第90話、ナイーブな国王




「あ、あの...マスター。は、恥ずかしいんですけど...。」


「ヴォイスか。わ、悪い...。」


「い、いえ...。」


俺が抱き締めたままミアがヴォイスと入れ替わった為に、ヴォイスからしたら恥ずかしかっただろう。

口元は緩くなっているけれども。


「ミア様としっかり話されましたか?」


「あぁ。ちゃんと話したよ。

しっかりと剣技のプレゼントまでくれてさ。

この剣技を自分の物にしないとミアに笑われてしまう。」


「良かったです!さすがミア様ですね!」


「あぁ。そろそろみんなの元に戻ろうか?」


「ハイ!....それで...あの。」


「ん?どうした?」


「....手を握ってはくれませんか?」


「あ、あぁ。」


俺はヴォイスの手を握り歩き出した。


「ってか、ミアに入れ変わる前に一言言ってくれればいいのに...。本当に驚いたんだぞ。」


「ミア様が驚かしたいって言われたので...すいません。」


「あぁ...。

ミアは昔から驚かしたりするのが得意だったもんな。

散々振り回された気が...

でも楽しかったんだよな~。

それでミアの住んでいるところってどんな所なんだ?」


「ミア様の住んでいるところですか?

ん~...。それは口止めされています。ただ...」


「ただ?」


「すごく良い所でした!

ミア様の安全はちゃんと守られていますから安心してください。」


「そっか。なら良かった。」


「落ち着いたらミア様の所に行きましょうね!」


「あぁ!」


俺たちは皆の待つレストランへ歩いた。






ーーー


その頃レオンハート城では、朝から授与式の準備でバタバタしていた。

その指揮を取っているのがアルトの実の母で側室のメリアだった。

我が子の晴れ舞台は自分でプロデュースしたいと国王オーガイに直訴したのだ。

オーガイも色々な準備に追われている為に任したのだが...。


「そこ口を動かしてないで手を動かしなさい!!そんな事じゃ間に合わないでしょ!」


「す、すいません。」


「もう!しっかりしてくださいね!」


メリアは目を張るような働きっぷりでテキパキと指示を出し自らも動いていた。

オーガイは側室のメリアがここまで動けるとは思ってなかった。

出会った頃のメリアは容姿が良くて田舎で育ちでどこかフワフワしている子だった。

嫁いでからもフワフワしていて唯一取り乱したのはアルトを追放した時くらいだった。

それが今はどうだ....。

本来はこう言う子だったのかもしれないと、自身の眼の雲り様に少なからずショックを受けるオーガイだった。


「父上。」


「ウィリアムか...。」


「メリア殿は張り切ってますね!

あんなに良い顔して働く姿久しぶりに見ますよ!」


「久しぶり?

メリアはお前達の前だとあんな感じだったのか?」


「はい。

メリア様からは剣術の基礎、魔術の基礎、座学、帝王学など多くの事を学びました。

私とヘンリーにとっては義理母と言うよりは先生って感じでしたね。」


「なっ...そんな事まで教えていたのか...?

知らなかった。」


「え!?父上...本当に知らなかったんですか...。私とヘンリーがアルトに冷たかったのも、

メリア殿がアルトの話を良い顔で話すもんだから子供ながらに嫉妬して冷たく当たったってだけなんです。

今となっては本当に恥ずかしい話ですが...。」


「そ、そうなのか?

私はてっきり剣術が出来ない出来損ないの愚弟だから冷たくしてたと思っていたぞ!」


「とんでもない!

剣術のスキルを持たないのに努力だけで私やヘンリーに剣術が追いつきそうになってたので距離を取っていたんです。

スキルを持たない弟に負けたなんて父上が知ったら激怒されるのは目に見えて分かりましたからね。」


「悪いのは私だったんだな...。

今回の事で痛感したよ。アルトは許してくれるだろうか...?」


「アルトは私の事を兄と呼んでくれました。

酷いことをした私やヘンリーの事も。

良き共に出会い器の大きな人物に成長したのでしょう。

父上も精神誠意をもって当たれば許してくれると思いますよ。」


「そうだと良いが...。」


「父上は以外にナイーブですよね。

そう言うところが母上やメリア殿はほっとけないのだと思います。」


「ウィリアムも言うようになったのぉ。」


「ですね。以前ならこんな事は言えなかったのですが、私も成長しているのですよ。」


「成長か...。私も成長しなければな。」


2人が話をしているとそこにメリアが近づいてくる。


「ちょっと、お2人供。

そんなところに居られますと準備の邪魔になります。お話するなら別室にてお願い致します!」


そう言うとメリアはまた作業に戻って行った。


「ウィリアム...。」


「どうしました?」


「私の立場って一体なんなのだろうな...?」


「さぁ...。それは父上が考えてください。」


「冷たいのぉ...。」


「まぁまぁ、父上違う部屋で紅茶でも飲みませんか?」


「う、うむ。」


二人は王の間から出て別室に向かった。

王の背中がちっちゃく見えたとか見えなかったとか...。

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