第8話 何度だって飛べる
プロローグ
オルステッドさんとサブリナが、トアールの町に到着する数日前のことだった。
「諸君らに通告する」
騎士隊の出陣が決まり、騎士隊長ブレイヴは隊員たちを前に話をしていた。
「これから向かう場所は死地だ。諸君らの命をかけて戦ってもらうことになる。新開発の試作型が有るとはいえ、敵の抵抗は相当なモノと推測される」
その言葉に、隊員たちは口々に「やってやりますよ!」だの「そのための騎士隊です!」だのブレイヴに向かって叫んでいる。
「ああ、そうだ。たとえどんな敵であろうとも、我々騎士隊なら砕くコトが出来る! 切り裂くことが出来る!」
隊員たちは槍や足で床を鳴らし、興奮を押さえられない。
「行くぞ皆! たとえ敵が強大でも、その喉元を食いちぎってやろうぞ!」
隊員たち士気は最高潮に達した。
そしてブレイヴは剣を抜き、高々と天に掲げる。
「我ら軍神とともにあり!」
ブレイヴの名前が連呼され、鬨の声が上がった。
そしてブレイヴたちは死地へと向かった。
1
魔力が回復したストレイボウの転移魔法ウインディウイングの力で、魔王山は目前というところまで来た。
「すまん。さすがに魔王山の中まではいけないようになっていた」
魔族を裏切ったストレイボウが、魔族の元へすぐに戻れるワケはなかった。そういうことなのだろう。
「大丈夫。歩いて行けばいい」
サブリナは魔王山に向け、既に歩き始めていた。
「サブリナは魔王山に来たことあるのか?」
アリシアの問いに、サブリナは首を横に振る。
「でもあの山が一番邪悪」
指さしたのは邪悪な気配が立ちこめる、魔王山だった。
遅れまいと三人もついて行く。そんな中オルステッドさんは決意を固めていた。
「今度こそ皆を守り、ゲヴァースを倒す!」
拳を握り、オルステッドさんは先を行くサブリナに並んだ。
「オルステッドさん、肩に力が入っている。深呼吸して」
オルステッドさんはサブリナに言われるまま深呼吸をする。しかしオルステッドさんの熱は止まらない。酸素を得たことでより強く燃えている気もする。高地だから酸素濃度は薄いはずだったが、強く燃えている気がした。酸素濃度は低いが、沸点は高くなる。そういうことなのだろう。
「サブリナ、こうなったオルステッドさんは止められないぞ。わたしが一番よく知っている」
オルステッドさんは鼻息荒く、ズンズンと効果音を立てながら進んでいく。
「オルステッドさんは皆を守る気なのだろう。オレたちもせいぜい後れを取らぬよう、戦うしかないな」
そして四人は魔王山前の荒野に突入した。
前方には魔王山の入り口、魔獣の顔の形をした門が見えてきた。
「アレが門ね」
「ああ。やはりというかなんというか。わたしたちをタダでは通してくれないようだ」
魔獣は口を開け、中から百人近い黒い鎧で完全武装した魔族の軍勢が四人に襲いかかってきた。
四人は各々武器を取り、ストレイボウは呪文の詠唱を始めた。
飛びかかろうとするサブリナをアリシアは止める。
「何故?」
「まだだ」
ストレイボウは詠唱を完了した。
そして魔法を放った!
