめん、カゲロウ。嬉しくて舞い上がってしまって。うん、その身体は人間ではないんだ。人間を使って人間の形に成形した入れ物に過ぎないんだ。でも、当時のカゲロウを再現したんだよ。伸長、体重やら全てを。」
「そうなの...。」
「でも、利点はあるんだ!君はこれから歳を取ることはないんだよ。それに強い冒険者の生命エネルギーを取り込んでるから当時より強くなってる。」
「へぇ...。」
真剣に話を聞いているカゲロウの口元はニヤリと口角を上げた。
「このお腹の空き具合と喉の渇きは今まで通りにご飯やら水を飲めば治るのかしら。」
「ごめん。そこは前とは違うかな。人間の生命エネルギーを糧としてもらわないと行けないんだ。だから、カゲロウにお腹いっぱい食べてもらおうと思って人を集めたんだ。」
「そうなの。私の為に...、ありがとう。」
カゲロウの顔が喜びで満ち溢れた。遠目から見てもゾッとする狂気に満ちた笑みだった。
「そうそう、カゲロウにこの剣を渡すよ。僕が作ったカゲロウ専用の剣だよ。それで斬ると生命エネルギーを吸いとるんだよ。これでカゲロウの渇きは消えるはずだよ。」
「そう、ありがとう。」
カゲロウはソーマから魔剣ダーインスレイヴを受け取るといとおしいそうな目で魔剣を見つめる。そして、
「ソーマ。ありがとう。そして、さようなら。」
カゲロウはソーマから受け取った魔剣でソーマの身体を貫いた。
「な、なんで...。カゲロウ...。」
「何で?何でってアンタの事が昔から大嫌いだったからに決まっているでしょ!?」
「...え?」
「アンタの『僕はカゲロウを守る!』とか『カゲロウは僕の天使だ。』とかそんな言葉に私は毎日吐き気がしていたの!いつか殺してやろうと思ってたのに、私が他の奴に殺されてしまったから出来なかったけどやっと出来たわ!
愉快、愉快!!」
「....そ、そんな。」
ソーマは貫かれた剣を引き抜き貫かれた箇所を押さえながら建物の奥に入って行った。
「あの傷ならそう遠くは行けないから後でいいわ。ソーマはメインディッシュにしましょう。その前に...前菜を頂かないと。」
カゲロウの目は捕食者の目となり闘技場に集まった数万人は恐怖で大パニックに陥ったのだった。
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