第6話 震えていた羽は闇を切り裂いていく

       プロローグ



 目が覚めた。

 とても頭がすっきりしている。こんなに熟睡したのは久しぶりだ。

 でももうちょっとだけ寝ていたい。あと五分程度、このまどろみを楽しみたい。

 しかし、叶わぬ願いだった。まどろみを楽しんでいるオレの肩へ手が伸び、力強く体を揺らしたからだ。

「起きたか」

 目の前に居た魔族の男、ゲヴァースといったか。そいつがオレを起こしたのだ。

「ああ、起きた」

 ゲヴァースはオレをじっと見てくる。

「ゲヴァース様」

 その言葉を聞いて、満足そうにゲヴァースはうなずく。

「腹ごしらえの後、すぐに仕事だ。内容は……」

 ゲヴァースはオレに仕事の内容を伝えた。オレはたった一言返しただけだった。

「承知いたしました」



                1



 駆けも駆けたり五日間。オルステッドさんとサブリナはようやく王都ゴータニアに到着した。

「ようやく着いたねオルステッドさん」

 オルステッドさんは早速ではあるが、ハッシュを探そうと提案する。

「ワタシもそう思っていたところ」

 オルステッドさんとサブリナは、大門の中へくぐって王都の中へと突入していった。

 ゴータニアの市街地は広い。平民が住む区間だけで、切り裂きジョージィと戦ったローザリオの街が三つは軽く入ってしまうだろう。それほどの広さだった。

 ハッシュがどこに居るかは知らないが、このゴータニアで居場所がわからない人を探すのは困難を極めるだろう。

 サブリナにはどこに行けばいいか見当も付かなかった。

「どこへ行けばいいのかしら? 酒場? そうね情報収集の基本」

 酒場は人が集まる。人が集まるところには、情報も集まる。そして酒場ならおいしいごはんも食べられる。オルステッドさんには一石二鳥だった。

 とりあえずの目標が決まったところで、二人は歩き始めた。

 しかし人のなんと多いことか。まるで祭りでも開かれているようだ。しかし今日は平日、ゴータニアはいつもこんな人混みなのだ。しかも二人がいるのは王都ゴータニアの大門をくぐったところ、そうでなくとも人が多いところだった。