「コロナノヴァ!」
それは上位の対軍火炎魔法。襲い来る魔族の軍勢は、半数以上が巨大な炎の渦に飲み込まれた。
「よし行くぞ!」
しかしコロナノヴァでやっつけられた魔族は、炎の渦に巻き込まれた半数だった。
七十五人の魔族がオルステッドさんたちに襲いかからんとしていた。
「サブリナ、オルステッドさんについて!」
サブリナはオルステッドさんとともに走り出した。アリシアはストレイボウを抱え、オルステッドさんの後ろを走った。
オルステッドさんたちは、襲い来る軍勢の右側を走り抜けようとした。
しかし魔族はそんなコトさせない。
完全武装の魔族たちは、弓を射かけたり、魔法を唱えたり、なんとか足を止めようと襲いかかってきた。
しかしなんとか走り、魔王山の入口まであと少しという所だった。
「第二波か」
魔王山の入口から二十人の完全武装した魔族たちが現れたのだ。
「甘かったか。挟まれたな」
「最初からこうすればよかった」
サブリナは正面の敵に襲いかかった。オルステッドさんもそれに続く。
思わず笑ってしまったアリシアは、後方の敵に襲いかかった。
ストレイボウは三人の援護を開始する。
魔族たちは今まで戦ってきたヤツらほどは強くなかった。勝てない相手ではない。しかしいかんせん数が違いすぎた。
オルステッドさんもサブリナもアリシアも、徐々に後退を余儀なくされ、ストレイボウのいる辺りまで戻された。
「こうなったらDDシステムを使って……」
「まだだアリシア、まだ早すぎる」
この後にゲヴァースやゲルヴェールとの戦いが控えている。頼みの綱であるDDシステムや、魔力を大きく使うことは避けたい。しかしそんなことを言っていられるのだろうか? とてもじゃないが魔力を使わないと完全武装の魔族百人相手は出来ない。
オルステッドさんとアリシアの背中がぶつかった。もう引くことは出来ない。
「おとなしく投降しろ」
先頭にいる魔族は投降を促してくる。しかし投降したところで待っているのは死。
「時間稼げるか? 一分」
ストレイボウの提案に、全員がうなずく。
ストレイボウは呪文の詠唱を開始した。転移魔法ウインディウイングだ。
「させるか! かかれ!」
魔族どもはオルステッドさんたちに襲いかかる!
どこからか矢が雨のように飛んできた。
ストレイボウは詠唱を中断し、四人を守る魔力障壁を生み出した。
「誰だ! どこだ!」
「物の怪よ、正義の一撃をくれてやる!」
鬨の声がアリシアの前から聞こえてきた。
「アレは!」
アリシアは声の先を見る。
「騎士隊……!」
サブリナも声の先をチラ見する。
「なんだあの鎧は」
五十人の騎士隊員たちは新たな鎧を身につけていた。
明らかに鉄製の鎧では無い。マットなグリーンの鎧だ。
隊長らしきヤツのみ、ブルーの鎧を身につけている。こちらも鉄製の鎧ではなさそうだった。
「「かかれ!」」
両陣営の指揮官の下、グリーンの集団と黒い集団がぶつかった。
オルステッドさんたちに襲いかかるのは目の前の二十人のみ。これなら突破できる!
