第167話、姉様が一番強い。


「アンタ!!ちゃんと反省してるの!?」


飛行船の待機ルームにリアの怒号が響きわたる。


「いやぁ、悪かったって。ついテンション上がってさ。」


「何がついよ!!あんな運転付き合ってたら私たちの命がいくつあっても足りないわよ!!

アルト様も何とか言ってください!」


「まぁまぁ、リア落ち着いて。

コウ君も悪気があった訳じゃないしさ。」


「だよな!流石はアルト!

俺の事を誰よりも分かってらっしゃる!

心の友よ~!」


「だけど..。ちょっとやり過ぎかな。

皆が納得するまで正座して反省しないとね。」


「そ、そんな~。」


それから2時間ほど正座をさせられた。

俺はその間にも探知の魔法を使いながら空から下の様子を探っていた。


「妙な気配がする...。」


俺の言葉に反応するようにヴォイスが念話をしてきた。


(マスター。そろそろ魔人国アリュートに着きます。ですが、この反応は...。)


あぁ...。

十中八九戦ってるな。

規模もデカイ。ただ気配が妙だ...。


(ですね...。ここら辺で飛行船の高度を下げますか?)


いや、いい。

俺が行く...。


「アスタ、リスク行くぞ。ラウルは人化を解いて俺と来い!」


「えっ?う、うん!」「...わかったの。」「わかった!」


「コウ君?急にどうしたの?」


アルトが急に立ち上がった俺に疑問をぶつけてくる。


「今、下で大規模な戦闘が起こってる。そこで俺が行って来る。」


「じゃあ、僕達も行くよ。」


「いや、皆はアリュートに行って様子を見てきて欲しい。

もしかしたら戦闘が始まってるかもしれないし。助けに行ってやって欲しい。俺も片付けてからすぐに行く。」


「わ、わかったよ。コウ君、気を付けてね。」


「ああ。アルトもな。みんなも十分の気を付けてくれ。」


俺の言葉に頷く。ただ一人ルシフェルを除いて。

ルシフェルは不気味な笑みを浮かべて俺に手を振っていた。

俺はヴォイスに念話で、


ルシフェルには気をつけろ...。

何かあったらすぐに報告をする事。


(了解しました。マスター、気を付けてください。)


ああ、任せろ。

ハッチを開けてくれ。


俺がそう言うと待機ルームからハッチが開く。


「じゃあ、後でな。

行くぞ!アスタ、リスク!」


「うん!」「...なの!」


俺達は勢い良く飛行船のハッチから飛び降りた。






▼▼▼▼▼




コウが飛行船から飛び降りる2時間前の魔人国アリュートにて。


ドタドタドタドタ......。


「姫ぇぇ!!姫様ぁぁ!!」


ドタドタと大きな足音を鳴らしながら大柄な男が顔色を変えて私の元にやって来た。


「なんだ!グスタフ!!騒々しい!

敵が向かっているんだろ!分かっている!」


大柄な男ことグスタフは片膝をつき、


「分かってらっしゃいましたか!!流石は姫様!!」


「お前は私を馬鹿にしているのか?

探知魔法で確認済みだ。」


「出すぎた真似をしました...。

今こちらに向かっている総勢2万のアンデットの大軍のほとんどが我が国の紋章が入った装備をしていることも分かってらっしゃるのですね。流石です。」


「はっ?...今何て言った?」


「ですから、こちらに向かっている総勢二万のアンデットが...。」


「その後!!」


「我が国の紋章が入った装備をしていると...。」


「間違いはないんだな...。」


「は、はい!」


「そうか...。グスタフ、直ちに我が国の精鋭部隊100人を門の入り口に集めよ。2万のアンデットを返り討ちにする。」


「ハッ!直ちに!」


グスタフは部屋を慌ただしく出て行った。

ミアの隣に座っているミアの弟、魔人国アリュートの王子は心配そうに、


「姉様...。また戦いに行かれるのですか?」


「カイン...。寂しい思いをさせてごめんな。

民を守るのも王族の務めなのだ。」


「僕も行きたい。僕だって強くなったんだ。

いつまでも姉様に守られていたくない。」


「カイン...。

その気持ちは嬉しいがお前はまだ幼い。

それにもし私がやられてしまったら民を誰が導く?導けるのは王族だけだ。

こればっかりは幾年の決まりだからな...。」


「姉様...。」


「私が帰ってくるまで、カイン。

この玉座を守ってくれ。

なに、私だってそう簡単にやられはしない。

カインも知っているだろ?私が強いのは...。」


「うん。姉様はこの国で一番強いもんね。」


「そうだ。それにもう少しで彼らが来てくれる。」


「彼ら?....もしかして姉様の婚約者っていう人?」


「ああ...。彼は強いぞ。私の何倍も。

カインもあったらきっと驚く。」


「驚かないよ!!そんなどこの馬の骨かわからないヤツより姉様が一番強いんだから!!」


「...カイン。」


ミアは優しくカインの頭を撫でる。


「カイン。彼にあえば分かる。きっとカインも気に入る。」


カインはそっぽを向いて、


「気に入ることなんかないもん。」


「嫉妬しておるのか?カインは可愛いな。

ほらこっちにおいで。」


ミアはカインを抱き締める。


「姉様...。どうかご無事に帰ってきてください。一人にはなりたくない...。」


「カイン、大丈夫だ...。

なんたって私は強いからな。」


「うん...。」


「よし行って来る。」


ミアはカインと離れ立ち上がる。


「ローレライ。居るか?」


「ハッ。ここに...。」


音もなくミアの前に現れた。


「頼みがある。」


「何なりと。」


「王家の墓が荒らされてないか見て来てくれ。そしてお主の部隊から信頼の置ける者をカインの護衛として何人かつけてくれ。」


「承知しました。では...。」


ローレライは音もなくその場から居なくなった。

そしてミアは歩き出す。

2万のアンデットと戦うために...。

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