第5話 金澤玲奈の気持ち

 玲奈さんはあの枯れ桜の下で泣いていた。

 玲奈さんの整った顔を涙が流れていく。

「れ…玲奈さん? 大丈夫ですか?」

「……ひろくん…か。 ごめんね、大丈夫です」

 そう言う玲奈さんの表情は暗く、とても大丈夫そうには見えない。

「玲奈さん、俺じゃあ役に立たないかもしれませんが俺は玲奈さんの役に立ちたいんです。

 なので、言えるのであれば教えてくれませんか?」

「…わかりました。紘くんは優しいですね。

 実は私、友達との付き合い方に疲れてきてしまったというか、辛くなってしまって。

 それで最近悩んでて、さっき溢れちゃって……」

 玲奈さんがそんなことで悩んでいるとは知らなかった。玲奈さんは落ち着いた雰囲気だけど、人間関係はしっかりしてそうだったから意外だ。

「玲奈さん、今から言うことは人には言わないでくださいね。

 実は俺もそんな感じのことで中学生のとき悩んでいたことがあるんです。俺はあんまり人付き合いが得意じゃ無いので、どうしても自分から壁を作ってしまいがちでした。でもある日、一冊の本を読んでいたらなんだか自分のしていることがとても悲しく、失礼なことだと思えてきて、やめたんです。そしたら、自分の周りのにも人が集まるようになったんです。

 俺は玲奈さんが今悩んでいることを本質的に理解しているわけでは無いかもしれませんが、思い切って今までの自分を捨ててみるってのもいいですよ」

 正直、これを言ったところで玲奈さんが救われるとは思わなかった。ただ、玲奈さんには俺がついていることを伝えたかったのだ。

「そうですか……。ありがとうございます。

 もう少し考えてみますね」

 そう言って玲奈さんは廊下を歩いて行った。

 その背中は、とても寂しそうだった。


––––––それから俺は玲奈さんをみなくなった。


玲奈さんに会わなくなって二週間が経とうとしている。俺は俺なりに玲奈さんの情報を倫也から聞いたりしていた。

 倫也によると、玲奈さんは結構友達的にも異性としても人気があることがわかった。

 クラスまで調べるのはなんか抵抗があったし、倫也に俺の気持ちがばれそうだったから聞かなかった。

 結構な人気者なら、なんで悩むんだろう。俺には分からない。人から好かれるならそれはとても幸せなことじゃないか。

 分からないことが多すぎて、自分じゃあどうしようもなくなった。

「…こうなったら玲奈さんに直接聞いてみるか」

 本当は聞きにいくのが怖い。嫌われているかもしれない、何日も会っていないのに急に行ったら迷惑かもしれない。

 そんな気持ちはたくさんあった。けど、玲奈さんともう一度話したい。玲奈さんに会いたいと思ったら、そんな恐怖はすぐにどうでも良くなった。動かないことには何も起こらないのだ。

「あ、玲奈さ……!」

 廊下の角を曲がったところの玲奈さんがいたから声をかけようと思っていたら、友達と楽しく話している最中だった。

 けど、玲奈さんの笑顔は前のような綺麗な笑顔には見えず、モヤモヤしたままその日は終わってしまった。

 次の日、俺は昨日帰ってしまったことを後悔していたから聞いたから今日は人がいても話しかけるつもりだ。

 だが、なかなか玲奈さんが見つからない。

 何故か妙な胸騒ぎがした俺は校内を走って探した。

 玲奈さんは階段にいた。一人でゆっくりと降りている。

 すると、玲奈さんの体が前に向かって倒れ始めた。

「玲奈さん! 玲奈さん、大丈夫ですか?」

「………あぁ、紘君か、助けてくれてあり……が…と」

「玲奈さん? ちょっと玲奈さん、しっかりしてくださいよ。

 うわ! すごい熱だ。ちょっと待っててくださいね、すぐに保健室に連れて行きますから!」

 玲奈さんをおんぶして急いで保健室に行ったが、鍵が空いているだけで保健室の先生は休んでいていないようだ。

「玲奈さん、すみません、ベッドに降ろしますよ」

 横にしたが辛そうな表情はなかなかおさまらず、何かしなければならないのだろうが、知識がないのでどうしようもない。

 とりあえず体温を測ってみると、39.8。結構な高熱だ。

「やばいな、とりあえず冷やしたタオルを…」

 そこからはどうすることもできなかったので、俺は玲奈さんの横に座りしばらく見守っていた。

「…紘くん、紘くん」

 名前を呼ばれる感じがしたので、目を開けてみると、玲奈さんがこちらを見ていた。

 俺はどうやら二十分ほど寝てしまっていたようだ。

「玲奈さん…。よかった。本当によかった。

 もう大丈夫なんですか?」

「うん、紘くんがここに連れてきてくれたおかげで良くなりました。おんぶ、ありがとうございます。重かったでしょう」

「あ! いえいえ、全然重くなかったですよ」

 恥ずかしい、咄嗟におんぶしたが、まだ意識はあったのか。

「あの、今日は玲奈さんにお話があってきたんです。

 実は、あの悩みを聞いた時から不思議だったんです。玲奈さんとは会えなくなったから聞けなかったんですけど、本当はなんで悩んでいたんですか?

 俺は本当のことが知りたい。玲奈さんの本当の悩みを教えて欲しいんです」

「本気……なの?」

「はい」

「じゃあまず、私は謝らなければならないんです。私、紘くんを避けていました。なんか、思っていた反応と違って、裏切られた感じがして……」

 反応? 悩みを聞いた時のやつか?

「あの日話した悩みは一応関係はあったんですけど、紘くんの言葉はもっと頑張れって言っているみたいで……」

「そうだったんですか……。それはすみません。俺は玲奈さんのためにって思ったんですが、逆に……」

「違うんです! 私が変な捉え方をしたからなんです。違う悩みを言ったことも悪かったんです。

私は! ……わたしは––––

–––あの日、死のうかなって思ってたんです」



「…………え……?」

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