第111話、怖いならしなきゃいいのに...。


「ほら、どうした。

早くかかってこいよ~。」


ネモは冷や汗をかきながらこちらを見ている。


「ど、どうしてだ?お前はなんともないのか?」


「あ~。

お前のユニークスキル[ペテンの戯言]の事か...。

効くわけないだろう。

俺の方がレベルが高いんだからな...。

お前は鑑定のスキル持ってないもんな~。

そういう事もわからないよな~。」


「う、うるさい!!

そんなのなくても俺には切り札があるんだ!!」


「出し惜しみしないで出したらどうだ?」


「い、いや...。

き、切り札は最後に出すのが勇者だろ...。」


「ふーん。まぁいいや。

お前が来ないなら俺から行くぞ。」


俺が一歩ネモに近づくと、


「ちょ、ちょっと待て!!」


俺はネモの言葉を無視して一歩また一歩近づいていく。


「あ...。あぁ...。」


ネモは恐怖で足がガクガク震えている。

あまりに震えているネモの姿を見ると、なんか可哀想になってくる...。

しかし、これは制裁だから心を鬼にしてネモ前に立った。


「剣を構えろ。お前勇者の子孫なんだろ?

こんなに足が震えている姿を先代、先先代の勇者が見たら悲しくなるんじゃないのか?」


「そ、そんな事お前に言われなくたって...。」


ネモは震えながらも聖剣を構えた。


「ほら、戦い方を教えてやるからかかってこい。」


俺は手招きをしてネモを挑発する。

この手のタイプはケツに火をつけないと動かないタイプだからな...。


「グヌヌ...。」


「そんな唸っていても始まらないだろ。

お前から来ないなら俺から行くぞ。」


俺はが動こうとした瞬間、ネモが斬りかかってきた。


「ウォォォー!!」


レベルの差があるからなのか遅い。

俺はなんなく横に避ける。


「そんな声を出しながら斬りかかったらバレバレだろ。」


「う、うるさい!!勇者は声を出すもんなんだ!!」


「やっぱり馬鹿なのか...。」


俺はあまりの馬鹿さに呆れてくる。


「俺が本気を出したらすごいんだぞ!!」


「はぁ~...。わかったからかかってこいよ。」


「お前に言われなくても!!」


ネモは大振りに剣を振ってくる。

右に左にお粗末な剣技に俺は驚いた。


こんなんでよくLV40まで上げられたな...。

当たる方が難しいぞ...。


「何でだ!?

何で俺様の攻撃が当たらねぇんだ!!」


ネモの顔が焦りと苛立ちでひどく歪む。


「お前さ~。ちゃんと俺を見て剣を振れよ。

剣を振っている最中、目をつぶっているぞ...。

まさか、血を見るのが怖いのか?」


「う、うるさい!!」


図星かよ...。

これ以上喋っても無駄か...。

早くもうひとつのユニークスキル[英雄の一撃]を見せてもらうか...。


俺は当たる気配のないネモの剣技を軽々すり抜けデコピンを喰らわす。


「うわぁぁーー!!」


ネモは軽々吹っ飛ばされた。

これがレベルの差。

デコピン一発でこの威力なら、もし俺がキレて斬りかかったら瞬殺してしまうだろうな...。


俺は鑑定でネモの残りHPを見る。

ちょうどHP30%切ったな。

よしよし...。


「おい...。起きろよ。まだ出来るだろ?

早くもう一つのユニークスキル見せてみろ。」


ネモは足をガクガクさせながら起き上がる。

俺を見るその目は怯えきっていた。

まさに蛇に睨まれたカエル。

これでは攻撃をしてくれそうにもないので、

[ミヨウミマネ]で獲得したネモのユニークスキル[ペテンの戯言]を使う。


「ネモ。

俺に少しでもダメージを当てられたら、

ここまでの無礼を許してやるよ。どうする?

