第177話、無職って敬遠されるよね。


「ソ、ソーマ!!」

俺の目の前に現れ、ミカエルの胸部を後ろから貫いたのはソーマだった。

突然の事でソーマと呼んだが、ソーマを乗っ取ったヤツは確かゼウスと名乗ってた事を思い出した。


「...違うと何度も。まあいい、これは我が貰う。」


そう言うと、ゼウスはミカエルを貫いた手に持っていた真っ黒なコアを口に運び飲み込んだ。

飲み込んだ瞬間、爆発的に邪悪なオーラが膨れだす。


「これでもまだ貴様には届かぬか...。

まあいい。我はコアの回収しに来ただけだからな。

コウ・タカサキ。

近い内に合間見えるだろう。そこが貴様の最後だ。」


「逃がすわけないだろ!!

ソーマの身体を返せ!!」


俺は『瞬歩』でソーマに近付こうとするが、


次元移動ディメッションムーブ。」


その場に居たはずのゼウスが消え、100メートル付近まで瞬間移動をした。

そして、黒いコアを拾ってまたどこかに消えてしまった。

辺りから気配は全くもってしなくなってしまったのだ。


「糞が!!」

俺のやり場のない怒りが漏れる。

そんな俺を心配してアスタとリスクが声をかけてきた。


(お兄さん、大丈夫?)(...無理はしちゃダメなの。)


あぁ...。ごめんな...。

一番辛いのはお前達なのに...。


(私たちは大丈夫。ソーマお父さんを信じてるから。)(...信じるの。)


お前達は強いな...。

わかった。俺もお前達のソーマお父さんがゼウスの支配から戻ってくることを信じる。


俺はその場から振り返りミア達の元へ歩いた。





「コウ...。」

「うん。もう大丈夫だ。心配かけてごめん。」

「ううん。良いの。私には何もできなかったし。」

「そんな事はない。ミアが無事に居てくれるだけで良かったよ。」

「ギリギリだったけどね...。」


自分の力のなさに肩を落とすミアに俺は頭撫でる。前世でもミアがトラブって落ち込んだときに俺はいつもミアの頭を撫でて落ち着かせていた。

「コウの手はいつも落ち着く。ありがと。」

頬を赤らめて照れてるミアは可愛かった。




ミアが落ち着いたところで俺はグスタフの前に行き回復魔法を掛ける。


完全回復パーフェクトヒール。」


優しい光に包まれたグスタフはみるみると火傷の後もなくなり顔色も元に戻る。

すると次第に意識を取り戻していった。


「...ここは。」


「グスタフ!!良かった~!良かったよ~!」


「ミ、ミア様?私は一体...?」


意識を取り戻したばっかりで何がなんだか分からないグスタフにプロペトが、


「お主はミカエルを抑えたときに、私の極限魔法を食らって意識を失ってたんじゃよ。

それをこの彼が魔法で治してくれたんじゃ。」


「いやいや、それほどの事でもないですよ。」


俺は頭をかきながら言う。


「それほどの事じゃろ。

完全回復する魔法なんて大神官か聖女クラスの職業じゃなければ使えない魔法じゃぞ。

そんな魔法を簡単に使えたり、ミカエルとのあの剣聖以上の剣技...。

ミアの婚約者殿は化け物じゃの...。」


ちょっとちょっと、お祖父様。

化け物は酷くないですか...。

人間離れしたステータスなのは認めますけど...。


「こ、婚約者...?この者が...ミア様の...。」


「そ!私の婚約者のコウよ!!

いい男でしょ!?私はコウが来るまでずっと待ってたんだから!グスタフにもずっと言ってたでしょ?

婚約者が居るって。」


「ミア様はただ結婚したくないから世迷い言を言ってるのだと思ってたんだが、まさか実在するとは...。しかも、これ程の回復魔法をお持ちだとは...。」


「挨拶が遅くなりました。

ミアの婚約者のコウ・タカサキです。」


「御丁寧に...どうも。私は魔人国アリュートの軍の総隊長のグスタフと申します。治して頂き感謝します。コウ殿。」


丁寧に受け答えしてくれるグスタフに好感持った俺は丁寧に応える。


「いえいえ、力になれたなら良かったです。」


「コウ殿はさぞ凄い職をお持ちになってるんでしょうな。将来のアリュートは安泰でしょう。」


「......ハハハ.。」


俺は愛想笑いしか出来なかった。

何故なら俺は無職だからだ。

無職だと知ったらグスタフやプロペトがどんな反応になるか想像するだけで少し怖い。

そんな中ミアが口火を切る。


「何言ってるの?コウは無職よ。

無職でSランク冒険者なの。」


「「なっ!?」」

グスタフとプロペトは驚き固まってしまった。


はぁ~。

言っちゃった。

今言わなくて良いような気がするんだけどな...。

ミアは昔からこういう時に空気を読まない。

というか気にしてないんだろう。

俺を信頼してなんだろうけどなんだかな...。


一気に気まずくなった3人はしばらく言葉が出なかった。

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