「行くぞ!」
ストレイボウの号令の後、四人は敵に向かっていった。
背後を取られた魔族の集団は、徐々にその数を減らしていった。
「フフン、ハカセの作ったこの新装備、すこぶるいいな」
青い鎧を身につけているブレイヴは戦況を見ながらつぶやく。
その言葉通り、緑の集団は黒を塗りつぶそうとしていた。
「魔導アーマーでしたっけ? さすがの性能です」
「ああ、身につけにくい魔力コントロールの力を、魔導水晶を使うことで簡単に使えるようにした新型鎧。魔導水晶の効果が切れない限り、半永久的に使る」
「これはもう勝ったも同然ですね」
しかしブレイヴは勝利するまで気は抜かない。戦局を見定めていた。
緑の集団は既に七十五人を倒しきり、オルステッドさんたちが戦っている前方の二十人に取りかかっていた。あと一歩で殲滅出来る。
完全なる勝利は目前だった。
魔王山の入口から出てきたやつがいた。
「何だ? アレは?」
ブレイヴが見たのは巨人だった。サイクロプスとか、ゴーレムの類いでなはい。鉄巨人が現れたのだ。
大きさは一般成人男性の倍ほどだろうか? ゴーレムにしては小さい。地面を滑るように走る鉄巨人は、魔導アーマーを身につけた隊員たちにどんどん近づいていく。
そして、その巨体を生かした攻撃で、戦況はいっぺんに変わった。
「出撃する」
ついにブレイヴたちも、戦いに参加することになった。
2
魔導アーマーを身につけた隊員たちも、奮闘していた。しかし鉄巨人は隊員たちを寄せ付けなかった。
「どうする? ヤツらを置いて先へ進むか?」
ストレイボウの声を無視して、オルステッドさんは鉄巨人へ向かっていった。
「やはりそうするよな」
四人も鉄巨人へ向かっていく。
鉄巨人は斬馬刀よりも大きなロングソードで、辺りをなぎ払っていく。
オルステッドさんはロングソードを自らの剣で受け止める。その一撃はあまりに重く、オルステッドさんは吹き飛ばされた。
すぐさまオルステッドさんは体制を整えて、鉄巨人に向かっていこうとした。
しかし、鉄巨人の追い打ちがオルステッドさんを襲った。
上段からの一撃。オルステッドさんはギリギリのところでなんとかそれをかわす。
「暴れんじゃねえ!」
隊員の一人が槍で鉄巨人の装甲を突く。
完全武装の魔族を何人か屠った槍さばきも、この鉄巨人の前では大した攻撃になり得なかった。
別の隊員が、鉄巨人にバトルアックスで斬りかかる。バトルアックスは、装甲の一部に切れ込みを入れた。
隊員たちがわらわらと鉄巨人に集まりだした。
当然鉄巨人はそのままではいない。右手のロングソードで隊員たちをなぎ払い、開いた左手で隊員たちを掴んでは地面へ叩きつけた。
ようやく到着した指揮官ブレイヴは、鉄巨人に剣の一撃をくれる。
さすがに騎士隊長、バトルアックスの一撃より大きなキズを鉄巨人につけることが出来た。
全員が一丸となって、鉄巨人に襲いかかった。もう完全武装の魔族は倒しきっていない。あとはこの鉄巨人だけだった。
あと少しで勝てる! 全員が勝利を確信した。
そこでアリシアはあえてオルステッドさんとサブリナを後退させた。
「オルステッドさん、先に行け! ここは騎士隊とわたしたちに任せるんだ」
アリシアはそう告げる。
「おそらくゲヴァースはゲルヴェールとともに、魔王山の頂上で邪神を召喚する儀式をしているハズだ」
呪文の詠唱を続けているストレイボウも首肯する。
「阻止するんだ! ここは任せて!」
オルステッドさんは残って一緒に戦うと主張する。しかしサブリナはオルステッドさんの手を取った。
「行こう。邪神が復活したら大変」
かなり戸惑っているが、オルステッドさんは魔王山に向かった。
「アリシア、ストレイボウ」
サブリナの声に、二人は返事をする。
「死んだら殺す」
それだけ言い残し、サブリナはオルステッドさんとともに魔王山へと駆けていった。
「殺されないようにしないとなストレイボウ」
詠唱を中断せず、ストレイボウはニヤリと口元をゆがめた。