かかってこないなら、

この後もお前をじわりじわりといたぶるだけだけど...。」


「ほ、本当だな...?

一撃でも当てたら許してくれるんだな...。」


「あぁ。許してやるよ。

俺はこう見えて寛大なんだ。

ただし、お前の最高の一撃で来い。」


「わ、わかった!!」


ネモは剣を構えて何やら集中し始めた。

これが[ペテンの戯言]か...。

会話の誘導には便利だけど、俺にはあんまり意味の無いスキルかもしれないな...。


(マスターはペテン師みたいな所がありますもんね...。)


そうそう...。

って無いわ!!俺は世間では紳士で通っているハズだぞ!!


(そう思っているのはマスターだけですよ...。

世間は[鬼畜のコウ]とか[ああ言えばコウ言う皮肉屋]とか言われてますよ...。)


マ、マジか...。ショックだ...。

ってか、ああ言えばコウ言う皮肉屋ってそんなセンスの無いあだ名は嫌だな...。


(ま、何事も日頃の行いのせいですよ。

精進していきましょう。ププ...。

あっ。ネモが準備終わったみたいですよ。)


ネモを見ると青白いオーラに包まれていた。

確かに鑑定でも攻撃力は10倍に上がっているな...。

どれ、どんなものか...。


「いつでもかかってきていいぞ。」


「い、行くぞ!!」


ネモは踏み込んで一気に距離を詰めてくる。

スピードも上がっているな...。

っていってもこの街の騎士団長のクラリス程度だが...。


「ウオォォーー!![英雄の一撃]!!」


ネモの大振りの剣が俺に迫る。



ガシッ!



俺はネモの最大の一撃を素手で受け止めた。

さすがにちょっと痛い...。

が、我慢した。


「へっ?」


受け止められると思ってなかったネモは呆気にとられていた。


「なるほど...。この一撃だけは中々の攻撃だったぞ。」


俺がそう言うとネモは剣を放し、その場に膝をついた。

完全に戦意喪失したようだ。

ネモのお陰で新たなスキルを手に入れられたし、俺はこれ以上は何もする気はない。


それにしても聖剣ブレイブか...。

アスタ、リスク...。

ブレイブと対話できるか?


(出来ると思うけど人化していい?)

(剣のままは窮屈なの...。)


いいけど...。

元々剣だったのに、剣の方が窮屈ってどうなってんの?


俺が疑問に思っていると、アスタとリスクが人化をして現れる。

その光景に、周囲の人も驚いていた。


「こ、これは一体...?

何で剣が人に?俺は夢でも見てるのか?」


「ネモ...。お前聖剣を持っているんだから人化くらい知っているだろう?」


「し、知らないよ!!親父も教えてくれなかったし...。」


「そうなんだ...。

ちょっとお前の聖剣借りるな。少し話しがしたくて...。」


「話し?何を言っているんだ?」


ネモの質問には無視をして、聖剣ブレイブをアスタとリスクに渡した。


「あ~。なるほど...。

そういう事か...。お兄さん頼みがあるんだけど...。」


「なんだ?」


「お兄さんの魔力を貸してほしいの...。

ブレイブおじちゃん魔力を失っているの...。」


「魔力を失っている?」


「そのネモっていう子の所に行くために全魔力を使ったんだって...。」


「なるほど...。なんかあったんだな...。わかった。」


俺は聖剣ブレイブに触れて魔力を流した。

俺のMPを半分くらい持っていった所で聖剣ブレイブが光輝いた。


「ブレイブおじちゃんが人化するってさ...。」

「大柄だからお兄さん少し離れるの...。」


俺はリスクの忠告を聞き聖剣ブレイブを地面に置いて少し距離を取った。


距離を取ると一段と光輝いて、聖剣が人の姿に変わっていく。


身長3メートル程の筋肉もりもりな男が、目の前に現れた。

っていうか、



....。

.........。

...............でかすぎじゃね?




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