第4話 どうしてこんなにボクは弱いの?


       プロローグ



 女性戦士は微笑を浮かべ、少年に向け手を差し伸べる。

「加勢に来てくれたんだろ? ありがとうな」

 少年は手を取り、ゆっくりと立ち上がる。魔法使いの男は、ほんのチョッピリだけイラついている様子だった。

「そんな木剣でよくオレたちの加勢に来たな。……まあ、礼は言うよ」

 後になってわかったが、それはただのテレだったようだ。

「少年、キミの名は? オルステッドさんか。わたしはアリシアだ。こっちは……」

「ストレイボウだ」

 それが三人の出会いだった。



             1



 さんざっぱら泣きはらし、もう出る涙も無くなった。オルステッドさんは立ち上がり、いつものフラフラした様子で、アリシアの剣を杖代わりにし、なんとか歩き続けた。

 目指すは丘の上。サイハテ研究所。

 そう、ここはゴタール王国のサイハテ村。オルステッドさんの故郷の村だ。

 王都の魔導研究所に務めていたハカセが居るハズだった。厳格な女性で、悪く言うと頑固でワガママで融通が利かない。そんなイメージだった。

 もう少しで研究所に着く。オルステッドさんは歯を食いしばり、夜の丘を登っていった。

 なんとかかんとかログハウスのような家が見えてきた。サイハテ研究所だ。あと少し! なんとか扉の前にたどり着いたオルステッドさんは、ヨロヨロしながらノックする。

 弱かったのだろうか? 返事が無い。いや、当然かもしれない。もう夜も遅いのだ。寝ているのだろう。

 オルステッドさんは、その場にへたり込む。何か、ハカセに拒絶されたような気になってきた。ただ寝ているだけだろうに。

 もう一度立ち上がり、扉をほんのチョッピリだけ強めにノックする。やはり誰も出ない。

 出直そうか? それとも誰か出てくるまでここで寝ていようか? 少し考えて、オルステッドさんはここで眠ることにした。最早体力の限界だったからだ。

 偽物とはいえ魔王ゲルヴェールと戦い、魔英雄ゲヴァースと戦った後なのだ。体力が残っている方がおかしかった。

 扉のすぐ隣に座り、アリシアの剣と犬笛を抱きながらその日は眠りにつくことになった。

 空を見上げる。そこでは星々が瞬いていた。

 この空をストレイボウやアリシアは見ているのだろうか?

 そんなワケない。二人はもうゲヴァースに……。そう考えたらまた涙が出てきた。疲れ果てていたオルステッドさんは、涙を流しながらそのまま寝た。


 そして朝が来た。


 と言っても、オルステッドさんは泥のように眠り続け、結果昼頃目を覚ました。

 オルステッドさんは節々痛む体を無理に起こし、再び扉と相まみえた。

 ノックをすると、今度は中から返事があった。ハカセの声にしてはやけに甲高い声な気もする。落ち着いた感じの人だからおそらく秘書か研究員だろう。そして扉は開かれた。

 そこにはオルステッドさんと同い年くらいの少女がいた。十四、五才くらいだろう。ハカセの娘さんだろうか? でもあの人は結婚とかしてなかったと思うのだが。

「ヤッホー。元気? 乳酸菌とってる?」

 知らない少女だ。でも、どこかで見たことがあるような気もする。

「あら? オルステッドさんじゃない。元気してた?」

 腰に手を当てながら少女は前屈みになり、オルステッドさんを上目遣いで見る。オルステッドさんは首を縦に振った。

「あれ? アタシが誰かわからないって?」

 再び首を縦に振ったオルステッドさんの記憶の中には、こんな少女は居なかった。

「やっだー。オルステッドさんたら、アタシのこと忘れちゃったの?」

「!」

「そうそうハカセよ」

 ハカセと名乗る少女は、オルステッドさんの前でくるり一回転し、目の上で横向きにピースサインを作る。

「本当にハカセよ。若返り薬を飲んだら、若返り過ぎちゃったの」

 オルステッドさんは半信半疑ではあったが、とりあえずうなずいておいた。

「よかったー。ところで、ストレイボウとアリシアは?」

 名前が出た瞬間、オルステッドさんの顔は一気に曇った。

「そう、死んだのね」

 それだけ告げると、ハカセはオルステッドさんに研究所の中へ入るように促した。一瞬とんでもなく冷たい、溺れているねずみを見るような目をしたハカセだったが、それを見てオルステッドさんは「この人はホントにハカセだ」そう確信したのだった。