「オルステッドさん」

 サブリナに差し出された手を掴む。サブリナの手は温かかった。

 オルステッドさんは手を放さない為に、必死になってサブリナについて歩いた。

 しばらく歩くと、道は三つに分かれていた。

 王城へ向かうまっすぐの道。貴族が住み、大きな教会なんかがある方へ向かう右の道。そして平民区へ向かう左の道。

「どっちへ向かうといいのかしら?」

 オルステッドさんは平民区への道へサブリナを引っ張る。

 よくよく考えたら、迷うことは無かったのだ。オルステッドさんやサブリナが貴族たちの住む地区へ足を運べないのだ。

 運んだとしても、すぐに「怪しいヤツだ!」なんてことになって連行されるだろう。そんなことにでもなったら、ハッシュを探すどころでは無くなる。

 平民区に入ってしばらく行き、スラム街との中間地点くらいにさしかかったところで、ようやくゴルヘスと書かれた酒場があった。

「ここだわ。入りましょ」

 スイングドアを開き、二人は手をつないだまま中へと入っていく。

 二人はカウンターへ行き席に座った。

 なんだかわからないけど笑われている。サブリナにはわからない。

 酒に酔った男が「嬢ちゃんオレも相手してくれよ」なんて言ったモノだから、サブリナは顔を真っ赤にして酒場を出て行こうとしていた。

 それをオルステッドさんは止めに入った。

「そうね情報を集めないと」

 大きく息を吸って冷静さを取り戻したサブリナを、カウンター席に再び座らせたオルステッドさんは、とりあえず二人分のパスタ料理を注文し、酒場のマスターに話しかけた。

 ミートボールが乗っているトマトソースがかかったパスタ料理が二皿出てきた。

 オルステッドさんは食べ始める前に、マスターに聞く。

「え? ここ最近変わったことですか? うーん……そうですねえ……」

 マスターは黙り込み考えている。

「え? 麦ジュースを一杯くれって? その間に思い出すかも? そうですね」

 マスターはジョッキ一杯の麦ジュースをオルステッドさんに持ってきた。ビールとかエールではない。麦のジュースだ。アルコールは入っていない。ビール味のジュースだ。

 オルステッドさんは銀貨を三枚マスターに渡す。麦ジュース一杯と、パスタ料理二皿の値段にしては多い。情報料の代わりだった。

「そうですね、さっき兵士がやって来て、そこに処刑の日程を書いた紙を張っていきましたよ」

 グラスを磨く手を止め、壁に貼られた紙を指さす。

 ズルズルと音を立てながらパスタ料理を食べつつ、二人は壁に貼ってある紙を見に行く。

 そこには大々的に行われる処刑の日程が書かれていた。

「国家反逆罪の男、処刑……コレね」

 サブリナはその文字をよく見る。

「日程は……『明日の午前十時ころ中央の大広場にて』か」

 サブリナはパスタ料理の盛り付けてある皿を、近くのテーブルに置くと、すぐに走り出そうとした。オルステッドさんはそれを止める。

「何故止めるの? ちゃんと食べないとダメって? この後しばらく食べれないだろうから?」

 オルステッドさんは既にパスタ料理を食べ終わっていた。

「わかったわちゃんと食べる」

 サブリナがミートボールの欠片もちゃんと食べたのを確認し、オルステッドさんはマスターに礼を言った。

「はい、またどうぞ」

 そして二人はゴルヘス酒場を後にした。


 オルステッドさんとサブリナは、ゴルヘス酒場から五分程度の所にあった宿を取った。部屋がな一つしか開いていなかったので、相部屋となったが、サブリナはそんなのお構いなしだったらしい。

「それよりもオルステッドさん」

 地べたに座って剣の手入れをしているオルステッドさんに、ベッドに腰掛けたサブリナは声をかける。

「師匠はどこに捕まっているのかしら?」

 オルステッドさんには一つだけ心当たりがあった。

「恐らくゴルアリウス監獄? 何それ? 重犯罪者が収監される国一番の監獄なのね。行こうゴルアリウス監獄へ」

 オルステッドさんはその提案には首を横に振った。

「ゴルアリウス監獄は広大すぎるし、兵士も多すぎる? それに行ってもいいが、もしそこに師匠がいなかったら……そうね。それよりは明日の処刑を襲った方が確実」

 オルステッドさんは最後に、あまり大きな声を出すなとサブリナに注意した。

「そうね、壁にメアリー、ドアにミリーって言う」

 サブリナにはよくわからないが、そういうことにしておいた。次いでため息を一つついた。

「それにしてもオルステッドさんは王都に詳しいのね。……そう、前に住んでたことがあるの」

 オルステッドさんはそれ以上は話そうとはしなかった。

 サブリナはなんとなく察した。きっと旅の仲間と住んでいたのだろう。

「さあ、明日の朝も早いわ」

 サブリナはベッドの上で、オルステッドさんは地べたで横になり、緊張で眠れぬ夜を過ごした。

 明日は西域無敵マスターゴタールこと、剣士ハッシュの処刑の日。なんとしても阻止せねば! オルステッドさんは窓から差し込む月の明かりにそう誓ったのだった。



                2



 ニワトリが鳴き、教会の大きな鐘も響き渡っていた。

朝が来たのだ。

 いつもはお寝坊さんのオルステッドさんも、いつも通り早起きのサブリナも、準備は万端整っていた。

「必ず師匠を救うわ」

 オルステッドさんは拳を振り上げ、サブリナに同意する。

 オルステッドさんはサブリナの手を引き、宿を後にした。

 向かうは中央の大広場。守りは頑強だろうが、なんとか突破せねば。そして、サブリナを守り切らねば。オルステッドさんは朝日にそう誓い直したのだった。


 処刑は見世物だった。人々は皆処刑を楽しみにしていた。中央の大広場に到着したサブリナはそんな空気を、集まった人間の多さやひそひそ話しからひしひしと感じていた。

 関係なければそれでもいいのかもしれない。しかし、人を殺すことを楽しみにしてはいけない。そんな簡単な理もこの王都ゴータニアの人々は忘れてしまっているらしい。

 そんなことを目の当たりにしつつ、サブリナの手を引いたオルステッドさんは、中央の大広場の中に到着したのだった。

「いっぱいね」

 大広場の中は人でごった返していた。

 当然だった。王都の民にとって、最高のショーが始まるのだから。

 よく見れば貴賓席まである。ひどいもんだ。オルステッドさんはそう思わざるを得なかった。

 ラッパの音色が響くと、王都の民は歓声を上げた。

「これより、重罪人の処刑を開始する」

 広場の中央に作られたやぐらの上で、兵士が宣言すると、黒いローブに黒い三角帽子をかぶった人物が処刑台の上に現れて、処刑用の大剣を高々と空に掲げた。観衆は皆喜んでいた。

