第139話、ニートは重い腰を上げる。
アバドンに帰ってきてから一週間がたった。
久しぶりに何も考えずのんびりしている。
好きなだけ寝て好きなだけ食べて、また好きなだけ寝る。
夢のニート生活。
ゴロゴロ~。ゴロゴロ~。
あぁ...。
幸せだ...。
「マスター...。いい加減ゴロゴロするの止めませんか?」
「えぇ...。いいじゃん。こんなに休むの久しぶりだし。」
「ダメです!!
このままだとマスターがどんどんダメ男になってしまいます!
ミア様になんて言えばいいか...。
今日はギルドに行きますよ!!
グータラ生活は終わりです!」
ヴォイスが鬼気迫る顔で言ってくる。
俺はヴォイスの為に休みを取った様なもんなのにな...。
「えぇ...。明日からにしない?
うん。今日はテンション上がらないし。」
「ダメです!!
絶対今日ギルドに行ってクエスト受けますよ!!」
「何でそんなに働かしたいんだよ...。
アルト達が帰って来てからでいいだろ?」
「アルト達も努力して魔法を覚えているのに、私達だけ毎日こんな自堕落な生活して恥ずかしくないんですか!?」
「本当にお兄さんはダメ男だね...。」
「こういう男は選んだら終わりなの...。」
ヴォイスに続きアスタとリスクも酷いことを言ってくる。
たった一週間だらだらしただけなのに...。
「わかったよ...。
行けばいいんだろ?行けば...。」
「分かればいいのです。
ほら早速準備してください。
そんな寝巻きみたいな格好だと、一緒に居る私たちが恥ずかしいんですから。」
「はいはい...。」
俺は乗り気じゃないが着替え始めた。
大体、そんなヤバそうな依頼なんてないだろうに...。
なんかあったらギルドから手紙か人が来るだろ?
それまで待ってたらいいと思うんだよ...。
俺は一週間の自堕落な生活でスッカリ気が抜けていた。
着替えて冒険者ギルドに向かう。
ギルドに向かう道中ではみんなに挨拶される。
俺はニコニコと愛想笑いを浮かべながら歩く。
そして、ギルドの扉開けるとそこに居る冒険者達が一斉に俺達を見てきた。
「うおぉぉぉー!!英雄様だ!!
カッケェェェーー!!」
「英雄様はなんの依頼受けるんだろう!!
気になるぅぅぅ!!」
俺がギルドに入っただけでこの盛り上がりだ!しかも男だけに!
女子はふーんって感じで興味無さそうだった。
別にいいんだけどね...。
そんな事を思っているとギルド嬢が近づいてきた。
おやおや?
もしかしてサインとか頼まれちゃう?
俺にもとうとう女子からモテ期が...。
「コウ・タカサキ様!ギルドマスターがお呼びです。付いてきてくれませんか?」
ですよね...。
モテ期は来ないですよね...。
わかってたさ。
チラッとヴォイス達を見るとジト目で俺の事を見ていた。
そんな目で見るなよ。悲しくなっちゃう。
「あ、あのコウさん?」
「あ、すいません。案内してください。」
俺達はギルド嬢に案内してもらいマスターの部屋まできた。
コンコン。
「ギルドマスター。コウ様一行をつれてきました。」
「おう、入ってくれ。」
俺は部屋に入ると久しぶりにイカツイギルドマスターのイカロスの姿があった。
「久しぶりだな。コウ。」
「イカロスさん。久しぶりです。」
「 お前がSランクになってくれて俺も鼻が高いよ。国からギルドの運営費もアップしたしな。ありがとう。」
「そうなんですか?役に立てたならよかったです。」
「お陰で地下の闘技場をリニューアル出来たぜ!!時間があったら見に行くといい。」
「はい。それで、ここに呼んだ理由って他にあるんですよね?」
「あぁ。2つ程ある。
とりあえずこの2通の手紙をラテに届けて欲しい。」
俺はイカロスから2通の手紙を受け取った。
宛名はわからないな?誰だコレ...?
「コウは分からないだろうな。
ラテは実はエルフと獣人との間に産まれた子なんだ。」
「それは知っていますけど...。」
「ラテの親は恋に落ちて結ばれたからいいんだが、ラテの親の親。
祖父達がエルフの長と獣人の長なのだよ...。
多分、長同士が喧嘩でもしたのだろう...。
年に1度位は両者から手紙がくるんだ...。」
「両者の喧嘩を止めるためにラテにこの手紙を渡せと。」
「そうだ。うちのギルドもお世話になっているからな...。」
「わかりました...。それでもう一つは?」
イカロスはうーんと難しい顔をしている。
「あ、あの。イカロスさん?」
「またコウに甘えてもいいものか...と考えているんだ。今回は確かな情報ではないからな...。」
「全然言ってください。
乗り掛かった船なんですから俺が出来ることならしますよ。」
「そう言ってもらうと助かる。
場所なんだが、精霊の森の近くのダンジョンだ。」
「精霊の森って、リアの故郷のあの場所か...。
ってかそんな場所にダンジョンなんてありましたっけ?」
「なんじゃ知らんのか?
まぁ、知らないのも当然か...。
コウ達が王都に出発してから1か月後に突如現れたダンジョンなんだ。
ダンジョンが突然現れるのは珍しいことではないんだが、
中に入ったAランク冒険者のパーティーが命からがら逃げてきて魔族がいたと言うんだ。」
「Aランク冒険者が歯が立たない魔族か...。
ヴォイス...。俺達だけで勝てると思うか?」
「マスター。愚問ですね。
私達に勝てない者など、そう居ないでしょう。」
どこからそんな自信が。
俺はそんなに自信はなかったんだがな。
アスタとリスクを見ても早く戦いたいみたいな顔をしているし...。
みんな戦闘狂なのね。
俺も戦うのは好きだけど...。
「イカロスさん。その依頼受けましょう。
任してください。」
「おぉ。ありがとう!頼む!」
イカロスは深く頭を下げた。
「頭を上げてください。冒険者として当たり前ですから!」
「あぁ。何があるか分からないから充分に準備してから行くのだぞ。」
「はい!」
って言っても必要なのは食料位だろうな。
「ヴォイス。アスタとリスクを連れて準備してくれ。俺はこの手紙をラテに届けてくる。」
「了解しました。」
そう言ってヴォイス達は部屋を出た。
「ではイカロスさん。吉報を待っててください。」
「あ、あぁ...。どうやって行くのだ?」
「ん?転移魔法で行ってくるので秒で着きますよ。では...。」
そう言って俺はスノーフリーデンへ転移した。
「何でもアリだな...。こりゃ...。」
イカロスは驚きソファーに深く座り込んだのだった。
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