 オルステッドさんは促されるまま研究所内へ入っていった。ハカセはオルステッドさんに、椅子に座っているように言って、自分はお茶を入れに台所へと向かった。

 オルステッドさんは辺りをキョロキョロ見回した。テーブルの上には、設計図の山があり、部屋中に読み捨てられた本が散乱していた。

 どう見てもゴミ屋敷だが、ハカセ本人には片付いているつもりなのだろう。

 オルステッドさんは、ハカセが出してくれたマグカップ一杯のお茶を一口飲んだ。

 ハーブティーらしく、すっきりと目覚められそうな気分になる。そんな一杯だった。

「そう、で? どうしてオルステッドさんだけが生き残れたの?」

 ことの顛末を話せと言うことだった。オルステッドさんは隠す理由もないので、当然全てを話した。

「そう、DDシステムが切れたところで、あのゲヴァースが現れたの。それでストレイボウとアリシアはあなただけを逃がしたのね?」

 オルステッドさんは首肯する。ハカセはマグカップを置き、一つため息をついた。

「これからどうするつもりなの? ……そう、魔族退治は続けるのね? 二人のカタキを取るために。ならいい話があるんだけど」

 ハカセはオルステッドさんに詰め寄る。

「もっと強くなりたいでしょ? なら、この新しいシステムを試してみたいんだけどいいかな?」

 オルステッドさんに差し出された本のタイトルは「新しいDDシステムのススメ」と書かれていた。

「でもね、このシステムを使うには、オルステッドさんを再改造しなきゃいけないんだけど……大丈夫よね?」

 オルステッドさんは元気よく首を縦に振る。

「よし、早速こっちにおいでー」

 そして、オルステッドさんは手術室へと連れて行かれ、再び改造手術を受けることになった。

「大丈夫、オルステッドさんが寝ている間に終わるわ」

 オルステッドさんはひしゃげた銀の鎧を脱いで、何か怪しい飲み物をハカセから受け取り飲む。

 飲みきって丸い台の上に寝転がり、五分もしない内にオルステッドさんは眠ってしまった。


 オルステッドさんの目が覚めると、見知らぬベッドの上だった。あれからどれくらい経ったのだろうか? 窓から見える景色は、すっかり夕焼けだが、同じ日の夕方とも限らないし。

