第2話 彼女への【 】
妹に彼氏ができたと報告をされた次の日、俺はまだ彼女にことを考えていた。
あの後、ネットや友人に【恋】とは何かと聞いてみたところ、
曰く、ずっと一緒にいたい相手。
曰く、友達ではできないことをしたい相手。
曰く、独り占めしたい相手。
曰く、曰く‥‥‥––––。
たくさんの情報が載っていたが、いまいちピンとくるものがなく、ため息が出るばかりだった。
昼休み、気分転換に図書室に行くと、俺がいつも行くスペース。図書室の端になっている人からちょうど隠れるその場所に本を読んでいる彼女がいた。
最初に見たとき同様、とても【美しい】。
だが、枯れ桜を見ていた時のような悲しげな美しさではなく、引き込まれるような。
そんな美しさをしていた。
「あの、すみません!」
何故か声をかけてしまっていた。いや、勝手に体が動いた。
彼女に話しかけないと何か嫌なことが起こる気がした。それは俺が勝手に思ったことだが、でもかけてしまっていた。
「うわわわ! なんですか?」
しまった、緊張しすぎて声が大きかったようだ。
しかし、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまった‥‥‥。彼女の声が、【好き】だと思った。
平均的な女性の声に高さよりも少し低めで、耳の中にスッと、なんの抵抗もなく入ってくる彼女の声を好きだと思った。
「いや‥‥‥その、読んだことある本を読んでたので。つい声をかけちゃいました。すみません」
「あぁ、そういうことでしたか。
この本って読んだことある人が少ないですよね。声を掛けたくなってしまう気持ちすごいわかります」
読んだことあるのは事実だが、こんな咄嗟に出た変な理由に返してくれるとは思ってなかったので、とても嬉しく感じた。
しかも、話しかけてしまった手前、俺が会話を終えてしまうのは申し訳ないから本の話題を引っ張ってみる。
「そうなんですよね、この本ってネットとかにも書かれてますけど内容が若干難しくて話についていけないとか。
でも、その難しさが一つの魅力で難しい内容を理解した時に本の意味がわかってすごく嬉しいんですよね」
「やっぱりそう思いますか? 私も少し難しいとは思ってたんですが、本当に理解してくれた時に人間本来の生き様というか、そういうのがわかると思うんですよ」
若干俺とはみる視点が違うのか‥‥‥。
俺はその本に書いてある人間味あふれる悲しみ・寂しさに惹かれたが、彼女は違うようだ。
「すみません、突然ですが。
僕は君影紘と言います。貴方の名前を教えていただけないでしょうか?」
「‥‥ふふ、本当に突然ですね。
はい、私の名前は金澤玲奈。君影くんとは話が合いそうなので、また図書室に来てくれると嬉しいです」
彼女の笑顔を見た。とても【綺麗】だった。仲良くなれたことが嬉しかった。また会おうと言ってくれたのが嬉しかった。
「はい、また話しましょう!」
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