アリシアは鉄巨人に襲いかかった。
様々な武器が鉄の体を切り裂き、砕いていく。
ついに鉄巨人は膝をついたのだ。
「離れろ!」
詠唱を終えたストレイボウは全員に、その場を離れさせた。
「メテオ!」
次の瞬間いくつもの流星が鉄巨人を襲った。
鉄巨人は穴だらけになり、その機能を停止した。
隊員たちから歓喜の声が上がる。
「我々の勝利だ!」
歓喜の声が上がる中、魔力の大半を使い切ったストレイボウは、その場に膝を突いた。
「やったなストレイボウ」
アリシアはストレイボウを支えて立たせた。
「さあオルステッドさんの所へ行こう」
第一歩目を二人は踏み出した。
光線が、一人の騎士隊員の胸を貫いた。
その場にいた全員が後方を見る。
鉄巨人のがれきの中から人影が現れたのだ。それは魔族の男。しかし、アリシアとストレイボウは見たことがある人物。
「魔王、ゲルヴェール……」
「玩具を壊した程度でこの騒ぎとは。人間というものはつくづくめでたい」
アリシアとストレイボウは臨戦態勢を取った。「なるほど、アレが親玉か」
ブレイヴは剣をかまえ直す。魔王という言葉に逃げ腰になりそうだった騎士隊員たちも、各々武器をかまえ直した。
「そうか、刃向かうか。まあよい。試作型とはいえ、キラーマシーンを破壊したのだ。それ相応の褒美を与えんとな」
がれきの上から飛び降りたゲルヴェールは、地面に優しく降り立つ。
「何がいいか」
ブレイヴは剣をゲルヴェールに向ける。
「アナタの命をいただきたく」
ゲルヴェールはそれを聞くと大きく笑い、外衣を取り外した。
「しかし余の命、取れると思うか?」
「答えるまでも無く」
ゲルヴェールは再び笑う。
「ならば教えよう。格の違いというモノをな」
ブレイヴは先陣を切り、ゲルヴェールに襲いかかった!
3
五分とかからなかった。
立っているのはたった一人、素手のゲルヴェールだけだった。
「なんと他愛ない」
うめき声をあげる騎士隊員たちを見て、ゲルヴェールは口元を愉悦にゆがめる。
「魔王よ、手加減したな?」
ブレイヴは剣を杖に立ち上がる。
「余は虫を好む。羽をもぎ、手足をもぎ、動けなくなったところで頭を取るのが好きでな」
「我々は虫か」
「違うのか?」
「フッ、魔王よ。小さき虫にも燃え上がるような魂がある」
「ならばその気概、見せてみよ。この絶望を見た後でな」
ゲルヴェールは力を溜め始めた。隊員の一人が立ち上がり、力を溜めているゲルヴェールを槍で突いた。しかしゲルヴェールはバリアを張り、槍はその一撃を届かせるどころか、粉々に砕けた。
魔王の姿が変わっていく。魔王ゲルヴェールはその原型をとどめていなかった。その場所に居たのは……!
「魔王とは魔獣の類いだったか」
大きさは鉄巨人と同程度、赤黒いウロコのランドドラゴンのように見える。しかし、二足で動いている。
「コノ姿ニナルト、腹ガ減ッテ敵ワヌ」
ゲルヴェールは先ほど槍を破壊された隊員を掴み、悲鳴をあげている彼をぼりぼりと音を立てながら食べた。
当然ブレイヴたちは彼を助けようとした。しかしどこを攻撃しても武器ははじかれた。
「隊長! 硬すぎます」
「うろたえるな! 必ず勝機はある!」
ゲルヴェールは尾で騎士隊員たちをなぎ払う。そして歓喜の咆吼をあげた。
次の瞬間気合いとともに、アリシアはゲルヴェールの頭部へ一撃を食らわせた。
額に一撃を食らったゲルヴェールは悲鳴をあげ一歩、二歩と後退した。
「額の宝玉を狙え!」
ブレイヴは体勢を整え、ゲルヴェールの頭部へ騎士隊員たちに攻撃を集中させる。
「ソンナモノ!」
ゲルヴェールは燃えさかる炎を吐き出す。全員がゲルヴェールと間合いを取った。
しかし炎を吐きり息を吸い込んだ瞬間、アリシアはゲルヴェールの額に剣を突き刺すため駆けた。
「サセルカ!」
ゲルヴェールはアリシアに手を伸ばす。
しかしストレイボウのファイアボールがゲルヴェールの顔面に当たり、ゲルヴェールはおもわず怯んだ。
次の瞬間、飛び上がったアリシアの剣が、額の宝玉を貫く!