「やっほー。起きたぁ?」

 ハカセが夕食を作ったらしいので、一緒に食べることにした。

 夕飯は蒸し野菜とパンとトマトスープだった。ハカセ的には、大盤振る舞いだったらしい。

「気分はどう? 乳酸菌いる? そう、おいしいのね。そいつは上々」

 ハカセもトマトスープをうれしそうに口へと運ぶ。

「そうだ、オルステッドさん! あとでいいものあげるわ」

 何をもらえるんだろう? オルステッドさんはわくわくしながらパンにかぶりついた。

 そして食事が終わり、食器をオルステッドさんが片付けた後、ハカセは先ほどまで食事をしていたテーブルの上にそれを乗せた。

「オルステッドさんの新しい鎧、『ユニコーンアーマー』だよ」

 それは純白の鎧だった。金のエングレービングが施されていて、所々赤い宝石がちりばめられている。今まで身につけていた銀の鎧より、かなり格好が良かった。

 しかし白い鎧なのでほんのチョッピリだけアリシアのことを思い出した。

 ハカセはチッチッチと、指を左右に動かす。

「かっこいいだけじゃないんだなぁコレが。新しいDDシステムに対応しているの。まさにオルステッドさん専用の鎧ね」

 オルステッドさんはユニコーンアーマーを身につけ、くるりと一回転した。

「おお! かっこいいじゃん!」

 ハカセは拍手する。

「あとはコレね」

 ハカセから渡された、青いマフラーを身につける。もうかなりのボロだが、改造される前から愛用している、オルステッドさんのシンボルとも言えるモノだった。

 そしてアリシアの剣と、犬笛を身につけた。オルステッドさんの心持ちは最早は無敵の布陣だった。

 しかし、オルステッドさんはまだ喜べずにいた。よろこんでも二人がいない。悲しみが膨れ上がってきた。

「よし、オルステッドさん。新装備ゲット記念に機械とバトってみない?」

 オルステッドさんは頭の上に「!」を浮かべる。いい考えだと思ったのだ。

「なら、地下へゴー! だね」

 オルステッドさんは拳を振り上げ飛び上がる。ハカセにはわかっているのだ。カラ元気も元気の内だと。



               2



 染みついたクセというのはなかなか消えない。

 オルステッドさんはアリシアの剣を抜いて、対人兵器と戦う。

 しかし、剣の重み、リーチ、持ち方、かまえ方、間合いの取り方、等々。あまりにも今までと違いすぎた。

 よくこの軽くて短い剣で、アリシアは戦っていたな。あの強さを出せていたな。そうひしひしと感じていた。

 オルステッドさんは対人兵器に三回くらい倒されそうになりつつも、なんとかかんとかようやく勝った。

「どうする? 次いく? いける?」

 今日はもう限界のようだ。しかしハカセの出す音声に、オルステッドさんは首を縦に振る。

 早くこのアリシアの剣に慣れなくてはならない。もっと戦って、アリシア以上の実力を持たねばならない。

 ストレイボウのアシストももう無い。オルステッドさん一人で、ゲヴァースと渡り合わねばならないのだ。

 だから戦わなきゃならない。戦わなきゃ! 戦わなきゃ! 戦わなきゃ!

 戦うだけではダメだ。勝たなきゃ! 勝たなきゃ! 勝たなきゃ!

