第101話、無茶苦茶なアルトの母メリア。



ソーマはクラレントとアスタとリスクを連れて、城の兵士に案内され工房に向かった。


残された俺たちは夕方のパレードに向けての準備が始まった。


ウィリアムとアルトは王族の衣装に着替える為にドレッサー室に、

ラテとリアとヴォイスも違うドレッサー室に連れていかれて残されたのは、

前王オーガイとその2人の妻、ボロックと俺だ。


気まずい...。

非常に気まずい...。


何故ならボロックは緊張の余り直立不動。

オーガイ達は俺を直視しているからだ。


何で見てるだけなのさ...。

気まずいじゃん!

俺なんか悪いことしました?

まさか急に不敬罪とか!?

いやいや、俺はなんにもしていないよね!?


.....。

不穏な時が進む。

すると、アルトの母メリアが口を開いた。


「....コウ様。この度は本当にありがとうございます。」


「い、いや俺は別に...。」


「アルトがここまで成長したのもコウ様が居てくれたからだと思います。」


「そうですかね...。

アルトは最初から明るくていい奴でしたよ。」


「いや...。ここに居たときはいつもオドオドしてて頼りなかったんです。

それがコウ様と出会ったことであんなに急成長して。

コウ様には、本当に感謝の言葉もありません。」


メリアが深々と頭を下げるとオーガイと正室のシャルロットも俺に頭を下げる。


「いやいや、皆様!顔を上げてください!

アルトの事はアルト自身で成長したんですよ!

俺もアルトのお陰で成長できましたし。」


そう言うと頭を上げてくれた。


「コウ様。私はシャルロットと申します。

この度はヘンリー、ウィリアムを助けて頂きありがとうございます。」


「あ、あの....ヘンリー王子の容態は...?」


「身体の方は問題無いのですが...。

心に深い傷を負ってまして今しばらくかかると。しかし、意識はあり食事もちゃんと取ってるので大事には至らない様子でした。」


「そうですか...。それならば良かった。

俺がもっと強かったなら心に傷を与えずに助けられたのに、申し訳ございません。」


「謝らないでください。

この結果になったのはあの子が弱かったからでございます。

プライドばっかり大きくなって...。

これで少しは自分を見直せると思います。

本当にありがとうございます。」


「い、いやぁ....。」


俺がこの世界に来たことで起こったのに...

そう言われると胸が痛い...。


次はオーガイが口を開く。


「本当にコウ殿には頭が上がらない。

こうして新たな聖剣まで作って頂けて。

本当にありがとう。」


「いや、それはソーマが作るだけで俺は何も...。」


「だとしても、そのソーマ様を連れてきてくれたではないか!

コウ殿。お主が居なければこの王都もまた攻められて居たかもしれん。」


「そういってもまだ黒の者の脅威はなくなってませんから...。」


「だけども、ありがとう。礼を言わしてくれ。」


「分かりました!!分かりましたから、頭を下げるのはもう止めましょう!!」


本当にキリがない...。

ボロックは何も助けてはくれないし...。

後で何か嫌がらせしてやろうかな...。


そんな事を思っているコウとは対象に緊張しすぎて頭が真っ白になっているボロックだった。


元とはいえ、一介の騎士が、

王夫妻の部屋に居ることなんてまずあり得ないから緊張するのは仕方がないのだが、

コウは知る由もなかった。


そんな気まずい時間を過ごしていると、

コンコン。

ノックの音がが鳴った。


「失礼します。ヴォイス様、リア様、ラテ様入ります。」


俺はその声を聞いてホッとした。

同時にボロックも意識を現実に取り戻したようだ。


扉が開いてヴォイス達が入ってくる。

3人とも綺麗なドレスに身をまとっている。


「マスター。どうですか....?」


「あぁ、とても綺麗だよ。

いつも綺麗だけど、今日はさらに綺麗だ。」


俺がそう言うとヴォイスは顔を手で隠して、


「マスター...。褒めすぎです...。

恥ずかしすぎて死にそう...。」


そう言うヴォイスの耳が真っ赤なのが可愛い。


「ちょっと!!アンタ!!私たちも居るんだけど!」


「あぁ、綺麗だと思うぞ!」


「ハァァー!?ナニソレ!?」


「俺に言われるよりアルトに言われた方が嬉しいだろ?なぁ、ラテ。」


「う、うん。そうだね...。」

「そうね!どうせアンタなんかに私達の可愛さなんて分かんないわよ!アルト様はすごく誉めてくれると思うわ!」


「 そうね!2人とも可愛いわよ!

