第72話、不本意




「それでは、只今から第二試合ザンス選手対コウ選手の戦いを開始したいと思います!」


オォォォォー!!

客席の熱気が凄い!観客の皆、目が血走ってる。

俺は観客の圧に少しビビりながらもグラビティ10を発動する。

身体にズシッと重みが来る。

しかし、昨日の予選の時よりは楽だな...。

様子を見て行けそうならもう少し重力を上げて見るか...。


「それでは第二試合始め!!」


合図はなったのだがザンスは剣を握ったまま動く気配がない。

それどころか何か呟いている。


「殺す....殺す....殺す....」


いやいや、怖すぎなんですけど...

目もぶっ飛んでるし...

俺から先手行ってみるかと思った瞬間。

ザンスが動き出した。

力強く踏み出すと目にも止まらないスピードで突っ込んできた。


不意を付かれた俺は、

サイドステップで避けようとするがザンスもサイドステップでついてくる。


「殺すぅぅぅ!!!」


俺に向かって剣を振ってくる。

鋭い剣筋で切り込んでくるが、

俺は先程の試合でムサシがハルクに使っていた落ち葉のような身のこなしをミヨウミマネで繰り出して全てかわす。


とっさの判断だったがムサシの試合見といて良かった...

それにしても、ザンスの動きが普通じゃない。

昨日の鑑定ではLV50付近で普通のBランクの冒険者相当の力しか無かったはず...


俺は再度ザンスに鑑定をしてみた。



ザンス・アブブ(34)LV51

・第一騎士団長・子爵家

職業・ 剣士


状態・洗脳・狂人化



狂人化?

狂人化を調べてみると、

理性が乏しくなり、

技や魔法の類いを一切使えなくなる代わりに、普段の戦闘能力を5倍に膨れ上がらす。

そして、痛みなど一切感じることもない。


狂人化が解けると身体の限界以上の能力を使うため筋肉、神経の断裂など後遺症に残るパターンが多い。使うのにおすすめはしない。


.........。

おいおいおい!

なんだこの恐ろしい状態は!

痛みを感じないんだったら普通に戦ってもダメだな...

なんとか解除出来たらいいけど...


俺は色々考えながらザンスの攻撃をいなしてた。

やけに攻撃が軽いな...

って俺がグラビティで重くなってるから軽く感じるのか...

俺は苦戦してますアピールをしながら、防戦一方を演じた。


「くっ!これは!?」


恥ずかしい...


「まだまだ!」


声に出すのが本当に恥ずかしい。

モニターに写し出されているから声も観客に届いている事だろう。


グラビティで動きを制限してるのに動きに付いていけるってことは俺自身もレベルアップしているんだろうな...

宿に帰ったら、自分のステータス確認しよっと。


最初はザンスのスピードに驚いたが、慣れてくるとどうってことはない。

単調な攻撃だから読みやすいのでそれに合わせて攻撃を受け流している。


そろそろいいかな.....?

聞いてみよっと..

俺はヴォイスに念話を飛ばした。



ヴォイス、そろそろいいか?


(はい、周りの観客もガッカリしているので大丈夫だと思いますよ。

でも倒すときもギリギリ感を忘れずにお願いします!)


不本意だが仕方ない...

ヴォイスの為だからな。


どうするかな?

反撃で剣を押し合ってリングアウトにさせるか...

それが一番無難だろ...


俺は攻撃に転じた。

ザンスがギリギリ防御できる感じに剣をぶつけてリングのふちに追い込んでいく。

そして、鍔迫り合いに持ち込んで後は力で押した。

すると、ザンスは吹っ飛んでいきリングの外に出た。


「し、勝者コウ・タカサキ選手。」


歓声は上がらなかった。


「剣聖様に認められたってあんなものかよ!つまんねー試合してんなや!!」


「そうだ!そうだ!」


「剣聖様の名前を語ってる。ペテン野郎じゃねーか!」


歓声の代わりにブーイング嵐が会場を包んだ。


俺だって本当は加減なんてしたくないのに...

不本意だ...実に不本意だ。


俺が落ち込んでいると、

吹っ飛んだザンスがこちらを睨んでいる。

まさか...


そして、俺に襲ってきた。

ですよね...


「ザンス選手!止めてください!」


リングアナウンサーの言葉は全く聞こえてないようだった。

まだ洗脳も狂人化も解けてない状態だから、当たり前か...

それなら意識を断つしかないか...

これは、正当防衛だし大丈夫だろう。

俺は剣をしまい、

襲ってくるザンスの剣を受け流しそのまま首元に手刀を繰り出した。


一度はやってみたかった手刀でトンッ!が出来た。

気持ちいい!!

それに格好いい!!


手刀を喰らったザンスはそのまま意識を失った。


一応、鑑定してみたが洗脳も狂人化も解けていた。

しかし、身体の状態が凄い悪い。

すぐに救命士として、プリーストが駆け寄った。

そして、リングアナウンサーにも謝られた。

俺は大丈夫ですと言っていそいそと控え室に戻る。

手刀の一件でブーイングが止んだ為だ。

ザワザワしている空気感に耐えられなかった。

控え室に戻ると、ボロックが駆け寄ってきた。


「コウ。まずは、おめでとう。」


「あ、あぁ...」


「それにしても第一騎士団長はどうしたんだ?

普通じゃない感じだったが....」


「大きい声では言えないが何者かに洗脳されていたんだ...

ボロック、控え室で変わったことは無かったか?」


「洗脳...何故そんなことが...」


「わからない...それで変わった事無かったか?」


「変わった事と言えば、

コウが苦戦してたときにヘンリー王子専用の近衛騎士のカマエル殿が爆笑してたな...。

やはりたいした事ないじゃないかとか言ってたような...。

側にいたヘンリー様がモニターを見ながら無表情だったから違和感があってな...」


「ありがとう...犯人に目星がついた。

しかし、今騒ぎを大きくする訳に行かないからボロックは知らない振りをしてくれ。

そして初戦頑張れよ!」


「わかった。事が終わったら何があったか教えてくれないか?」


「あぁ...それは約束する。」


そして、俺はボロックから離れ近衛騎士のカマエルをマークするのだった。

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