第92話、残念でごザンス



王城内客間にて...。


「お母様恥ずかしいよ...。皆見ているし。」


「あら、アルト。気にしなくて良いのに...。

恥ずかしがり屋なんだから。」


感動の再会から1時間。

アルトとアルトの母メリアはずっとくっついている。

それを指を加えて見ているリアとラテとクラレントだった。

痺れを切らして口火を切ったのはやっぱりリアだった。


「お母様...。いくらお母様だからと言ってちょっとアルト様にくっつきすぎではないのですか?」


「あら、可愛い精霊様ね。何~?焼きもち焼いているの?可愛い~!!」


「やだ!お母様!可愛いだなんて...。」


リアはもじもじしながら照れている。

それ以上はリアは何も言えなかった。

そんなリアを見て私が行かなきゃと意気込んだラテが言う。


「お母様!嬉しいのは分かりますが...。」


「あら、獣人さん?可愛い~!尻尾をモフモフしていい!?」


「えっ!?ダメですよぉ~!モフモフはアルト君だけの特権ですから...。」


「そうなのぉ~...。なら仕方ないかぁ。アルトは良いね!こんな可愛い子をモフれるなんて!!」


「可愛い子...。」


ラテも可愛いって言葉にモジモジしている。

2人ともチョロいな...。


ならば私の出番とクラレントが行こうとした所で、


コンコン。

部屋のドアをノックする音が聞こえて来た。


「失礼します。受賞式の準備が出来ましたので謁見の間にてご案内させて頂きます。」


チッ!

クラレントさん舌打ち聞こえていますよ...。


「あらあら、もう時間が来てしまったのですね...。寂しいわ...。でも公務だから仕方無いわね。」


そういい席を立つメリア。

そして振り返り、


「アルト。心配しなくてもいいわ。オーガイあの人も昔とは違い大人になりましたし、今は私と正室シャルロット様の方が強いから安心してね。」


「う、うん。」


「皆様。アルトを宜しくお願いします。」


メリアは俺たちに一礼して部屋を出ていった。

レオンハートの側室として戻って行ったのだった。


「アルト。お前の母さんスゴいな!」


「うん。変わらず元気そうで良かったよ。」


アルトはいつもの優しい顔に戻っていた。


「さて俺たちも行くか!」


俺が言うと皆、頷き謁見の間へと歩き出した。

そして重々しい扉の前に立たされる。


「剣舞祭優勝者コウ・タカサキ様とそのパーティーご一行様!入られます!!」


そう言われるとゴゴゴ....と重い扉が開いた。

真ん中に王様の座る王座間でまっすぐ伸びる真っ赤な絨毯、

その脇にはこの国の貴族や重鎮達、

そして騎士団長達が並んでいた。


「この道を真っ直ぐ歩いてください。そして王様の前では片膝を着いて下さい。」


「絶対しないとダメですか?」


「すいません。この国の礼儀なのでお願い致します。」


「仕方ないか...。了解した。」


業に入ったら業に従うのが俺のルール的なものなので従う。

そして、俺達は真っ赤な絨毯を歩いていく。

刺さるような視線が痛いな...。

気に食わない奴も居るんだろうな...。

なんて思いながら歩いていくと、


「ボロックゥゥー!!何で貴様がそこに居るんだぁぁ!?」


その声で辺りは静まる。

その声の主は剣舞祭で俺にボコボコにされた王国第一騎士団長ザンス・アブブだった。


「ボロック。あんな奴気にすんな..。

お前は騎士団を辞めたんだろう。」


「そうなんだけど...。」


「ボロォォックゥゥ!!」


五月蝿いな...。

何であんな奴が威張ってんだよ...。


(マスター。

それはあの者が子爵家だからです。)


なるほどな...。

どうしたら穏便に済むと思う?


(穏便には済まなそうですね。

殺ってしまったらいかがですか?)


おっふ。

ヴォイスさん...。

そんな怖いこと言わないでくれよ...。


(フフフ。冗談ですよ。

本当ならあちら側で対処するんですけどね...。)


だよな...。


と思っていると、


「王の御前で何を言っているんだ!

貴様、第一騎士団長のザンスだな!!

身の程をわきまえろ!!」


王の隣に居たウィリアム王子が動いた。


「で、ですが、ウィリアム王子!

こやつは我が第一騎士団員ですぞ!

それがこのパーティーに入っているなんて聞いて無かったのです!」


「だから?」


「えっ...?だからとは...?」


「だから何だと聞いている!

この者ボロック殿は剣舞祭の後すぐに騎士団を辞めている。

そして、剣舞祭の際にはコウ殿達と一緒に戦った功績がある。私もそこに居たから間違いはない。

貴様、国の英雄になん足る失礼な態度を取っているんだ。」


「そ、そんな...。そんな話私は聞いてないぞ...。」


「ザンス。貴様は子爵の立場を利用して職務を怠慢にしているらしいな...。」


「な、何を言ってらっしゃるのか私には分かりかねる。」


「その証拠にボロックが辞めたのに何故知らない?

そして剣舞祭の予選の時には部下を使って戦わせた。

そんな奴は騎士団長を任せられん。

今を持って騎士団長を辞めてもらう。

これは決定事項だ。

本当ならこの授賞式が終わった後に言うつもりだったのが早まっただけだがな。」


「そ、そんな...。」


ザンスはその場に力なく崩れ落ちる。


「皆の者。中断させてすまなかった。

続きを再会させよう。ボロック気にしなくていいからな。」


「....は、はい。」


そんな事を言われても気になるだろう...。




「殺してやる....殺してやる....」


うわ言のように口ずさむザンス。

俺はその異変にすぐに気付いた。


(マスター...)


わかってるって...。


ザンスは剣を抜き事もあろうがウィリアム王子に斬りかかろうとした。

俺は瞬歩でザンスに近づき首の手刀をトンッと繰り出す

ザンスはそのまま気絶した。


「コウ殿。助かった...。」


「気にしないで下さい。」


「この不届き者を即刻牢屋に入れろ!」

ウィリアム王子がそう言うと兵士達がザンスを運んでいった。


ザンスは死刑なんだろうな...。

まぁ自業自得だけど...。

ザンス。

残念でごザンス...。


(マスター...。壊滅的につまらないギャグですね...。)


う、うるせ~...。

自分のギャグセンスの低さに嘆くコウだった。

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