第129話、俺はそれを許すことは出来ない。



俺たちは今トカレフ将軍と会食をしている。

なぜかトカレフ将軍は俺をチラチラ見てるのが、凄い気になる...。


「あ、あのさ。トカレフ将軍。」


「な、なんでしょうか?」


「そのチラチラ見るの止めてくれない?

気になってしょうがないんだけど...。」


「す、すみません。」


「トカレフ将軍...。こちらは私の愛するマスターです。変な色目を使わないでいただきたい。」


にこやかなヴォイスの顔だが、目が笑っていない。

むしろ、ヴォイスの後ろに見えてはいけない般若のオーラ見たいのを感じるのだが...。


「このワイバーンコウくんが取ってきたんでしょ?モグモグ。やっぱり美味しいね。

この味付け最高だよ!!モグモグ。」


ソーマは相変わらず緊張感がない。

それが今は助かっているが...。


「トカレフ将軍...。帝国の王はどんな人なんだ?」


「我が帝国の王シェイクナー様はいい王様だよ。シェイクナー王は争いなどが嫌いな王で、こんな風に戦争を起こすような王ではなかった...。」


「そうか...。

ならシェイクナー王はもう洗脳...いや乗っ取られているな...。

様子が変わったのはいつからだ?」


トカレフは神妙な顔をし、


「様子が変わったのは1ヶ月位前でした。

いきなり兵士を徴兵したり、装備を大量発注したりして軍備を整え始めましたね。

そして雰囲気も変わりました。

しゃべり方など荒々しくなったり...。」


「そうか...。

1ヶ月も前から...。トカレフ将軍...。

心して聞いてくれ。」


「はい...。」


「残念だがシェイクナー王はもう助けられないかもしれない...。」


「そうだね...。完全に乗っ取られてしまうと、僕の解呪魔法でも難しい...。もし身体から追い出したとして心が残っているとは思えない...。」


「そ、そんな...。」


俺とアルトの言葉にトカレフ将軍はうなだれる。

しかし、これは現実だ。

俺達は神でも聖人でもない。

治せないこともある。


「本当に残念に思うが、それでも帝国を元に戻す為に俺たちはシェイクナー王を討たなければならない。それはわかってくれるか?」


「は、はい...。....しかし、これではラウド王子は天涯孤独になってしまう。

ラウド王子の気持ちを考えると不憫でなりません...。」


「王子?それに天涯孤独って?」


「はい...。シェイクナー王には王妃が居たのですがラウド王子を産んですぐ流行り病で亡くなってしまったのです。

シェイクナー王は他に妻を取らず、ラウド王子を大切に育てておりました。

そのシェイクナー王が居なくなるとなると...。」


「そうか...。王子の事は残念に思うよ。

しかし、帝国にいる国民はどうなる?

兵士になりたくないヤツも居たかもしれないし、戦争のお陰で亡くなった者にも家族が居たのかもしれない。

王であっても国民であっても、命は平等出なければならない。

俺はそう思っている。

このまま放置にしておけば、またこのスノーフリーデンが襲われるかもしれない。

大切な友の弟がいるこの街を。

俺はそれを許すことは出来ないんだよ。

わかるか?トカレフ将軍。」


「...はい。そうですよね...。」


「できる限りはする。...が最悪な事も想定しておいてくれ。それと、トカレフ将軍。

貴方は信頼出来る人だと俺は思う。

もしシェイクナー王が戻らなかった時に、貴方が王子を支えて守っていって欲しい。」


「...はい。分かりました。この命に掛けてラウド王子を支えていきたいと思います。」


トカレフ将軍の目に決意を感じる。

俺は少し安心した。


「ヴォイス。逃げたガブリエルはいつ頃帝国に着きそうなんだ?」


「そうですね...。

このスピードだと帝国に着くのは明日の夜になりますね。」


「...そうか。

なら乗り込むメンバーは聖剣持ちの俺とアルトとボロックだな。」


「えっ!?私たちは?」

「そうよ!!アンタ!私たちを除け者にするの?」


「ラテ、リア。お前達は留守番だ。

聖剣じゃないと奴等に決定的なダメージを与えることは出来ない...。」


「それは....。私たちが実力不足ってこと?」


「済まない...。本当に危険なんだ。」


「ラテさん、リアちゃん。今回は待っててほしいんだけど。

本当に危険なんだ。僕も余裕は無いから守ってあげられないかもしれない。」


「アルト君...。」「アルト様...。」


二人は悔しそうな表情を浮かべて黙ってしまった。

それをボロックの聖剣であるブレイブは見ていた。

そしてそのまま会食が終わり、解散しそれぞれが会食した部屋から出ていった。




その中で一人の男が動いた。


「ソーマ殿、少しいいか?」


「君は...僕の師が作った聖剣のブレイブ君だね。

どうしたの?」


「ソーマ殿にお願いしたい事があって...。」


「さっきのやり取りから察するにラテちゃんとリアに聖剣を作れって事かな?」


「なんと!?ソーマ殿はエスパーか!?」


「あんな終わり方したら誰でも分かるでしょ?コウ君も厳しいこと言ってたもんね...。

僕があんなことを言われたら僕だったら立ち直れないね。」


「そうなんだ。同じパーティーで聖剣があるないで区別されるのは違うと思う。2人とも実力はあるのに...。」


「そうだね...。2人とも本当に強くなったと思うから何とかしてあげたいのは僕も同じ気持ちだよ。」


「それでは!?」


「わかった。その代わりブレイブ君の聖剣の種子を貰っていいかな?」


「ありがたい。種子なら持っていてくれ。」


「最後に聞くけどいいの?これを受けとるともう次の種子は出せなくなるけど。」


「あぁ。頼む。」


「わかった。コウ君達が帝国に行ったら作り始めるよ。準備しないと。」


ソーマはブレイブから聖剣の種子を受け取って足早にその場から去った。

そして、ソーマは思った。


さすが師の聖剣の種子...。

ここまで大きくて純度が高いとは...。

僕も負けてはいられない...。

師を越えてやる。


ソーマ心に火が付いたのだった。

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