 そうして、不眠不休の戦いは続き、戦い始めて二回目となる日没を迎えようとしていた。

「オルステッドさん、そこらにしとこうか」

 オルステッドさんは首を横に振る。まだまだ戦い慣れていない。アリシアの剣技はこんなモノでは無かった。

「それはわかったから、一旦休もう。これはもう命令だヨ」

 オルステッドさんは一瞬笑顔を浮かべると、その場に倒れた。

 力が入らない。消耗しすぎたようだった。いつの間にこんなに体力を消費したのだろうか? ともかくオルステッドさんはそのまま眠りについた。

 気がつくと、ベッドの上だった。

 右手にはなにやら管がついていて、ぶら下がっているパックにつながっている。

 栄養剤だろうか? まあなんでもいい。オルステッドさんは起き上がることもできなかったので、再び目をつぶった。

 眠れそうには無かった。しかしストレイボウは言っていた。

「目を閉じて寝転んでいるだけでも体力は回復する」

 その言葉を思い出し、またオルステッドさんはさめざめ泣いた。

「オルステッドさん」

 泣きはらした顔のまま、オルステッドさんは声のする方を見る。

「ダメだよ泣いてちゃ。笑われちゃうよ? あの二人に」

 ハカセはテーブルで何か暖かそうなモノを飲みながら、オルステッドさんに再び語りかける。

「元気出してなんて無責任なコト言えないケド。でもね。あの二人もそんなことは望んでないと思うの」

 そして飲み物を飲み干し、ハカセはマグカップを片付けるついでに一言だけ言った。

「負けないで」

 オルステッドさんはシワクチャな顔になりながら、こう決めたのだった。

「もう泣くのはこれで最後にしよう」

 そして、さんざっぱら泣きはらし、パックの中の栄養剤が切れたところで、オルステッドさんはオルステッドさんは右手の管を外し、復活を遂げたのだった。


 朝ごはんの後、オルステッドさんは再び地下の研究室で戦っていた。今回はガムシャラに戦うのではなく、間合いやなんかを研究するための戦いだった。

 オルステッドさんはアリシアの剣と一つとなる為にがんばっていた。

「オルステッドさん、スゴいじゃん! かなり上達したんじゃない?」

 ちょっと得意になり、鼻を伸ばしてみた。でも慢心はしない。次を出すようハカセに頼んだ。

「ようし、次ね!」

 一体の対人兵器がオルステッドさん前に出てきた。

 それは一見するとリビングアーマーというモンスターの一種にも見えるが、鉄の甲冑を身につけた機械の体で出来ていた。

 オルステッドさんが剣をかまえると、対応して対人兵器も盾と剣をかまえる。

 先に仕掛けたのは対人兵器だった。オルステッドさんとの間合いを一気に詰めてきたのだ。

 オルステッドさんはサイドステップを踏み、剣の一撃をよけると同時に、対人兵器へ連撃を食らわせる。

 そう、この剣は大剣ではない。ドスンとした一撃では無く、スパパパーという心持ちでいくのがいいようだ。

 ドスンではなくスパパパー。ドスンではなくスパパパー。ドスンではなくスパパパー。

 反復しながら意識して今はやっているが、その内無意識下でも出来るようにならなくては。オルステッドさんはまた一体対人兵器を倒した。

「やったじゃん! もうだいじょうぶそうダネ!」

 ハカセも喜んでくれている。

 オルステッドさんはアリシアの剣を使うことになんとか慣れてきつつあったのだった。

 

 研究所に来て、何度目かの朝が来た。

 なんとか使えるようになったアリシアの剣を、オルステッドさんは腰にぶら下げた。

 出発の準備が出来たのだ。

「じゃあ、いってらっしゃいオルステッドさん。戦果を期待しとくよ」

 オルステッドさんは研究所を出ると、大きくハカセに向かって手を振った。

 ハカセもそれに対して手を振りかえした。

 と、出陣しようとしたが、そうもいかなくなった。

「オメエが改造人間のオルステッドさんだな?」

 禿頭の大男に、オルステッドさんは名乗りを上げる。

「やはりオメエがオルステッドさんか。オレはデヴェンジャーご覧の通り魔族だ」

 禿頭の為銀髪ではないが、肌は青かった。魔族であることは確かなようだった。

「そう、このオレ、デヴェンジャー様が、オルステッドさん、貴様を殺しに来たという、スンポウよ」

 頭が悪そうな台詞だった。やはり脳みそまで筋肉で出来ていそうだ。

「さあ、かかってこい! 来ねえならこっちから行くぞ!」

 かかってこいと来ねえならの間はコンマ一秒あったかないかだが、とりあえず確かにこれだけは言える。

 デヴェンジャーが襲いかかってきた!



             3



 武器を持たないデヴェンジャーはオルステッドさんに、殴る蹴るの暴行を加えようとした。

 しかしそのスピードはそれほど速くは無く、オルステッドさんが視認してからでも十分かわすことが出来た。

「くそう、ちょこまかと!」

 問題はそこでは無かった。デヴェンジャーの筋肉がかなり硬いのだ。

 薄皮は斬れても、筋肉が切断できない。骨になんか全く届かない。それに今空を切っているデヴェンジャーの攻撃、コイツがけっこうやっかいだった。大ぶりなのでめったなことで当たりはしないだろう。でももし当たったりしたら、この地面にクレーターを作るほどの力のパンチやらキックをそのまま受けることになる。パワーだけなら魔王ゲルヴェールに匹敵するかもしれない。

