第180話、我慢の限界。



「お前は誰だ?」


俺はヴォイスの姿をしているヤツに聞く。

怒りを抑えて冷静に。


「そうか。気付かないか...。俺は最初・・からコウ・タカサキ。君の側に居たのにな...。」


「あ?お前何言ってるんだ?お前みたいな奴は知らねーよ。」


「知らない、か...。まあ、実体化してた訳じゃないからそれもそうか。」


ウンウン。と頷きながら勝手に納得している感じだった。


「なら、こう言えば分かるかな?」


「あ?」

俺はずっと意味不明な事を言ってくるコイツに少しイライラしたが次の言葉に驚愕する。


「どーも~♪マスター♪天ちゃんでぇす!」


その言葉を聞いた瞬間、俺は一気に悪寒が走った。


「あの時から君は本当に変だったよね。いくらレベルが低いからってゴブリンを100体倒すのに飽きたらず500体も倒すなんて言うもんだからさ~。飽きちゃってヴォイスコイツに変わったもん。」


俺は衝撃の事実に頭の整理が追い付かない。

尚も目の前のヤツの話は続く。


「そしたらヴォイスコイツは生意気にコウ、君に恋をしたんだよね~。僕の神器オモチャの癖に。あはは~!笑えるよね~。」



「黙れ...。」


俺はギリッと歯を食い縛る。


「ただ一つの誤算はヴォイスコイツが俺を裏切って、俺を君から剥がそうとした事だよ。お陰で99.999%まで剥がされたからね。ヴォイスコイツは完全に俺が居なくなったと勘違いしたけど、居なくなったのは俺の分隊達さ。そこに居るルシフェルは分隊の中でも俺の要らない要素を詰め込んだ出来損ないなんだけど、さすが出来損ない。人間の肩を持って俺に歯向かうなんてな。笑いを通り越して呆れるわ。」


「貴様...。」

ルシフェルも鋭い視線を向けて今にも飛び出しそうになっていた。


「それでも、一旦剥がされた俺の0.001%はヴォイスコイツにくっついてたって訳。後は、ヴォイスコイツの中でコウ、君の魔力を吸いとって表に復活する機会を伺ってたんだよね。そしたら、今このタイミングで魔力が溜まり俺が表に出たって訳だ。」


「...言いたい事はそれだけか?」

俺は拳を強く握り、一歩踏み込む。


「おや、俺に攻撃するの?

別にいいけど、ヴォイスコイツがどうなっても良いわけ?出来ないよね~。

君は優しいから殴れる訳が....うぎゃ。」


気がつくと俺は殴っていた。


「おいおい...。マジか...。君はとんでもない奴だな。この世界に来てからずっと支えて来た仲間を殴るなんてどうかしてるぞ。」


「お前...。何か勘違いしてないか?

今殴ったのはお前にじゃない。ヴォイスにだ。」


「は?相変わらず君は意味わかんない事を言うね。」


「ヴォイス!!さっさと目を覚ませ!!こんな糞野郎に支配されて悔しくないのかぁぁ!?

俺の相棒はそんなものなのかぁぁ!!」


「無理無理。そんな声が届く訳がないじゃん。笑える~!ぷぷぷぷ~!」


「ヴォイスゥゥ!!!」


俺は覇気を込めてヴォイスに叫ぶ。


「だから無理だ...って?あれ?身体がおかしい...。何でいうことを効かない?」


ヴォイスは俺の声を聞いて必死に抵抗をしているのだろう。ヴォイスであったものは急に苦しみ始めた。


「やめろ...。出てくるな...。何でこんな力が...。一体何故...?そ、そうか...我の半身のネメシスの奴がコイツに力を...。

糞が...。ね、念のために予備の身体を用意して良かった。」


「予備の身体だと?」


俺は辺りを見渡した。

俺のパーティーは全員いる。ミアもちゃんと合流している。予備?一体、誰の事を言っているんだ。


「見つかるわけないだろう、俺の手中にあるんだから。コウ、君の身体を乗っ取れない場合の予備の身体はコイツだ。」


ヴォイスの隣に急に男の少年が現れた。

誰だ?何となく誰かに似ている。

俺が考えていると、


「カイン!!!」


ミアの悲痛な声が響いた。

そうだ。ミアの弟のカインだ。俺はあったことはなかったが確かにミアに似ている。

俺は取り返そう『次元移動デメッションムーヴ』で近づくが弾かれてしまう。

強力な結界が張られていた。


「残念だったな。」


ヴォイスに入っていた者がそう言うとヴォイスの身体から黒い煙のようなものが出て、カインの口から体内に入っていった。

そして、カインから邪悪なオーラが一気に溢れだした。


「ふははは。素晴らしいぞ、この身体は。」


カインの目は真っ赤に染まり、肌の色も浅黒く変わっていった。


「さてと、この身体でもまだ足りないか...。」


カインだった奴がそう言うと俺の視界から急に消える。ブシュ...。嫌な音が聞こえた。


「うおぉぉ!?き、貴様...。」


声を聞く方を振り返るとルシフェルの身体が貫かれていた。


「俺を返して貰うぞ。」


そういった瞬間、ルシフェルの身体から貫いた手を引き抜いた。その手にあったのは真っ黒な魔石が二つ。


「これは、カマエルとウリエルの魔石か...。無いよりはマシだろう...。ゴクリ。」


魔石を飲み込んだ。するとカインだった奴の力の総量が上がったのだった。


「カイン!!カイン!!」


ミアは取り乱しカインの元に行こうとするのを俺は止めた。


「何で!?とめないで!!カインが!?カインが!?」


「ミア...。ごめん。」


俺はミアの首元に叩き気絶させた。


「あははは。優しいな~!コウ。君はどうするんだい?俺を殺すのかい?君の彼女の弟の俺を。」


「あぁ...。お前・・だけ、俺の手で殺す。」


俺の殺意は我慢の限界を超えてしまったのだった。

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