第154話、考えすぎか...。


俺は気を取り直して扉の奥を覗く。

気配探知にも生命反応なく殲滅は完了したのだろう。しかしながら熱い。

自分で燃やし尽くしたのだから当たり前だが...。


絶対零度アイシクル・ノヴァ。」


やや控えめに放った氷の魔法で部屋全体を冷やした。


「これで中に入れるかな...と。

ラウル?どうした、入らないのか?」


「兄貴...。オイラは少し入った所で待っててもいいかい?奥から嫌な気配がするんだ。」


「嫌な気配って、探知したけど生きている奴なんて居ないぞ?」


「うん...。それは分かっているんだけどさ...。

奥にいかない代わりにオイラ魔石を集めるからさ。いいだろ?」


「俺としてはありがたいけど...。わかった。

魔石集めは任せる。」


「うん。任してくれよ。

吸魔法。

ブラックホール。ターゲット、魔石。」


ラウルが魔法を唱えると次々と魔石がラウルの元に集まってくる。

便利な魔法だな。

言わずとも俺もしっかりと吸魔法を覚えた。

魔石集めはラウルに任して俺は部屋の奥に進んだ。

モンスターや魔族達はほとんど原形もなく燃やし尽くされている。

合体魔法は使いどころ間違えば国が滅ぶぞ...。

俺は自分で放った魔法に少し恐怖を覚えた。

歩きながらステータスも確認する。

すると、いつの間にかレベルは300を越していた。

十分の一の制約があるのだが、

ラウルとあって制約される前のステータスを軽く越していた。

これでラウルが制約を解除したら俺はどうなってしまうのだろうか。

俺自身がちゃんと力を制御できるのか少し不安になってしまった。


だいぶ奥まで進むと玉座らしき所についた。

玉座らしい所には魔族が黒こげで座っている。

うん。エグい。

そして、ふと手元を見ると剣が握られていた。

魔族も黒こげにしてしまうほどの灼熱の中あったのに全くの無傷。


「これは、魔剣か...?これで2本目...。

鑑定は...、やっぱり出来ないか...。」


鑑定・全でも鑑定できないってどういう代物だよ。

黒く鈍く光る剣を手にとって眺めるが特に何も起こる気配はない。


「考えすぎか...。」


俺は魔剣を収納して部屋の入り口に引き返した。引き返すと、


「兄貴~!!魔石集め完了したよ!

それにさっきまでの嫌な感じも無くなったけど、兄貴何かした?」


「いや、特に何もしてないぞ。

しいて言えば魔剣?を収納した位かな?」


「魔剣?何だそれ?」


「聞いた事ないのか?

俺も鑑定が出来なくてよくわからないんだけど、魔族が持っていた剣だから魔剣って呼んでいるんだけど。」


「ふーん。まぁ、嫌な感じしなくなってよかったよ。ところで...。この人達どうするの?」


この人達とは[銀翼の翼]のパーティーの事だ。


「起こして一緒に帰るしかないだろ。

こんな所に置いていって後で文句言われるのも嫌だしな。」


「そっか。人間ってめんどくさいんだね。」


「そうだな...。」


俺達は[銀翼の翼]のパーティーに声を掛け起こした。

ある者は俺の顔を見て恐怖に怯え、ある者は俺の顔を見てまた気絶をした。


こんな美男子が起こしたのに全く失礼な話だ。


俺が起こしても恐怖を感じるのならばと思い、ラウルに起こしてもらうと起こされた皆は安堵の表情を浮かべた。


本当に失礼なパーティーだな!!

と言いたかったがその一言でまた気絶されても面倒なので俺は黙った。

そんな中リバーグが俺に近づいてくる。


「コウさん。助けていただきありがとうございました。俺達あの数のモンスターを見て気絶してしまい本当に不甲斐ない。」


「無理もないさ。

恐怖を知ることは良いことだ。

そして、そこから踏み出す一歩でまた世界は変わる。

これからは慢心せずに精進すればお前達はもっと強くなる。頑張れ。」


「はい。ありがとうございます。」


ここのダンジョンに来て一番変わったのはリバーグだろう。

死線を乗り越えることで強くなる。

彼らもそう遠くない未来、Sランク冒険者になれる俺はそう思った。


「それでコウさん...。この魔族の魔石なんですが...。」


リバーグの手に持っていた魔石は、ラウルが手を貸したとはいえ[銀翼の翼]が倒した魔族の魔石だった。


「それはお前達が頑張って倒した魔族の魔石だろ?お前達が持って行けよ。俺は大丈夫だからさ。」


俺はここに来るまでに倒した魔族と部屋に居たモンスターと魔族の魔石をたんまりと持っている。ここで俺が貰うなんてがめつくカッコ悪い事なんて出来ない。

俺はカッコいいのだ。

うん。

....やっぱりヴォイスのツッコミがないと寂しいな。

ってヤバい!

ホウ・レン・ソウをすっかり忘れていた!!

でも、特に何もなかったから大丈夫だよね?

俺は少し冷や汗をかきながら、


「ここの用事も終わったしそろそろ出ようか?」


「そうですね。ところでコウさん顔色が優れないようですが...?」


「だだだ、大丈夫!!ちょっと我が家が怖いだけだから....。」


「そ、そうですか。大丈夫なら帰りましょう。帰りはカリンの脱出魔法で帰るので近くに寄ってください。」


俺はリバーグに促されて、カリンの近くに行く。


「い、行きますね。|ダンジョン脱出《エスケープ

》。」


カリンが魔法を唱えると一瞬でダンジョンの外に出た。

外はもう日が暮れ始めていた。


「英雄様と[銀翼の翼]の帰還だぁ!!」

「魔族達はどうなったんだ?」

「倒したのか?どうなんだ?」


外で待機していた大勢の冒険者達が問いかけてくる。するとリバーグが、


「魔族はダンジョンから全て殲滅された。

コウさんが倒してくれたのだ!!」


そう高らかに声をあげた。

冒険者達は歓喜に沸く。

そして俺に称賛の嵐が舞ったのだった。


「兄貴はすごい人気だね!」


「だろ?」


「だけどなんだろう?女性はほとんど居ないね。」


「それは言わないでくれ。悲しくなる...。」


優しく照らす夕日の光が俺の胸に染みたのだった。



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