第148話、大事な事だよ。ホウレンソウ。
天気が良い昼下がり。
俺はソファーでマッタリ。
平和だ。この平和はいつまで続くんだろうか?
ヴォイスはせっせと部屋の掃除をしているし、アスタとリスクは2人で元気に遊んでいる。
そして、アルトやボロック達はまだ来ない。
やることがない。まさに平和の極みなのだが...。
「あぁぁぁ~!!暇だ!暇!
ねぇ、ヴォイスさんや。暇で暇で死にそうなんだけどどうすればいいかな...?」
「暇で暇で死にそうなら、ギルドに行って仕事でももらってくればいいんじゃないんですか?」
「えぇぇぇ~!!
仕事なんてしたくないよぉ!!
ダラダラしたい!グータラしたい!」
「いやいや...。
もうマスターは充分にダラダラ、グータラしてますよ。」
ヴォイスは呆れた顔で言う。
「ダラダラ~!!」「グータラなの。」
アスタとリスクも俺の真似をし始めた。
「アスタ。リスク。
あんな引きこもりのニートを真似してはいけませんよ。アレを真似してたらろくな大人にならないですから。」
「引きこもり~!」「ニートなの。」
「失礼な。俺だって働くときは働くよ~。
ただ、今日は動く気がないと言うかなんと言うか。」
「その言葉、昨日も一昨日も言ってましたよ。今ごろ他のパーティーメンバーは強くなっているだろうに...。
いつからそんな自堕落な人になったんだか...。
ミア様に報告するのが頭痛くなります。」
「へ!?ヴォイス、お前ミアに報告しているの?」
「していますよ。定時報告ですね。
マスターが変な気を起こさないように連絡することって制約を受けてますから。」
「おいおいおい!
そーいう大事な事は早く言ってくれよぉぉ!!
絶対怒られるじゃん!」
「それはマスターの自業自得だと思いますよ。私はあくまでも本人がやる気を出すまで見守れとの事なのであんまり言わなかったんですが...。ここ最近のマスターは流石にだらしなさすぎです。」
ヴォイスが母親のような小言が続く。
出会ってからヴォイスはどんどん変わってしまった。
最初はナビゲーターとして、だんだん恋人みたいになり今では旦那に呆れている熟年夫婦のような会話だ。
どうしてこうなった?なんて事は思わない。
原因は間違いなく俺なのだから。
「....わかった。わかったよ。
ギルドに行って何か依頼がないか見てくるよ。」
「それでは私達も準備しますよ。」
「いや、今回は一人で行く。
最近、常に一緒に居すぎて俺が
これ以上ダラダラしてヴォイス達やミアに嫌われるのも嫌だし。」
「....そうですか。マスターがそう言うなら今回は付いては行きませんが、なにかあったら直ぐに念話で報告してくださいね。ホウ・レン・ソウですよ!わかりました?」
「わかったよ。」
ホウレンソウとは報告、連絡、相談だったか。
苦手だな。
前世でも組織に馴染めなくて一人で店をやっていたわけだし異世界に来てまで言われると思わなかったが、ヴォイスが言うなら仕方ない。
俺は冒険者の格好をして家を出た。
外に出ると日差しが眩しい。
久しぶりにお天道様に挨拶をしてギルドに向かった。
その途中、
「旦那。そこの格好いい旦那。」
商人風の男が俺を見て手招きをしながらそう呼んで来た。
「行商人か...。俺を呼んでどうしたんだ?」
「私は旅の行商人なんですけどね、旦那。
見るからに歴戦の冒険者って感じじゃないですか。その佇まい普通じゃないと思いましてね。」
そんな風に言われて俺もまんざらでもない。
「コホン。それで俺を引き留めてどうしたんだ?」
「旦那に見てもらいたい商品がありましてね。」
「俺に?」
「えぇ。これなんですけどね...。」
そう言って取り出した商品は綺麗な装飾を施された腕輪だった。
鑑定をしてみる。
すると、武神の腕輪と書いてあるが能力について一切見れなかった。
鑑定・全の力を持っても見れないとはどんな腕輪なんだ?
「これは?」
俺は白々しく商人に聞く。
「これは武神の腕輪と言うもので、
この世界に崇められている四大神の一人。
武神ヘラクレス様がこの世界に置いたと言われる
「それを何故俺に見せてくる?
俺がこの腕輪を買うと?」
「そうですね。この腕輪は並みの冒険者では身に付けても何も起こらないのです。
失礼ながら、私
そうしたら、レベル100オーバーのSランク冒険者の貴方様が現れたのでお声掛けさせてもらったのです。」
この商人ただ者じゃないな...。
俺のステータスは隠蔽スキルで隠しているはずなのに見抜けるほどの鑑定スキルを持っている。
油断ならない。
俺の中で緊張感が増す。
「そんなに殺気を出さないでください。
私は鑑定スキルを持っているに過ぎない旅の行商人なんですから。
ステータス見てわかるでしょ?」
この商人のレベルは20。
ステータスも冒険者より低い。
鑑定・全を持っているが後はこれといって有能なスキルがある訳じゃない。
「して、俺にどうしろと?」
「買っていただきたく思いますが...。
どうでしょうか?金貨10枚で。」
「金貨10枚?武神のアーティファクトなのに何故にこんなに安いんだ?
胡散臭すぎるだろ。」
「いやぁ、冒険者の街と言われて来たんですけども、冒険者の方達に何にも売れなくてですね。
旅の資金も切れそうなのですよ...。」
「それこそ装飾も綺麗なんだから貴族にでも売ればいいんじゃないか?怪しすぎるぞ...。」
「そうしたいんですけど、この街には貴族が少ないじゃないですか。
次の街に行きたいんですけど、何しろ先立つものが無いと行商も出来ないんですよ...。」
怪しさ満点だが武神の腕輪か...。
腕輪に呼ばれている気がする。
「わかった。買うよ...。ホラ。」
「だ、旦那!これは貰いすぎですって。」
「行商続けるのに何かとお金はかかるだろう?もらっておいて損はないんだからもらっておけって。」
「あ、ありがとうございます!!
このご恩は決して忘れません!
またどこかでお会いしましたらご贔屓にしてください。それでは、コウ様。失礼します。」
そう言って商人はそそくさと去っていった。
あっ!?
ヴォイスにホウレンソウするの忘れた...。
完全に怒られるじゃん。
しかも、格好つけて多目に払っちゃったし。
まあ、いいか。
これから仕事しに行くし、文句は言わないでしょう。
そう自分に言い聞かし、武神の腕輪を装備してギルドに向かった。
それにしても去り際に俺の名前を...。
まあ、鑑定・全でステータス視たからわかるか...。
俺はスッキリしないが納得した。
その頃商人は、
「えぇ...。
言われた通りにコウ様に腕輪を渡しましたよ。
えぇ...。
あの方は懐が深いし寛容ですね。
非常に好感を持てました。
さすが
えぇ。ではまた、お願いします。」
商人は通信魔道具で誰かと話ホクホク姿で次の街に向かっていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます