第159話、嫌な予感。

俺とラウルはダンジョン前に居る冒険者達に別れを言い、レオンハート城に来ていた。


「衛兵さん。お疲れ様です。

今、ウィリアム王に謁見は出来ますか?」


「Sランク冒険者のコウ様ですね。少々お待ちください。」


衛兵はそう言うと通信魔道具ケータイ連絡を取ってくれた。


「なぁなぁ、アニキ~。」


「ん?どうした?」


「いつもこう城門から入らなきゃダメなのか?転移の魔法でパーッと王様の前に出ればいいのに...。」


ラウルは不思議そうな顔で聞いてくる。

俺もそうは思ってはいるんだけどな...。


「人間には色々あるんだよ。

ルールと言うか礼儀と言うか...。」


「ふーん。なんだかめんどくさいんだなぁ。」


まさにその通り。なのだが...。

ここは親友アルトの家だからな。

親友が無作法なんて事が他の貴族達に知れたら、アルトがまた何か言われるかも知れないし立場を悪くするのは良くないと思う。

まぁ、そんな事を言ってイチャモンつけてくる貴族はすぐに潰しにかかるが...。

そんな事を考えていると衛兵が、


「コウ様。ウィリアム王の謁見が可能です。」


「ありがとう。」


俺とラウルは城門を抜け王の待つ謁見の間に向かった。

そして、ウィリアム王の前に行き片膝をつき、


「ウィリアム王。魔族の討伐完了しました。

後から他の冒険者がギルドに報告すると思うので確認できると思いますが、いち早く報告したく馳せ参じました。」


「おぉ!!やってくれたか!

コウ殿!ありがとう!!」


「して、ウィリアム王。」


「ん?そんな神妙な顔をしてどうした?」


「他に魔族の発生したダンジョンはないでしょうか?」


「今の所はそんな報告はないな。」


「そうですか。なら良かった。」


俺はホッと安堵する。

何故ならのんびり出来るからだ。

アバドンに帰ってラウルの歓迎会もしたいし、今回は結構働いたと思うから少し位のんびりしてもヴォイスも文句は言わないだろう。


「して、コウ殿。今回の報酬だが。」


 そう言うと城の兵士達が宝箱を2つ持ってきた。


「一つは白金貨100枚。

もう一つは通信魔道具ケータイだ。」


「おぉ!!これが通信魔道具ケータイ!」


俺はケータイを手に持つ。

魔力を流すと電源が入った。

そして、画面を見る。

うん。これは完全スマホだ。

ご丁寧に使い方も前世と全く同じで使いやすい。


「どうだ。すごいだろ!?」


「はい!俺感動しました!!この時代にスマホが使えるなんて!!」


「...ん??スマホ??」


「あっ!?き、気にしないでください。

昔似たようなのがあって使えればな~。と思っていただけで...。」


俺はなんとか誤魔化そうと弁明する。


「ま、まぁ。喜んでくれたなら良かった。」


「あ、ウィリアム王。俺から一つお願いがあるのですが...。」


「なんだ?コウ殿のお願いなら聞ける範囲で聞くぞ。」


「この白金貨の半分を城の兵士の皆さんやレオンハートの冒険者達の強化に使って頂きたいのです。」


「そ、それは何故だ?

そんな事をしてもコウ殿に全く利益はないと思うのだが...。」


「いやなに、親友アルトの家族が住むこの王都を守ってくれる兵士や冒険者の皆さんが強くなってくれれば俺もアルトも心配にはならないじゃないですか。」


「そんな事を考えて...。」


「それに、剣舞祭が行われる時、強い者と戦いたいなぁなんて考えたりもしてて。

まぁ、自分の為っていうのが本音ですかね。」


俺はウィリアム王に本音を語る。

親友の兄だから嘘をつく必要もないが。

ウィリアム王は驚く顔していたが、フゥーと一息ついて真っ直ぐ俺を見た。


「コウ殿...。本当にありがとう。

一国の王としてもアルトの兄としても礼を言う。」


ウィリアム王は俺に一礼した。

回りの貴族や兵士達も王に習って、俺に一礼をした。

俺がその光景に戸惑うと、


「アニキ~。何でこの人達頭下げているんだ?何かの遊びか?遊びならオイラもするぞぉ~!」


なんて空気を読まないラウルの一言でどうなる事かと思ったが、王を含め皆が吹き出し笑った。

皆が笑ったことに不思議に思ったラウルは首を傾げている姿が可愛く映り俺はラウルの頭を撫でた。

そんな笑いに包まれた平穏はヴォイスからの念話がきて一瞬で消え失せてしまう。


(マスター!!緊急事態です!!

今すぐ戻ってきてください!!このままだとアスタとリスクが...。)


ヴォイスは切羽詰まった感じで俺に言ってくる。


(どうした?ヴォイス、少し落ち着け。)


(この状態を落ち着いてられますかぁぁ!!

アスタとリスクが壊されてしまいますよ!!)


は!?


俺は一瞬思考が停止してしまうが、頭を振り正常に戻す。

アスタとリスクが壊される?

誰に?


俺はとてつもなく嫌な予感が走った。


(すぐ戻る!!)


俺はヴォイスとの念話を切り、


「ウィリアム王!すまない!!

緊急事態が起きたらしくて今すぐ離れなければならない!この場で失礼する無礼を許してほしい。」


「わかった!急いで行ってくれ!」


ウィリアム王の言葉に頷き、俺はラウルと一緒にヴォイスの居るアバドンまで転移したのだった。


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