誰かとユーザーとSNSコミュニティーの人たち
其乃日暮ノ与太郎
情報は足で稼ぐ
「あぁ、あの人ね。最近見ないな。あ、見ないってSNS内でって事だから」
これが、二次創作に長けていて以前よじファンに自作をアップしていたアマチュア作家の東一坊清史の返答。
「一般文芸で本格的な小説家になるって言ってた人ですよね。公募に出したり、同人誌を作ったりしてたのよ」
こっちは、気軽さが売りのケータイ小説でガールズエンタテインメントを自身の執筆で供給している三芳愛実の話。
「絡みが無くなってから大分経つな。どうかしたんですか?」
こちらは、過去に小説投稿サイト企画から生まれた5枚シリーズの書籍に作品が掲載された宮内喜四郎の反応。
「はい、存じ上げています。切磋琢磨し合うライバルでもあることは事実です」
これは、長い歴史を持つ小説投稿サイトが持っている独自の文庫から書籍化経験がある藤岡泰二の証言。
「あぁ、フォローバックはしたけど作品は好みじゃ無かったから読んでないな」
この受け答えは、しよう系と呼ばれるジャンル界隈で目の肥えたライトノベルファンに一目置かれている読み専の江本誠六。
「そういえば更新が停まってたっけな。自分で作ったサイトにも掲載したりしてたけど滞ってたね」
そして、その世界では二大巨頭とされているウツミルの作品紹介ページに表示されるレビュー書きを専門にする五木英彦に聞いた後、
「分からないな」
ノベルアゲタスの公式キャラクターで看板娘をしているのべななちゃんさんにアカウントから返信を貰った。
まさかその手掛かりが小説を中心にした仲間達からしか得られないとは思ってもみなかったぞ。
働き盛りのピークをとうに越したこの八戸政次が老体に鞭打って東奔西走した各地でボールペン型スパイカメラのボイスレコーダーに収めた言質を聞き返してみるが、一向に素性が判明しないままだ。
北陸富山県に住まいを置く三芳の言葉にあった、
「あそこでは書き手同士も互いに作品を読み合ったり励ましのコメント送ったりと横の繋がりが出来上がっていくんですよ」
を頼りにしてみたが、東北宮城県で農家を営む宮内には、
「作品を誰かの元に届けるための努力を惜しまない人って印象だね」
としか引き出せず、山陰島根県民の藤岡には、
「会った事はありませんが、読まれる事に存在意義を見出していて、それが作品に刻み込まれてると感じていました」
とパーソナルな部分に触れていない会話しか出来なかった。
北関東栃木県で暮らす江本の所に行っても、
「登録者が多いサイトってその分新着作品がたくさんあるから毎日新しい作品に出会うことができて飽きが来ないんだ。だからその人まで手が回らなかったって言った方が正解だな」
と無駄足だったし、関西京都府が居住地の五木からは、
「私語りが得意で、訴求力を求められるキャッチコピーは秀逸だったよ」
と私的な感想しか聞けなかった。
始めに接触を
「批評系の厳しい小説投稿サイトでも固定読者を増やしていたけど、私心を述べずにプライバシーを明かさない人だったよ」
に嫌な予感ががしたけど、ここまで身分が隠されていたとはな……
頻繁に交流がなされていたメンバーで残るは近畿滋賀県の女性だ。
東海道新幹線米原駅西口から徒歩二分足らずのこじんまりとしたホテルに前日入りした翌朝、黒で2ボタンの洗えるスーツを身に纏ってからノートパソコン片手にロビーへ降りてチェックアウト後に籐製椅子に腰掛け待機した。
視界の端に現れたアンダーバストからプリーツになったブラウンのキャミロングワンピース姿の植松
「御用というのは」
「はい、先日お話した件をより詳しくお聞きしたいのです」
今回もわざわざ会いに来たのは、各種スマホやPCに搭載されているビデオ通話機能でキャラクターフィルターを使用されるのを
植松さんにテーブルを挟んだ椅子に座って貰い用事を進める。
「で、あの人は……」
「性格までは知りません。が、SNS上では『私』という一人称代名詞を使っていましたね」
「他には……」
「口語と文語にはうるさかった覚えがあります」
「些細な事でもいいんですが……」
「あそこまで自分を
(またもや空振りか)
「まぁ……強いて言えばなんですが」
「それでも構いません」
「小説を書くというのはとても孤独な作業なんですが、その合間に創作仲間を増やしていくとちょっとした不正行為を持ち掛けられる場合があって」
「ほう、それで?」
「何だかその内容を問わずにPVや評価を異常に付け合うアンフェアなグループから脅迫されていたみたいでした」
(そうなると、もしかしたらだが、スパイカメラで撮ったこの人物達に目を通してもらえばヒントがこぼれて来るかも知れない)
「では、ちょっとこのパソコン画面を見て下さい」
「はい。……ん……う~ん……あ!この人」
「え?」
「一度あの方が同人誌即売会の様子をアップしてた事があって、そのブースの壁から半身が出ていたのがこの人です」
(来た!勘が的中した)
「そうでしたか、ありがとうございました」
十二分な回答を得られたその後、植松
米子駅から伯備線で7分後に
スチールドアをノックし、開かれた瞬間に片足を差し込みフルオープンにする。
その拍子に素足で廊下に出てしまった白地に十三仏がプリントされたTシャツを着てベージュのチノハーフパンツを履いた相手は驚きを隠せていなかった。
「あなた、自らを『私』と称していた人物に面識が無いって言いましたよね」
「えぇ、それが何か」
「いや、あんたは同人誌を売る会場で接触してますよね」
「……いえ」
「証拠も無くここに来たと思います?見ますか?」
「……」
「初対面の時に『会った事はありませんが』と強調したのが引っ掛かっててね」
「……」
「で、今あの方は何処です?」
「……もうアイツはいない」
「それはどういう意味ですか」
「もうこの世に居ないんだよ」
「お前は何を知っているんだっ」
「俺が殺しちまったんだよ、あの男を」
……へ?……男?……あの人が……終わった……
この時、高性能な道具類を買い、交通費をかけて各地を廻り、貯金を使い果たす程浪費し、残り少ない生涯の時間を使い、探偵紛いな振る舞いで人に接して捜索を続けていた、相手を理想の女性だと過剰に妄想を膨らませて追いかけていた年甲斐も無く
八戸政次が放心状態で立ち尽くす。
藤岡「あの野郎が俺の金をばらまいた票集めを罵ったんだ。だから奴をここに呼び出してから……」
八戸「……ります」
藤岡「え?」
八戸「帰ります」
藤岡「は?警察に突き出さないのかよ」
八戸「あぁ、それ。自分で勝手に行って」
誰かとユーザーとSNSコミュニティーの人たち 其乃日暮ノ与太郎 @sono-yota
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