第141話、びびって損した。


準備を整えた俺たちは精霊の森の近くに飛んで来ていた。

久しぶりの冒険者としての仕事に気合いが入る。


(マスター。あそこの木の影に見える洞窟がダンジョンではないですか?)


あぁ。あれか。

俺はダンジョンの入り口に降り立った。


(お兄さん、もう人化していい?)

(窮屈なの。)


ま、まあ。いいだろう...。

っていうかこの子達は聖剣の癖にやたら人化したがる。

本当に変わっている聖剣達アスタとリスクだ。

制作者のソーマに似たのだろう。

そう思うと納得できる。


(マスター。私も人化しますね。)


あぁ...。

ヴォイスはずっと人化したかったのだからいい。俺の魔力のストックにもなっているし。

まぁ、考えても仕方ないか...。


「お兄さん、この洞窟なんだか禍々しい気が流れてるよ。」

「うん。嫌いな感じなの...。」


「ん?俺には何も感じないけど。

ヴォイスは?」


「私も特には感じないですね...。」


このダンジョンには何かがあるのだろう。

聖剣のアスタとリスクが感じる何かが...。


「気を引き締めていくぞ。」


俺を先頭にダンジョンに入っていった。

少し歩くと大きな空洞とその先には遺跡風な建物とその入り口に大きな扉があった。

モンスターの気配もなく不気味な感じだった。


「扉を開けるからいつでも戦える準備をしておいてくれ。」


「はい。」「わかったよ。」「なの。」


緊張感に包まれながら、入り口の扉をそっと開けた。

すると、大きな広間にびっしりとモンスター?が並んでいる。

そしてその奥の祭壇には人型のモンスター?が演説をしていた。


「いいかお前ら!!

我ら魔族は今日を持ってこの人間がのさばる世界を掌握する。」


「流石、フィルター様!!付いていきます!!」


「我らはここを拠点に次々と街を襲い、

木々を燃やし我らのユートピアを作る。

他の奴等に後れをとるなよ。

魔王になるのはこのフィルター様なのだからな!!」


「ウオォォォォーーーー!!

フィルター様ァァァ!!」


演説の熱気が離れた俺達の所まで届いていた。

俺達は気配遮断の魔法を使っているからまだ気付いてないみたいだ。

それにしてもこの数は異常だ。

少なくみても2000、いや3000人の魔族が居る。

これ程の数をどうやって....。

っていかん、いかん。

こんなことを考えてる場合ではない。

何か手を考えないと...。


「お兄さん...。あの祭壇に乗っている奴の剣が。」


「ん...。剣がどうした?」


「魔剣なの...。」


「魔剣?なるほどだからアスタとリスクが禍々しく感じた訳か...。」


聖剣と魔剣は対になっているってことだよな...。

それがダンジョンに入る前から気付いたと...。

ん?

ちょっと待て。

それってまずいんじゃ...。

こっちが気付いたって事は相手も気づいてるんじゃ...?


俺は祭壇の魔族を見る。

するとニヤニヤしながら演説を続けた。


「ん~。匂うな~。

臭い臭い~。

人間の匂いとひじりの匂いがする。

この場にクソ蝿が紛れ込んでいる。

お前ら探しだして俺の元に連れてこい!

連れて来たヤツには我の直属の幹部にしてやるぞぉ!!」


「ウオォォォォォ!!俺が一番だ!!」

「俺だぁぁ!!」

「どこに居やがる!!出てきやがれぇぇ!!」


3000の魔族達が一斉に振り返り俺達を探し始めた。

クソ...。

罠だったか... 。

わざと魔剣の力を出して俺達を中に招いたのか。

この数勝てるのか?

魔族のレベルも一人一人が100をゆうに越えている。

怖じ気づいても仕方がない。

俺達を探している間に先手必勝だ。


「先手必勝で行く!!

ヴォイス一緒に魔法を打つぞ!

崩落とかの危険性があるから氷系で行く!!

同調シンクロする事を意識してくれ。」


「はい!!」


「アスタとリスクは討ち漏らした魔族を狩っていってくれ!

決して無理はするなよ!」


「了解!任せてよ!!」「頑張るの!!」


よし。

俺はヴォイスと手を繋ぎ呼吸を合わせる。


同調シンクロ

同調率100%を越えることが出来れば魔法の効果が5倍から10倍に跳ね上がる。

しかし、100%以上になったことまだない。

良くて半分の50%だ。

それでも2倍以上の威力が出るから遠慮なく使う。

ヴォイスと目を合わせ、魔力を合わせていく。

元々俺の魔力の多くでヴォイスを造っているから合わないわけはない。

後は心の同調シンクロだけだ。

お互い意識を擦り合わせる。

すると、目に見えるほど2人のオーラが白く輝き始めた。


「居たぞぉぉ!!あそこだぁぁ!!」


3000という数の魔族が一斉に襲いかかってきた。

焦ることはない。

距離は十分取ってある。

もう少し...。もう少しだ...。


「お兄さん!!まだ!?」

「敵はもう目の前なの...。」


もう少しなんだ...。


「ヒャッハァァーー!!

俺が一番乗りだぁぁ!!」


敵はもう目の前まで来てた。

そして攻撃をしてこようとした時。


「来た!!

