こんな私でも

@asagi_syousetu

〜序章〜




小さい頃からの夢がある。


アイドルとして大きなステージに立って、沢山のファンに囲まれて、好きな歌とダンスをやること。




でも、それは叶わなかった。

色々な事務所のオーディションを受けた。


全部、全部



ダメだった。


スタイルも、顔も声も、ダンスや歌も

全てが周りと劣っていた。

小さい頃からレッスンに通っていたりする子達とは当然天と地ほどの差があることは分かっていた。



それでも何度も、何度も挑んだ。

何度落ちても、何度ボロボロに言われようと諦めなかった。

必死のアピールが届かなくても。



………でも毎回届くのは、非合格通知。

書いてあるのは全て同じ。



芸能界というのはとても厳しい。

私のような一般人は、夢を叶えるためのスタートラインにすら立てさせて貰えない。

なんて残酷なんだろう。


この世界は容姿と親の財力で全てが決まる。

美人と金持ちだけが得をする世界。


それならいっそ諦めてしまおう。

最初から無理だと思ってたんだ。

生まれた時のスペックからまず違うんだから。

私なんかには、元々遠い世界だったんだ。


親のスペックを変えるのなんてのは不可能。

容姿を整える為に整形しようとしても、まずその資金がない。

ただでさえ両親は、少ない貯金を切り崩して支援してくれてるのに。

そんなことまで頼むなんて出来やしない。


だから、自分なりの方法で努力した。

お金が無いなら、無いなりの努力を。


でも、現実というのは非常なもので。

何の成果も出なかった。

どんなに努力しても、届くのは不合格通知。


私なんて、どうせ無理なんだ。

私なんかが、アイドルになりたいなんて大きな夢持つからいけないんだ。


……こんな自己嫌悪ばかりしていても埒が明かない。

気分転換に空でも見ようか、そんなことを考えながら屋上へ続く階段を登る。


屋上の扉を開けると、暖かい春風が頬を優しく撫でる。


落下防止柵にもたれ掛かりながら、ビルが立ち並ぶ街を眺める。


遠くの方に見える横浜スーパーアリーナ。

小さい頃から、あのドームでライブがやりたいと思ってた。


……もし、今回受けたオーディションに合格していたら。

あのドームに1歩近づけるのかもしれない。

合格してるなんてこと、あるわけが無いのだけど。


そう思っていた。


ピロンっ


ポケットに入ったスマホから、メールの着信音が鳴るまでは。

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