「ギャアアアアム」
アリシアはゲルヴェールから離れた。
「これでどうだ?」
ゲルヴェールは大きなダメージを食らった。しかし倒れない。「魔王は膝を地に着けない」という意地でもあった。
「オノレ、虫ケラドモガ」
するとゲルヴェールは体を輝かせた。
「ゲルヴェール、何をする気だ?」
ストレイボウは杖を向ける。
「フッ、何が来ようと我々騎士隊が倒す!」
次の瞬間ゲルヴェールの体は灰となり、崩れさった。
全員の頭の上に「?」が浮かぶ。
「なんだったんだ?」
つぶやいたその時、ぞっとする何かをアリシアは感じた。
「上だ!」
ストレイボウの指さす方向には、赤い羽をはやした男が浮かんでいた。
男は手を合わせた。龍が口を開いているような形の手をこちらに向けてくる。
「嘘だろ!」
アリシアは上空の男から全身の毛が逆立つほどの強力な魔力を感じた。
「おい、死にたくなければこっちに集まれ! いいか! 集まるんだ!」
ストレイボウは、その場にいた全員が集まったのを確認すると、ストレイボウはDDシステムを起動し、自身に作ることが出来る最硬の魔力障壁を作り上げた。
「なんとか持ってくれよ!」
男の手元が光った。
破壊の序曲が奏でられた。
荒野はおよそ生命が生き延びることが出来ない焼け野原と化した。
「なんとか持ちこたえられたな」
息も絶え絶えながら皆なんとか生き延びられた。ストレイボウは魔力障壁を解除し、笑みを浮かべた後、その場に崩れ落ちる。無理も無い、残った魔力をほぼ使い切ったのだ。
男が天から降りてきた。
「それが真の姿か、ゲルヴェール!」
アリシアの問いに、男は「いかにも」その一言だった。
赤い翼をはやしたゲルヴェールは一見すると元の姿に戻っている。
外見での違いは翼と赤黒い鎧だけに見える。
しかしそこから感じられる力は、今までの比では無かった。
天から降りてきたゲルヴェールを、残った全員で迎え撃つ。
「ゲルヴェール!」
ブレイヴを筆頭に、騎士隊の面々が、ゲルヴェールに襲いかかる。
ゲルヴェールは浮いていた自らの赤い羽を掴むと、それを深紅の二刀に変化させ、襲い来る騎士隊員たちを斬り捨てていった。
ゲルヴェールはただ道を歩いているだけ。騎士隊の連中が自ら斬られに行っているようにさえ見えた。それはブレイヴも例外では無く、自ら斬られに行っているように見えた。
「なんという強さだ」
倒れそうになる体をなんとかブレイヴは踏みとどまらせる。
「しかし、そうでなくては物足りんな」
ゲルヴェールは立ち止まり、笑みを浮かべているブレイヴを見る。
「ふむ、まだ諦めんか」
「無論だ」
体をゲルヴェールに向け、ブレイヴは再び斬りにかかる。
しかしアリとファイアドラゴンほども違う圧倒的なまでの力の差、簡単には埋められない。
「DDシステムスタンバイ」
「ついに使うか、改造人間」
「オルステッドさんの所に行くまで取っておきたかったが、そうもいきそうに無いからな」
アリシアは剣を振りかぶり、ゲルヴェールに襲いかかる。
「如何にシステムを使おうと、この差は埋められぬ」
アリシアの剣は簡単に受け止められた。しかしアリシアはすぐさま別の角度から剣を打ち込む。それも受け止められる。アリシア必殺の連続剣、しかしことごとくが受け止められる。
「だとしても、諦めない!」
アリシアは諦めずに剣を放ち続けた。そのスキを見逃さず、ブレイヴの放った一撃をゲルヴェールは受け止める。
「貴様ら、まだ懲りないか」
「我らに後退はあり得ないのでね」
アリシアも、ブレイヴも諦めてはいなかった。残った隊員たちもゲルヴェールに襲いかかる。
「小賢しい」
ゲルヴェールは翼の一撃で、全員を吹き飛ばした。
「そろそろ飽きてきたな」
ゲルヴェールは再び上空へと飛び上がろうとした。再び破壊の序曲で地上を襲おうとしていた。
ブレイヴは一瞬考え、バイザーを下ろしている兜の下でニヤリと笑った。
「DDシステム、スタンバイ!」
それは指揮官用の魔導アーマーにも搭載されていた。
ブレイヴは青い魔導アーマーを真っ赤に輝かせ、ゲルヴェールに突進していく。
「隊長!」
「それは使ってはいけないと!」
ハカセは言った。魔導アーマーはまだ試作型。DDシステムを積んで入るが、制御はできない。暴走し爆発する可能性が高い。しかしブレイヴは使った。使ってしまったのだ!
