第1話 出会い

 俺、君影紘は恋と無縁の生活を送ってきた。

 中学ではアニメや漫画ラノベにハマり、俺はこれでいいんだと自分で壁を作って生活してきた。

 だが、高校生になるにあたってそういう類のものは全てやめた。

 後悔はない。やめたことで見える世界が変わったし、関係のない【恋】というものにも興味を持った。

 俺は【恋】は必要のないものだと思っていた。まず好きという感情が理解できなかった。仮に理解しても、常に一緒にいるというその状況はいつか辛くなり、苦痛でしかなくなると思っていた。

 そう、言ってしまえば、理解ができないというその理由だけで【恋】というものを否定していた。

 –––––––今までは。


 高校へ向かう一本道の通学路を俺は一人で歩いていた。何も考えずにぼーっと。

 この道をまっすぐ行けばそこはもう高校の目の前で、いつものように道から出ようとした。

「–––––‥‥‥え?」

 意識してもいないのに口から出た。出てしまった。

 俺が道から出てきて目の前に枯れた桜を見ている女子生徒が目に写ったからだ。

 そのとき俺は人生で初めて、なんの疑いもなく女性を女性と認識し、加えて【美しい】と思った。

 可愛いわけでも、スタイルがいいとかじゃない。ただ純粋に【美しい】と思った。

 その生徒はすぐに校舎に入ってしまったが、俺は彼女に、そして何より自分にびっくりしていた。

「なんだったんだ‥‥‥‥?」


 昼休み。まだあの生徒のことを考えていた。授業中もなぜか頭の端にずっといた。なぜだかわからなかった。

「それってさぁ、要は好きになったってことじゃないのか?」

 こんなことを言ってくるこいつは四季倫也。中学時代の俺を知っている数少ない人物である。

「いやいや、前にも言っただろ。恋っていうのはもっとなんか、グッとくるようなもんがないと恋じゃないだろ?」

「そんなもんかねぇ? まあ、紘がそう思うならそうなんじゃないの?」

 何度も言ったために面倒臭くなったのか、倫也は投げやりな回答をして去っていった。

 それから時間は経ったが、彼女が頭から離れることはなく学校が終わってしまった。


 夕食後、妹の舞と話していると突然頬を赤らめて、

「お兄ちゃん、私‥‥‥彼氏ができたの」

 と言われた。

 まあ、妹は俺みたいな感じじゃないのでいつかはできると思っていたが何故か俺にだけ言ってきたのだ。

 なんでも、舞は俺から付き合い方を聞きたかったらしく話したようだが、現在の俺にそんなことをアドバイスできるはずもないのでごめんねと言って‥‥‥寝た。

 だって、悔しかったんだもん。

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