第84話、時間稼ぎ





コロシアム全体に目映い聖なる光が包み込む。

包まれた観客達が次々と意識を絶って倒れていく。

その中カマエルとヘンリーは苦しんでいた。


「ぐぅぅぅ。この身体はもう持たない...私が外に出てしまう...代わりのよりしろを...早くしなければ...。」


アルトの魔法に苦しんでいるカマエルが呟く。

そして、カマエルから黒い塊が出てきた...。


「それがお前の本体か...。」


「ク、クソ。コノワタシガコノヨウナミニクイスガタニモドルトハ...。」


俺は師匠から教わった聖光気をまとい、カマエルだった黒い塊に剣を振りかざした瞬間。

その塊が瞬歩よりも早く動いた。

動いた先は苦しむヘンリーだった。


「トドケー!!」


「誰でもいい!ヘンリーを守ってくれ!」


しかし、俺の声に反応出来る者は居なかった。

黒い塊はヘンリーに届く....。




...寸前に消えた。




かに見えた。



「フフフ。間に合った。」


間に合ってしまってしまった。

黒い塊はヘンリーを乗っ取ってしまった。

その気配に近くにいたウィリアムが後ずさりする。


「どうしました?兄上...。弟がこんなに強くなって感動で涙も出ませんか?」


「へ、ヘンリーなのか...?」


「あははは。見た目はね!

貴方の大好きなヘンリーはもうこの世には居ないのですよ。」


「そ、そんな...。」


力なく膝をつくウィリアム。


「貴方達の相手はまた後でします。

今は...あの男コウ・タカサキを無力化しないと。」


そう言うと、ヘンリーはコロシアムのリング上に居るコウの元に歩き出した。

俺はアルト達を確認する。

アルトの目はまだ死んでいない。


(アンタ。時間稼げる?)


リアから念話が飛んできた。


時間は稼げるけど...

どうしたんだ?


(アルト様がヘンリー様とカマエルを分離させるために魔力を練り直す時間が欲しいの?)


そんな事出来るのか?


(ワタシには分からないわ。

ただ聖剣クラレントの力を使えば何とか出来るって。)


そうか....。

分かった。任せておけ。

それと観客に被害が出ないようにコロシアムの周りに結界を張れるか?


(アンタ!精霊使い荒いわね...。

いいわよ。ヴォイスと一緒に結界張るから時間稼ぎ頼むわね。)


あぁ...。任せろ!


ヘンリーカマエルが俺と対峙するとリングの外に結界が張られた。


「結界か...。

無駄な事を。まぁどうでもいいがな...。」


嫌な笑みを浮かべながらヘンリーカマエルは俺を見てくる。

ステータスもヘンリーと変わらないから不気味だ。


「コウ・タカサキ...。

お前が抵抗しないで俺たち側に付いてくれればこんなに手荒なマネはしなくて済むんだがな...。」


「そんな事言って油断させようとしても無駄だ。人を人としてみてない奴等の言うことを信じられるわけないだろ!!」


「人?そんな下等生物がどうなろうが俺たちには関係ないからな。

俺たちは神に選ばれた。」


「俺たち...?」


「お前がこっち側に付けば教えてやるよ。」


「断る!!力付くでも吐かしてやる。」


「あっははは。面白い冗談だ。」


「冗談かどうか見せてやるよ...。」


俺はカマエルに向かっていく。

同時にカマエルも俺に向かってくる。

二人の剣撃がぶつかる衝撃で空気が揺れる。


結界のお陰で外には被害は出ていないが、いつまで持つか...

そこはリアとヴォイスに頑張ってもらおう...


それにしてもコイツまだ笑ってやがる...。

余裕かよ...。

しかも、ヘンリーの体を俺が傷つけられないからって調子乗りやがって..。

アルトの家族じゃ無かったらもっと踏み込んで攻撃できるのに...。


俺は卑屈になりながらもカマエルの攻撃を捌きながら、

アルトの詠唱が終わるまで耐えるつもりだった。しかし、


「コウ・タカサキ。貴様は何の為に戦ってるんだ?」


お互いの剣技が交わりながらカマエルが話してくる。


「何の為?俺のためだが...。」


「浅はかな...。

そんな自分よがりの為に俺たちに歯向かっているのか?」


「俺たちって...。

俺はお前達の事は知らないし、お前達が勝手に絡んでくるから対処してるまでだ。」


「お前は何にも分かってない。」


「あぁ。分からないな。

なら教えてくれよ。カマエルお前のお得意な剣技でさ。」


「本当にお前は生意気だよ。そんなに言うなら見せてやるよ。神に選ばれし者の力を...。」


そう言って距離をとるカマエル。


「あんまり使うと疲れるから見せたくは無かったんだけどな。

コウ。お前は中々に強い。光栄に思え!

そしてひれ伏せろ。神の代行者足る我に!!」


その強い言葉と共にどす黒いオーラがカマエルを包む。


「これはちょっと厳しいかもな。

ルシフェル並みの強さを感じる。」


「ルシフェル...。

あんなクソ野郎と一緒にするなぁぁ!

忌々しいぃぃ!」


カマエルの顔が酷く歪む。


さてさて、俺も手加減なんかしてたらやられてしまうぞ...

ヴォイス...


(ハイ。マスター。)


アルトは後どれくらいかかりそうだ?


(後2、3分だそうです。)


結構本気出すけど結界は持ちそうか?


(2、3分位は持たせます!マスターは大丈夫ですか?)


あぁ。心配するな。俺は大丈夫。

結界の方を頼むぞ!


(ハイ!任してください!)


ヴォイスとの念話を切って俺はカマエルの方を向く。


「あんまし、人間舐めるなよ。」


俺は聖光気セイドリックオーラを全開にした。

聖なる光が俺を包む。


「行くぞ!!」


俺はカマエルに向かって行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る