第151話、ラウルの力の一端。
俺とラウルはダンジョンの前に来ていた。
そこには歴戦の冒険者達が陣を取っていた。
鑑定してみるとレベル100に満たない者達がほとんどだった。
その中で金髪でいかにも貴族風な冒険者が俺に近づいてきた。
「あ、あのSランク冒険者のコウさんですよね?」
金髪の冒険者は笑顔で聞いてくる。
しかし、その目の奥は笑っていない。
俺は何食わぬ顔で、
「あぁ。そうだけど君は?」
「俺はAランク冒険者のリバーグっていいます!コウさんのファンです!握手してください!!」
リバーグは俺に手を差し伸べるが、俺は握手をする気はなかった。
何故ならこの冒険者は明らかに敵意をむき出しにしていたからだ。
俺は前世で飲食店をしていて人と沢山関わってきた。
その中でも俺の事をよく思ってない人も居たわけだが、そういう人の特徴とこのリバーグという冒険者はよく似ていた。
いい顔して寄ってくる奴には気を付けろって事だ。
「ごめんな。
今は握手とかしている場合じゃないだろ?」
俺がそう言うとリバーグは手を下げて、
「そうですね...。ッチ。」
俺に聞こえないように舌打ちをしてきた。
やはり信用出来ない奴だ。
「コウさんはこのままダンジョンに行くのですか?」
「あぁ。行くよ...。
ダンジョン内の魔族を殲滅するのが俺の依頼だしな。」
「俺達も付いて行っても良いでしょうか?
これでも俺達はレオンハートでは結構有名な冒険者パーティーなんですよ。
パーティー名は[銀翼の翼]。
コウさんも聞いたことぐらいはあるんじゃないですか?」
リバーグはニタニタした顔で聞いてくる。
「いや、知らないな。
俺はあんまり他の冒険者とは絡みもないし、興味もないからな。
そして俺に付いてくるのは困るけど、
どうしてもと言うなら勝手にすればいい。
ただし自分達の身は自分達で守れ。
それが冒険者だろ?」
「俺達[銀翼の翼]を知らないだと...?
どこまで俺達をバカに...。」
俺はラウルと一緒に[銀翼の翼]のパーティーの前を通りダンジョンの中に入っていく。
その少し離れた後ろから[銀翼の翼]の冒険者達が付いてきていた。
「兄貴...。あいつら大丈夫っすか?
力を制限されている兄貴よりだいぶ弱いんだけど。」
「気にしなくていい。
あいつらの狙いは多分俺だからな。
どうせ俺が魔族を倒したら手柄を狙って俺を狙ってくる算段でも考えているんだろ。」
「いやいやいや、狙われているのに何でそんなに落ち着いてるんですか?
おいらには分からないよ。」
「まぁ、これから魔族と戦えばまたレベルが上がるし
それよりラウル。お前は戦えるのか?」
「オイラは....。
ん~、出来れば戦いたくはないな。
でも足手まといにはならないから安心はしてほしい。」
「そうか...。」
「それとこのダンジョンは何かオイラにとって嫌な匂いがする...。何だろう?」
アスタとリスクが言っている独特の匂いの事なのか...?
そうなればここの魔族の長も魔剣持ちって事になるよな...。
まあ、何とかなるだろう。
「その匂いは多分、魔剣の匂いだろうな。
俺の所持している聖剣がそう言ってたから。」
「これが魔剣の匂いか...。
かなり臭いんだね...。ちょっと吐いちゃうかも。」
「いやいや、腕輪のラウルがどうやって吐くんだよ!!さすがにつっこむわ!」
「兄貴!!その言い方はひどいよ!!
今オイラは人化しているんだから、ほとんど人間と同じ機能なんだよ!
それなのにそんな言い方は...。」
ラウルは涙ぐみながら俺を見てくる。
「うっ...。じ、人化ってそうなんだ...。
ラウル、なんかごめんな。俺知らなくてさ。」
「わかってくれたならいいよ...。」
そんな会話をしながらダンジョン内を歩いていると前から気配を感じた。
それと同時にスキル[隠密]で気配を絶つ。
俺とラウルは近くに来るまで身を隠して待った。
すると魔族達の会話が聞こえてくる。
「明日が楽しみだな!やっと人間の街を襲えるぜ!!」
「だな!これでこんな巡回なんてしみったれた役目からおさらばできるぜ!!沢山人間を殺して幹部にしてもらおうぜ!!」
「おう!!そうだ!どっちが人間をより多く殺せるか勝負しようぜ!!勝った方は酒を奢る。どうだ?やるか?」
「いいぜ!お前には絶対負けないがな!!」
「よく言うぜ!何にしろ明日が楽しみだな!」
「あぁ!がははは!!」
...お前達に明日は来ないがな。
俺はただの2本の鉄の剣に風の魔法を付与した。
[隠密]のスキルが聞いている今、2人の魔族は俺に全く気付いていない。
俺はグッと足に力を入れる。
[瞬歩]で一瞬で魔族に近づき、首元に狙いを定める。
腕をクロスさせて斬擊を放つ。
「一閃。」
魔族達の頭がポロリと落ちる。
斬られた事もわからない。
その顔は笑ったままだった。
俺は魔族の死体を放って先に進んだ。
レベルも一気に10上がっていた。
これがラウルの力か...。
このダンジョンにいる魔族を殲滅したらどれだけレベルが上がるのだろう?
そう考えるとワクワクする。
俺は足取り軽くダンジョンを進んだ。
「兄貴待ってくれよ~!歩くの速いよ~!」
「悪い悪い!
レベルが一気に上がってテンション上がってしまってさ!ラウル、お前すごいな!!」
「だろ!?オイラはすごいのさ!!」
ラウルはテヘヘと満面な笑みで照れていた。
なんか可愛いな...。
弟がいたならこんな感じなのかな?
悪くない...。
俺の中でラウルの評価が爆上がりしたのだった。
その頃[銀翼の翼]は、
「何なんだアイツは?
動きが全く見えなかったぞ。」
リバーグはコウの動きに驚愕していた。
「リバーグ。もう止めようぜ!!あんな化け物に絶対勝てないって!!」
「そうよ!返り討ちに合うのがオチよ!
殺されるかも知れないのよ!」
「うるさい!うるさぁぁい!!
絶対なんかカラクリがあるはずなんだ...。
お前達この先もアイツに付いて行くぞ!!
あの強さの秘密を暴いてやる!」
他のパーティーメンバーは黙る。
リバーグは[銀翼の翼]の顔であり、レオンハートの貴族の息子であった。
リバーグに逆らえばこの先レオンハートで目をつけられ冒険者を続けられなくなる。
パーティーメンバーの誰もがリバーグに逆らえなかったのだ。
重い足取りで[銀翼の翼]はコウの後を追って歩き出した。
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