アスタ!リスク!俺の後ろへ回れ!」


「うん!」「なの!」


広範囲極限絶対零度アルティメット・アイシクルノヴァ!!」


魔法を放った瞬間、大きな空間は一瞬にして凍りついた。

もちろん魔族達の大半も何が起きたかわからないまま凍っている。


あれ?



コイツら弱くね?



焦って損したぁぁ!

なんかさっきまで俺で勝てるのか?なんて思ってたのが馬鹿馬鹿しくなる。

むしろなんかムカついてきた。

あの祭壇に居るヤツで憂さ晴らししよう。

うん。それがいい。そうしよう。



「アスタ!リスク!

まだ仕止めきれていない魔族の止めを頼む!ヴォイスはアスタとリスクの補助を!

俺は祭壇のヤツを殺る!」


「はい!」「わかったよ!」「なの!」


俺がそう言うと皆は迅速に動いて行った。

俺は瞬歩で一気に祭壇まで駆け上がる。


「よう。

人間にしてやられる気持ちはどうだ?」


「たかが人間の分際でここまでの力を...。

貴様...何者だ!」


「俺はしがない人間の冒険者だよ。

それでさっきはなんだって?

人間の街を滅ぼしてユートピアがなんちゃらって言ってたけど、

この程度で何言ってるんだ?

人間舐めるのもいい加減にしろよ。」


「き、貴様。この俺を誰だと思ってやがる。

魔王候補のフィルター様だぞ!」


「魔王候補?へっ。笑わせてくれる。

魔王候補ってことは魔王じゃねーじゃん。」


「う、うるさい!!

これから魔王になるつもりだったのに...。

貴様が、貴様が...。」


「いやいや、俺程度の人間にしてやられるヤツに魔王の器はねーって。

お前はお風呂場の髪を取る位のフィルターで充分だ。

なっ?フィルター様!」


「言わせておけば...。

何言ってるか分からんが確実にバカにされたのだけは分かったぞ...。」


フィルターは唇を噛みながらフルフルしている。それと同時にフィルター魔力が上昇していく。


「人間風情が!!死ねぇぇぇ!

暗黒獄炎ボルケーノ!!」


フィルターから放たれた暗黒の炎が俺を包んだ。


「ふはははははは!!

我が最強の魔法、暗黒獄炎ボルケーノを喰らって生き残れた奴は誰一人いない。

あの世で俺に出会ったことを後悔しろ。」


うーん。

これが最強魔法?

低温サウナ位にしか感じないんだけど。


むしろ心地いいんだが...。

それにしても、魔族も大したこと無いんだな...。


「ふはははは!!我、最強なり!!

ふはははは!!ふはははは!!」


「何がそんなに可笑しいんだ?

お前は笑い袋ですか!?」


俺は炎の中を何事もなかったかのように出てくるとフィルターの笑っていた顔が笑ったまま固まった。


「なななっ!?」


「デデーン!フィルター、タイキック!」


俺はそう言って驚きで固まってるフィルターの尻を蹴った。


「ぐあぁぁぁぁ!!ウオォォォォ!!」


目が飛び出るかのような痛がりかたに思わず笑いそうになる。

ここで俺まで笑ってはいけない。


「フィルター、魔法ってこう打つんだよ。」


「ふぇえ?」


暗黒獄炎ボルケーノ。」


俺はフィルターの魔法をミヨウミマネして放った。

フィルターの魔法の約10倍。

圧倒的な魔力の暴力。


「そ、そ、それは私の最強のまほ...。ぎゃぁぁぁーーー!!!」


一瞬でフィルターは消し炭になった。

笑わせてくれてありがとう。

いいリアクションをありがとう。

フィルター...。

君の事は忘れ...いやすぐに忘れる。

俺はせめてもの気持ちに合掌した。


「マスター!終わりました。」

「頑張ったよ!」「いっぱい倒したの!」


「みんなお疲れ様。よく頑張ってくれた。」


「お兄さん...。そこに落ちてる剣どうするの?」

「ひどく臭いの。消して欲しいの。」


「剣?

あぁ...。フィルターが持ってた魔剣か...。」


フィルターが消し炭なったのに魔剣は残ったんだな...。

中々の業物かもしれないな...。

ソーマに持っていったら喜びそうだ。


「持って帰るか。」


「えぇぇーー!!お兄さんバッチィー!!」

「お兄さん不潔なの!汚いの!!」


え...。なにその言われよう...。

なんか心にダメージ負うんですけど...。


「ギルドマスターに討伐証明しなきゃだろ。

それが終わったらソーマにでも見てもらう。

空間収納するから匂いも残らないだろ...。」


なんとか2人は納得してくれたが、聖剣と魔剣は相性最悪な様だ。


「よし、仕事も終わったし帰ってギルドに報告してご飯にしよう。

こんなに早く終わるとは思ってなかったから材料はたんまりあるしな!!

腕によりをかけるから楽しみにしてくれ!!」


「わーい!!お兄さんのご飯楽しみ!!」

「いっぱい食べるの!期待してるの!」

「マスターのご飯楽しみです!」


俺達は転移の魔法でアバドンの冒険者ギルドに行きギルド長のイカロスに報告をした。

もう、終わったの?

って顔をしてたが討伐証明に魔剣を見せて鑑識に回され魔族の物と判明したところで報告終了となった。

魔剣を出したときのアスタとリスクの顔が酷く歪んだのは言うまでもない。

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