「静まれーい!」

 兵士のその言葉を聞き、観衆は波が引くように黙った。

「本日の罪人は、ハッシュ。罪状は国家反逆罪だ」

 観衆は「殺せ!」というコールを何度も繰り返した。そして、連れてこられた人物は、確かに西域無敵マスターゴタールことハッシュだった。

 ヒゲを剃り、髪を後ろで縛っているからオルステッドさんには別人のように見えた。しかし、あの笑い方、なによりサブリナのこの反応はハッシュに間違いなかった。

 兵士は罪状を読み上げる。どうやら隣国に情報を提供したというコトらしい。

 しかしそれは作り上げられたシナリオなのだろう。ハッシュが隣国に情報を売ったとされる期間は、サブリナとともにルテカの町で修行をひたすらしていただけの期間なのだから。

 無実の罪でハッシュが殺されようとしている。絶対に助けねば! と、決意を新たにしたところでオルステッドさんはサブリナを見る。

 目が合った二人は、うなずき合うと人ごみをかき分け処刑台の近くまで行ったのだった。

「何か言い残すことはあるか?」

 処刑台の上で罪状を読み上げていた兵士が、ハッシュに聞く。

「そうだなあ、オレァ……何かお菓子が食べたいなあ。あまーいヤツ」

 この期に及んでも、ハッシュはニコニコしていた。自らが王や貴族の命に背いた過去が有るから、彼らの人気取りのために死んでも「まあいいか」程度にしか考えていなかったのだ。

「何も無いそうだ!」

 兵士の言葉を聞き、観衆の「殺せ!」というコールが一層強くなる。

「これより処刑を開始する!」

 黒装束の死刑執行人が、無理矢理跪かされたハッシュの横に立つ。

 死刑執行人は大剣を天に掲げ、振り下ろした!