通常の三倍以上のスピードでブレイヴは突進し、ゲルヴェールに一撃を加えた。
ゲルヴェールの剣を一本へし折り、その上でゲルヴェールの胸部に、大きな裂傷を加えた!
「これは死ではない! 生きるための道標となるのだ!」
ブレイヴは、そのままゲルヴェールに抱きつき、自爆した。
隊員たちは思わず「隊長!」と叫んだ。しかし辺りには爆散した魔導アーマーの欠片が、隊員たちの元へと降り注いでいた。
「あの男……!」
気づいたアリシアは、爆煙の中へ飛び込み上段から剣を振る。
爆煙が吹き飛んだ先には、片翼を失ったゲルヴェールがアリシアの剣を受け止めていた。
「おのれ虫ケラめ」
アリシアは剣に力を込めた。力を込められた剣は徐々に押していき、ゲルヴェールにあと少しで当たりそうだ。ゲルヴェールの腕は片方。ブレイヴによって左腕はへし折られもう使用は敵わない。
それでもゲルヴェールはアリシアを力で弾き飛ばし、間合いを強制的に取った。
「隊長の仇!」
隊員たちはゲルヴェールの背後から襲いかかる。ゲルヴェールはそれに対応するため、剣を振ろうとした。
不意に来たファイアバレットの魔法を、ゲルヴェールは斬り落とした。
ストレイボウの作り上げた隙に、隊員たちは殺到する。
「おのれ!」
ゲルヴェールはそう言い切る前に、胸から何本も剣を生やした。
「ククク、もう遅い。邪神はもう復活する」
そう言い残し、ゲルヴェールは光の粒子となって消えた。
次の瞬間アリシアのDDシステムは、限界時間を迎えた。
アリシアはストレイボウに顔を向ける。
ストレイボウは笑みをこぼす。そして、今にも倒れそうな足取りで魔王山へと向かった。アリシアもそれに続く。
「どこに行こうというのです!」
ストレイボウは振り向かずに言い放った。
「魔王山だ」
「ああ、戦いは終わってないからな」
アリシアは隊員たちにそう告げ、剣を握り直した。
エピローグ
ゲヴァースを止めないと。
オルステッドさんとサブリナは、魔王山を登っていった。
襲い来る魔族たち数人と戦いながら、どんどん進んでいく。
ゲルヴェールの偽物と戦ったところを越えて、進んだ先は、魔王山の頂だった。
「オルステッドさん」
サブリナが指さした先に居たのは、邪神の像の前で大量に置いてある魔導水晶に魔力を送っているゲヴァースだった。
不意にゲヴァースは魔導水晶に魔力を送るのを止めた。
振り返ったゲヴァースは自らの剣と盾を取り、オルステッドさんとサブリナを見る。
「さあ、仕上げだ」
ゲヴァースが襲いかかってきた!
つづく
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