占い師は騙る
土蛇 尚
何を聞くかより誰に聞くか、人ってさ。
占い師は語る。暗室で息遣いや表情は感じれなくともその声音だけで雰囲気を作り出す。この職能だけでも金を払った価値はありそうだ。
占い師は金を払った男にこう語る。騙る。
「占いと言うのはその時代の技術や科学の及ばない範囲、その時代の人間が技術や科学の及んで欲しくないと考える範囲に成立するビジネスなのです。」
「ビジネス?」
なにか神聖なものを求めて金を払った男は思わず聞き返す。
「そう。ビジネス。人間は科学が成立する以前は天気を占い、国家の政策を占い、星々を占いました。それは当時の技術では解決し得ないものでした。しかし現在それらの占いは科学によって駆逐されました。今はもう明日の天気を占い師に聞く人はいません。何故でしょう?」
求めた話とは違う。だが男は占い師の話を夢中に聞いていた。
「何故って、、、天気予報があるから、、、」
「そうです。天気予報がある。でも天気予報があるだけなら別に僅かでも天気を占う人の食い扶持が残ると思いませんか?しかし現実にはいません。それは価格競争に勝てないからです。手持ちのスマホで無料で、早く正確に明日の天気がわかるのにわざわざ占い師に聞くなんて馬鹿げてるじゃないですか?誰も金を払わない。占い師だって生身の人間なんです。なら生存に必要な資源を購入する為に金がいる。でも金にならない。だから駆逐されました。天気予報に。」
「そうですね。僕たちには食うものがいります。」
「はい。しかし個人の将来を占うと言うビジネスは現在でも存在しています。それは自分の将来に科学や技術が、及んで欲しくないと願う人間が居て、生身の人間に占って欲しいと考え金を払う人がいるからです。」
「僕は、、、占い師になりたいんです。どうしたらいいですか?」
申し込む前に打ち込んだ相談内容を男は繰り返す。
「私と違って貴方は生身の人間です。だから人間に占って欲しい人間を集めれば良いんじゃないでしょうか?ちなみに未来予測コンピュータによる適正予測ではあなたに占い師の適正はありません。成功する未来はないでしょう」
男は深くため息をついて自分の部屋の電気をつけた。
スマホには『ご利用ありがとうございました。』の文字。
やはり人工知能占い師に相談して正解だったようだ。
占い師は騙る 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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