 瞬間、飛び出したその人物は、大剣を剣で受け止めた。

 オルステッドさんだった。

「貴様!」

 執行人はそのまま大剣を振り抜こうとする。

 しかし目と鎧の宝石を緑に輝かせてるオルステッドさんは簡単にそれを払い、大剣を吹っ飛ばした。

「か、改造人間だ!」

 目を落ち着かせたオルステッドさんは、処刑台の上で、襲い来る兵士と戦っていた。

「オルステッドさん、サブリナまで」

「師匠」

 サブリナはナイフを取り出すと、ハッシュの体を拘束している縄を切り裂いて、ハッシュを解き放った。

「何故来た?」

「師匠を助けるため」

 兵士が大勢寄ってきた。雑魚どもとはいえ、さすがにこれ以上いると、逃げられなくなる。それどころか逆に捕まるだろう。

「逃げるぞ。サブリナ、オルステッドさん」

 ハッシュは笑みを漏らすと、魔力を脚部に集中させ、処刑台から飛び立とうとした。

 赤い炎の弾丸が、ハッシュの胸を貫いた。

 手を取っていたサブリナ、兵士と戦っていたオルステッドさん、そしてハッシュ自身も驚いた。

 オルステッドさんは兵士と間合いを取り、ハッシュに一瞬だけ振り向く。しかし兵士はそんなこと許してくれない。次々現れる兵士は、オルステッドさんに攻撃を仕掛けてくる。

 ハッシュは処刑台から落ち、悲鳴をあげたサブリナはそれを追って処刑台から降りた。

「師匠!」

 サブリナが連呼する声は震え、涙も止まらず、ハッシュの胸から吹き出る血も止まらない。

「ハハハ、やられたよサブリナ」

 ハッシュは自らを抱きかかえるサブリナ頬を触る。

「生きなさいサブリナ。生きて明日を……」

 ハッシュはそのまま息絶えた。

 サブリナは迫り来る兵士たちに向かって剣を抜いた。

「貴様! 貴様ら!」

 マズイ状況になってきた。サブリナは我を忘れている。助けなければ! オルステッドさんはサブリナの元へ向かう。

 背後に気配を殺気を感じた。オルステッドさんは背後に向け、剣を振った。

 赤い炎の弾丸が、オルステッドさんを狙ってきたのだ。オルステッドさんは赤い炎の弾丸を切り落とす。

 三発目は無かった。それよりサブリナだ。オルステッドさんはサブリナに加勢するため処刑台を降りた。

 サブリナを背後から斬り捨てようとしている兵士をオルステッドさんは踏み潰す。

 サブリナはオルステッドさんを一瞬だけ見たが、すぐさま目の前に次々現れる敵兵に剣を向けた。

「絶対に許さない!」

 兵士に振り下ろされたサブリナの剣は二十人目の血を吸おうとしていた。

「なんて強さだ」

「コイツも改造人間なのか?」

 兵士たちはサブリナの鬼気迫る気迫を受け、今にも逃走せんとしてた。

そんな兵士たちをかき分けあの男が現れた。

「この少女は人間だ。ごく普通の少女だよ」

 騎士隊長が現れたのだった。

「貴様! 貴様さえ師匠をさらわなければ!」

「フッ、来るというのか。ならばこの騎士隊長、ブレイヴがお相手しよう」

 サブリナはブレイヴに襲いかかった!




              3



 いつものクールな感じのサブリナはそこに居なかった。そこにいるのはブレイヴに向かっていく狂戦士だった。

 サブリナは、ハッシュから受け継いだ剣を大ぶりに振っていく。

「その程度か」

 ブレイヴは冷静さを欠いたサブリナの剣を簡単によけていく。

「偉大なる勇者ハッシュ殿から受け継いだ剣技はその程度かと聞いている!」

 サブリナはまだ剣を抜いてすらいないブレイヴの蹴りを食らい、軽々吹っ飛ばされる。

 サブリナは手を地面につけて体を止め、すぐさま反撃に出る。

「その程度では悪党であるこのブレイヴの首は取れんな。師匠のカタキなど取れはしない」

 ブレイヴはサブリナが振り上げた剣を持つ手をキャッチする。

「いいか、師に言われたことすら守れないキミに、このブレイヴは倒せないと言っている」

 サブリナはその場で膝をつき、師匠と呼びながら大きく泣き出した。

「我が憧れの、偉大なる勇者ハッシュの弟子よ、強くなれ。そしてこのブレイヴの首を取りに来たまえ」

 ブレイヴは後ろを向くと、他の兵士たちにに指示を出し始めた。

「勝手にも国賊ハッシュを殺したものをすぐに引っ捕らえよ! ハッシュの亡骸は、丁重に扱え! そして、そこにいる二人は全力で見逃すのだ。これは騎士隊長としての命令と心得よ!」

 兵士たちは腑に落ちないながらも敬礼をして、それぞれハッシュを殺したヤツを探しに行き始めた。

 オルステッドさんはサブリナの肩に手を置く。サブリナはオルステッドさんに抱きつき、更に泣いた。

「孤児であるこのブレイヴが騎士隊長にまで成り上がれたのは一重にあの方のおかげだった」

 オルステッドさんはブレイヴを見上げる。

「このブレイヴはハッシュ殿に拾われ、剣を仕込まれたのだ。いうなればキミたちの兄弟子にあたるのだよ」

 ブレイヴは「何を言っているのだか」と、頭を振る。

「さあ、行きたまえ被検体E57。いや、勇者オルステッドさん。魔族との戦いで命を落とした都聞いたが、再び会えたことを光栄に思うよ」

 オルステッドさんは泣くサブリナを立たせ、剣をしまわせた。そしてサブリナを抱きかかえると、目と宝石を緑に輝かせ、魔力コントロールと併用し、中央の大広場を飛び越えていったのだった。

「妹弟子よ、生きろ。そして強くなれ。まあ、そんなこと言えた義理ではないがな」

 ブレイヴは肩をすくませた後、自らの職務に戻った。


 オルステッドさんは目を輝かせたまま、風となって走り、一気に大門をくぐって、王都の外へと出た。

 輝きを戻すと、オルステッドさんは一度止まり、サブリナを下ろした。

「オルステッドさんゴメン」

 オルステッドさんは頭に「?」を浮かべる。

「ワタシ生きる。生きて強くなる」

 首を縦に二回ふった時、オルステッドさんは強く感じた。オルステッドさんに向けられている殺気だ。殺気と言うには生やさしい、憎悪のような感情。体中の毛穴という毛穴が開いている。

 それは隣に立っているサブリナも同様だった。

 思わず二人は同時に剣を抜く。

 風とともに現れた二人。オルステッドさんの顔が明るくなる。

「ようオルステッドさん」

「久しぶりだなオルステッドさん」

 見たことある顔だ。アリシアとストレイボウだった。

 今度はオルステッドさんが泣きそうになった。ゲヴァースからオルステッドさんを逃がすために死んだそう思っていたのに。

「仕事終わりだったからな、ついでに挨拶をしに来たんだ」

「オレたちがなんの仕事をしたかって? 簡単なことだよ。ハッシュを殺しに来たんだ」

 オルステッドさんとサブリナは固まる。ストレイボウがハッシュを殺した? あの優しいストレイボウが? 一体どうして?

