第178話、君に任せたよ。



無職と知って気まずい三人の後ろから急に明るい声が聞こえた。


「あっはっはー。無職でも良いじゃないか。

ミアが好きなら僕は構わないけどな。

どれどれ。うん。君ならミアを任せられるな。

サンドラに土産話が出来たよ。」


3人は振り返り一人の人物を見て固まってる。

誰も声を発しないので俺は聞いてみる。


「え、えーと、どちら様で...」


俺の言葉を遮るように三人が同時に声を上げる。

「お父さん!!」「ユリウス!!」「バカ義息子むすこ!」


「え?お父さん?えっ?え?」


3人の言葉に俺はパニックになった。

ユリウスはあっけらかんと明るい感じで話した。

「僕の身体を乗っ取ってたヤツが居なくなって縛られた魂が解放されたんだ。

意識はあったんだけどね。

全然自由が効かなくてさ。みんな迷惑かけてごめん。」


ユリウスは申し訳無さそうに頭を下げる。

するとプロペトが、


「いやいや、ユリウス。

お前さんのせいじゃないだろう。

それにお前がグスタフに結界を張ったのは知っておる。

そのお陰でグスタフを亡くさなくてすんだんじゃ。

お前はやっぱりすごい義息子むすこじゃぞ。ワシは誇らしいのぉ。」


プロペトは誇った様に話す。

褒められて照れたように頬を赤くするユリウス。続いてグスタフが話す。


「ユリウス。お前が守ってくれたんだな。

ありがとう。またしても命を救われた。礼を言う。」


「止めてくれよ、グスタフ。顔を上げてくれ。グスタフには感謝しかしてないよ。

ミアを僕とサンドラの代わりにここまで育ててくれてありがとう。

親友の君に頼んで良かったよ。」


「ユリウス...。」


2人はガシッと握手を交わす。

そしてユリウスはミアを見る。


「ミア。本当に素敵な女性になったね。」


「お父さん...。」


「ミア。おいで。」


ユリウスは両手を広げてミアに言う。

恥ずかしそうにもじもじしていたので俺はミアの背中を押した。

急に背中を押されたからか、驚きちょっとつまづきながらユリウスの胸にミアの頭が当たる。

その瞬間ミアが、


「わぁぁ~ん!!お父さぁぁぁん!!」

ユリウスに抱き付きながらミアが号泣してしまった。

ユリウスはミアの頭を撫でながら、


「頑張ったね。よしよし。」

小さい子供をあやすように泣き付くミアをなだめたのだった。

ミアが少し落ち着きを取り戻した所でユリウスは真剣な表情で俺を見た。


「コウ君...。私はこの先もミア達には何も出来ない。後は、君に任してもいいかな?」


「はい。任してください。

この先も俺はミアを、そしてミアが大好きなこの国の人達を守って行きます。」


俺も真剣な顔でユリウスに宣言する。

俺の言葉を聞いたユリウスは安心したように顔が緩み、


「うん。君のその言葉を聞いて安心したよ。

サンドラにも話さないとな~。

ミアの旦那さんはいい男だったと。」


うんうんと頷きながら納得したユリウスだった。


「コウ君の決意も聞いたし、そろそろ時間もないから本題に入るね。」


俺的には娘さんを下さいって言う一代イベントだったんだけど本題じゃなかったのね...とか思いながら、

「本題?」と首をかしげる。


「そう。僕の身体を乗っ取ってたヤツの記憶?感情?どっちか分からないけどそんなのが残っててさ。

僕の中に入ってたミカエルだっけ...ヤツは本体の分体って感じだったな。

本体であって本体ではない。うーん。

何にせよ。全部が揃って本体に成るようなんだ。まあ僕の仮説も半分入ってるけどね。」


なるほど。と俺は思う。

ユリウスの話で合点がいくことが多い気がする。

「でも何でそんなことをしたんですかね?

実際、本体だけで動けば相当強いのに。」

俺は謎に思った事をユリウスに問う。


「多分、この世界を知りたかったんじゃないかな?力があっても1人じゃ何も出来ないこともあるだろ?」


「知識欲...か?」

謎が多いが分散している今なら俺だけども倒せるかも知れない。

トーマスを乗っ取ったゼウスも今は俺に勝てないと言っていたしな...。


「まあ、僕の話せるのはここまでかな。

あんまり役にたたなくてごめんね。」


「いえいえ、参考になりました。ありがとうございます。」

俺はユリウスに頭を下げた。


「ミアの旦那さんにそう言ってもらって嬉しいよ。可愛い僕の娘のミアを泣かせないでくれよ。」

「はい!!」

俺は力強く返事をした。

ユリウスは次にミアを見て、


「ミア。」

「は、はい。」

「コウ君と幸せにな。

それと息子のカインの事もよろしく頼むな。」

ミアは涙を拭い去り力強く、

「分かりました!!」と返事をした。


そしてユリウスはグスタフを見て、


「お前にはいつも迷惑をかけて悪いな..。

ミアとカインの事を引き続き頼んでいいか?」


「今さらそんな事言うなよ。当たり前だろ。

ミア様もカイン様も俺にとって子供みたいなもんだ。任しておけ。」


「あぁ。グスタフ、僕は君という親友がいて良かったよ。ありがとう。」

よせやい...。と照れてグスタフはそっぽを向いた。


「そしてお義父さん。」

「何じゃ...ワシももうすぐお前と一緒に逝くんじゃから後で沢山話せるじゃろ。」


「お義父さんにはもう少しこっちに残ってもらいます。」

「な、なんじゃと!!そんな事できる訳が...。」

プロペトが取り乱す。

「僕のありったけの魔力をお義父さんに注ぎます。魔力を多く使わなければ後10年はこの世界に居れるはずです。」


「そんな事が出来るならお主が残れば良いじゃないか!?」

プロペトは激怒しながら言う。

「お義父さん...。僕の身体はその...もう色々とバラバラであれでは魔力を練れ続けられないし維持できないんですよ。」


そう言ってユリウスの横目で見る視線の先にある自分の死骸を見てポリポリと頬をかく。

俺は心の中で謝った。

ジャンピング土下座したいくらいに...。


「それに、あんまり待たせるとサンドラが不安がりますから。」

「そうか...。」

「お義父さん。これからどうなるか見届け欲しいんです。戦いの行方とか、ミアとコウ君の結婚式とか、もしかしたらカインの結婚とか。

僕たちはあの世あっちでお義父さんの冥土の土産話を楽しみにしてますから。

これ、死人ジョークですよ。」


「バカもん!!この状況で笑えるか!?お主は全く...。」


この義親子は生前も仲良かった事が伺えた一面だった。

ミアもグスタフも必死に笑いを堪えていたのがその証拠だ。


「冗談はさておき、それではお義父さんいきますね。

魔力生命還元リターンユアライフ。」


ユリウスのバラバラな死骸が光輝き粒子となってプロペトの中に次々と入っていき、全て入った時に光が消えプロペトに生命力が戻った。

しかし、ユリウスはもう見えるか見えないか位半透明になってた。

最後にユリウスは俺を見て、

「君に任せたよ。」

この台詞を最後に消えていったのだった。

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