第187話、集まる悪人達。


闘技場の下を覗くとそこには武装したガラの悪い連中達数万人がビッシリと闘技場のギャラリーを埋め尽くしていた。良く見ると鎧や武器に紋章が刻み込まれており、国やら団体やら十数組に別れているようだった。


「お~。この数は圧巻だな。」


「そ、そうだね。どうしようなんかドキドキしてきた。」


「アルト、大丈夫だよ。鑑定したけど下の連中らより俺達の方が全然強いから。」


「コウ、鑑定だけが全てじゃないぞ。」


と俺とアルトに割って入ってきたのが師匠のデュークだった。


「師匠、それはどういう事ですか?」


「経験だよ。ここにいる大半は長年冒険者としてだったり、傭兵だったりしているはずだ。不測の事態も予測できる奴等は多い。

あそこにいるグルール帝国の冒険者達は殺人に長けている。殺人ギルドなんて言われてるからな。

その隣のグループはプリュッテル王国。ここのギルドは傭兵、まあ言えば戦争屋だ。大規模戦闘に長けているしな。

この中で注意しなければ行けないのが、何て言っても自由都市タンニング。

ここの都市のギルドはSランク冒険者が多くいる。自由都市だけに貿易やらでなにかと金が溢れるくらい多いからな。ここに居るSランク冒険者も莫大な金で雇われているのだろう。」


「流石、師匠!!詳しいっすね!」


「まあ、世界中を旅してきたからな。しかし、妙なのは集まってる奴等全てが悪人って事だ。」


「悪人?」


「あぁ、ほとんどが何かしらの犯罪に加担している奴等だな。国や都市の思想もあるのだろうが...。」


そう言いながらデュークの顔が曇る。

そう考えれば確かにおかしい。

他の国や都市ならまだまだ沢山あるのに犯罪に手を染めてるやつらだけを呼ぶなんてあり得るのだろうか?俺も頭を悩ませる。


「マスター。ない頭で考えても意味がないですよ。」


ヴォイスが笑顔で毒づく。


「おいおい、久しぶりに喋ったと思ったら失礼な奴だな。ちゃんと頭はあるわ。」


「猿並みでしょ?」


「ムキー!!俺のどこが猿だって!?」


「そこそこ、溢れ出てますよ。猿が。」


ヴォイスに煽られ俺の顔が赤くなる。


「本当だ~!顔真っ赤~!コウ、まるで猿じゃん!!ヴォイスは見る目あるわ~!」


その瞬間、その場に笑いが起きた。


「ミアまで...。ひどい。」


しかし、周りを見ると皆が笑っている。さっきまで深刻そうだった顔が嘘のように。

ヴォイスはきっと皆の緊張を解してくれたんだろうな。だがしかし、俺をネタに使うとは何事か。俺はヴォイスをチラッと見ると、ヴォイスは小さくごめんなさいのポーズをしてウインクしてくる。その姿にキュンとして俺の顔がますます赤くなった。


「コウ~、ヴォイスにドキドキしたのかな~?僕にもドキドキしてくれないと拗ねるからね!」


「もちろんだよ!いつもミアにはドキドキしてます。はい...。」


「なら、いいんだけどね!」


ニコッと笑顔になるミアにまたキュンとしてしまった。


「コホン。お前達、ちょっと緊張感無さすぎじゃないか?ここは敵の総本山のど真ん中だぞ。」


デュークの正論にさっきまでキャッキャッやってた俺達は反省する。確かに緊張感はなかったけどさ、ヴォイスめ。

そんな事を思っていると下が騒がしくなって来た。


「おい、見ろ!!ソーマヤツが出てきたぞ!!」


師匠の声に俺達全員は闘技場に目を運ぶ。すると対面のステージからコツン、コツンと足音が鳴った。その音にギャラリーも黙る。

そして、姿を表したのは真っ白なスーツを着たソーマと真っ白なドレスを着た黒髪の女だった。その女の姿を見たクラレントは今にも飛び出さんばかりの形相になっていた。

そうなると、やはりあの女はカゲロウの様だ。

若干アスタとリスクも嫌悪感を抱いている様で顔が険しくなっていた。


ソーマとカゲロウがステージ中央に来る。部下らしき白装束を着た者にマイクを渡されたソーマは、


「今日は良く集まって下さいました。」


と、丁寧に挨拶をするのだった。

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