このまま結婚式挙げちゃいなさいよ!

私が許すわ!」


無茶苦茶な...。

アルトの母おそろべし...。


「....え?

良いのですか!?お母様!?」

「お母様!最高!!すぐする!!」


「良いわよ!

私はこんな可愛い娘達が出来るの嬉しいもん!」


3人はキャッキャッとはしゃいでいる。

このまま結婚って流れでいいのか...?



「ちょちょちょっと待ってくれ!

メリア落ち着いて!」


オーガイが慌てて会話を遮る。


「何よ~、貴方?おめでたいことは良いじゃない?」


「そ、そうなんだけども、

今日はレオンハート王の誕生とコウ殿達の英雄誕生のパレードなんだ。

そこに結婚式もって詰め込みすぎだし、

国民の皆が困惑するだろう...。」


「そうよ。メリア、落ち着いて。

私としても結婚については賛成だけどもアルトの話も聞かなきゃでしょ~。」


「そうね。シャルロット。

アルトに聞いてからにするわ。」


「わ、私の立場って一体...。」


オーガイ...。ドンマイ!!

女性が強い方が上手く行くんだぜ!


俺は心の中で残念なオーガイを応援した。


「ざぁ~んねん!勢いのまま結婚したかったのに...。ね、ラテ!?」

「....うん。したかったなぁ...。」


「いやいや、両親公認だから今日以外いつでも結婚できるってことだから良いんじゃないのか?」

俺がそう言うと、


「そうね、アンタもたまには良いこと言うじゃない。たまには!」


本当リアは可愛いげがない...。


こんな話をしていると、

「パレードの準備が出来ましたので、

コウ様のパーティーの皆様は私に付いてきてください。」


「アルトとウィリアムは一緒じゃないの?」


「コホン。...コウ様。

申し訳ないのですが、

公衆の面前に出たら呼び捨てではなくて、

ウィリアム王とアルト王子でお願いします。」


えぇ...めんどくさ...。

色々しがらみがあるから仕方ないか...。


「了解~。」


「お二人はお先にパレード用の馬車に乗ってコウ様達を待っております。」


「そうなんだ。じゃあ、みんな行こうか。」


俺たちは城の兵士に連れられて城の正面についた。

その馬車の上に王冠を被ったウィリアムと王族のマントを羽織ったアルトが待っていた。


「遅かったねぇ。コウ君なんかあった?」


「...いや特に何もなかったよ。」


「そう?」


「アルト王子。俺の事より2人のお姫様を迎えた方がいいんじゃないか?」


「王子は止めてよ...。あっ。」


アルトの視界に2人が見えたのであろう。


「2人とも綺麗だね。」

そう言いながら手を差し伸べて2人を馬車に乗せる。

って言ってもリアは飛んでいるので手にちょこんと乗ってるだけだが。

立ち振舞いがまさに王子だな。

俺も負けじと先に乗り、ヴォイスに手を伸ばす。

「こちらにどうぞ。お姫様。」


「マスター...。似合わないですね。フフ。」

そう言いながらも俺の手を握り嬉しそうに馬車に乗った。

そして最後にボロックが無言で乗った。


ボロック...。

お前にもすぐ春は来るさ...。


(マスター。ボロックはかなりモテてるので気にしてないって様子ですよ。)


えっ?

マジで...!?


(マジです。

剣舞祭でもかなりファンは付いてましたし。

この中でモテないのはマスターだけですね。

プププ。)


う、うるせいやい。


なにか悲しかったのか?

なにか悔しかったのか?

わからないけど、負けた気分になって俺の頬に一滴の涙が伝ったのだった。

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