「まあ、仕事だからな。ついでだ、オルステッドさん。キミも死ぬんだ」

 アリシアは黒い剣を抜いた。まるでゲヴァースの剣のようだった。剣を抜き体勢を整えるまでの一瞬、サブリナは既にアリシアに飛びかかっていた。

「うーん、人間にしちゃやる方かな」

 アリシアはサブリナを蹴り飛ばす。

 サブリナは王都の壁に叩きつけられ気絶した。

「さあ、どうする? オルステッドさん」

「オレに殺されるか。もしくは自ら死ぬか」

 おろおろしていたオルステッドさんだったが、サブリナが一撃でやられたのを見て、剣を握り直した。

「DDシステムスタンバイ」

 オルステッドさんは目と宝石を緑に輝かせた。

 意を決してまずはアリシアへと向かった。DDシステムの使用可能時間は残り少ない。しかし手を抜ける相手ではない。

 アリシアもDDシステムを使い、目を赤く輝かせていた。

 オルステッドさんは連続で剣をアリシアに叩きつける。

「んー、迷いがあるなオルステッドさん」

 アリシアはオルステッドさんの腹部を蹴りつける。

 オルステッドさんは吹っ飛ばされつつも、バック転で体勢を整える。

 しかし追い打ちでストレイボウの魔法が飛んでくる。

「ファイアバレットだ。どうだ、懐かしいだろう?」

 それはオルステッドさんが知っているストレイボウのファイアバレットではなかった。

 もっと収束され、破壊力が強くなっている。それ以上に、何か禍々しいモノを感じる。本当にストレイボウがハッシュを殺したらしい。

「何故? 何故だって? ダメだなあオルステッドさん、さっきも言っただろう? ただの仕事だって」

 ストレイボウは笑いながらファイアバレットを連打してくる。

 この邪悪な感じ、本当に彼はストレイボウなのだろうか? そう思ってしまうほどにオルステッドさんを殺しにかかってくる。

 そしてアリシアはファイアバレットの連打に入り込んで、オルステッドさんに一撃食らわせようと黒い剣をたたき込んでくる。

 オルステッドさんは、剣や魔法をかわす、いなすで精一杯だった。

 そしてオルステッドさんは地面の石に足を取られ、尻餅をついた。

「ははは、無様だなオルステッドさん」

「そういうなストレイボウ。この辺がオルステッドさんの限界なんだろう」

 アリシアも半笑いだった。

「オルステッドさん。オレとアリシアはこれからトアールの町へ行く。魔導水晶を回収しにだ」

「そうすれば我らが邪神、カオスの復活もかなり近くなるからな」

 オルステッドさんは起き上がり、自らに剣を向けるアリシアを見る。

「まあいい、ストレイボウ行こう。『オルステッドさんは、相変わらずたいしたことなかった』ゲヴァース様にはそうお伝えしよう」

「ん? そうさ、今のクライアントはゲヴァース様だ。じゃあなオルステッドさん」

 するとストレイボウは転移魔法ウインディウイングを唱え、アリシアとともに消えたのだった。

 オルステッドさんは立ち上がって剣をしまうと、壁に叩きつけられたサブリナの様子を見に行った。

 サブリナは残った魔力を全て防御に使い、魔力不足で気分が悪いらしくフラフラしていた。

 しかしサブリナはオルステッドさんの話を聞くと、口に溜まった血をベッと吐き捨て、トアールの町へと歩き出した。

 オルステッドさんもいつも以上にフラフラの足取りでそれに続いたのだった。



              エピローグ



 トアールの町はようやく復興しつつあった。

 町壁も治り、なんとか人々も立ち直りつつあった。

 トアールの町には活気が戻りつつあった。

「ここか? ストレイボウ」

「ああ、そうだ」

 そんな復興を遂げようとしていた町に二人は現れた。

 魔英雄ゲヴァースの手によって再改造を受けた、アリシアとストレイボウの二人が。






                   つづく

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