 しかしオルステッドさんには当たらない。スピードが遅すぎるからだ。

「なにぃ? 『当たらなければどうと言うことはないし、スローすぎてあくびが出る』だとぉ? 猪口才なぁ」

 デヴェンジャーは一旦間合いを取る。

「逃げねえよ! しかし、このままでは攻撃が当たらないのも事実……ならばこれならどうだ! 変身! とう!」

 デヴェンジャーは高くジャンプする。

 太陽を背にするとは考えたモノだ。どこまで行ったかわからない。

 地面を穿つようなスピードで、帰ってきたデヴェンジャーは大きくその姿を変えていた。

 ボディは緑になり、大きな複眼となった目はルビーのように真っ赤だ。肥大していた筋肉も凝縮されている。コイツは強そうだ。

 膝立ちだったデヴェンジャーは立ち上がると、左手は腰につけて、右手は肩の高さへ伸ばした。どこかで見たポーズだった。

「いくぞ!」

 バッタの怪人に変身したデヴェンジャーは、オルステッドさんへ襲いかかる。

「とう! デヴェンジャーパンチ!」

 すさまじいスピードの右ストレートが、オルステッドさんを襲う。

 思わずのけぞってそれをかわしたオルステッドさんだったが、このスピードだと、次は無いかもしれない。オルステッドさんはなんとか攻撃に移る。しかし、デヴェンジャーの硬さは健在だった。筋肉が凝縮されたことで、より硬くなっているかもしれない。

 オルステッドさんは気合いの一撃をデヴェンジャーに叩きつける。

「デヴェンジャーチョップ!」

 デヴェンジャーの鋭い手刀に阻まれた。

 コイツなかなか……いや、かなり強い。

 デヴェンジャーは大きく間合いを取る。一体何を仕掛けてくるつもりなのだろうか?

「トドメだ! 食らえ!」

 デヴェンジャーは大きく飛び上がる。そして宙返りし、空中で反転した。

「デヴェンジャーキック!」

 紅蓮に燃え上がる紅の彗星となったデヴェンジャーは、そのままオルステッドさんへ突撃してくる。

 オルステッドさんはかわそうとした。しかし、後ろにハカセがいたので、かわすにかわせない。

 自分がかわしたら、研究所は跡形も無く吹っ飛ぶだろう。ならばやることは一つ。

「DDシステム、スタンバイ」

 オルステッドさんの目が輝いた。その色はいつもの赤では無く、緑色に輝いていた。新しい鎧についている赤い宝石も、緑色に輝きを変えた。

 オルステッドさんは気合いとともに、デヴェンジャー向け飛び上がる。

「「うおおおおお!」」

 両者は空中で激突し、大爆発を起こした。衝撃波で研究所のガラスは割れ、ハカセも思わずその場に倒れた。

 ハカセが気づくと、オルステッドさんとデヴェンジャーは地面に立っていた。

 先にオルステッドさんは膝をつく。

 デヴェンジャーはオルステッドさんに振り向く。そして、オルステッドさんを指さす。

「なかなか楽しい戦いだった」

 デヴェンジャーは右足から肩口までを切り裂かれ、そのまま倒れ、光となって消え去った。

 ハカセはオルステッドさんの名前を呼びながら駆けてくる。

「大丈夫かい?」

 ハカセが聞くも、オルステッドさんは返事をしない。

 視線は剣にあった。

「ブレイジングハートの刀身が」

 アリシアの剣の名前らしいが初耳だった。オルステッドさんの手にあるアリシアの剣は、刀身が今の攻撃でボロボロになっていた。

「そっか、新しいDDシステムに耐えられなかったか」

 オルステッドさんはギュッと剣を抱く。

「オルステッドさん、剣をよみがえらせよう!」

 オルステッドさんはハカセをじっと見る。

「そんなこと出来るのか? って? 大丈夫。なんとかしてみる」

 ハカセとオルステッドさんは研究所に入り、地下に行く。

 機械と戦っていた場所とは別の場所だ。

「オルステッドさん。ブレイジングハートを貸してくれる?」

 オルステッドさんは言われたとおりにする。

「やっぱボロボロね」

 マジマジと見ても結果は変わらなかった。

 これはアリシアの剣と、お別れなのだろうか? しかしオルステッドさんはそれが出来そうに無かった。

「オルステッドさん。刀身を変えよう」

 それは剣の命を、アリシアの命を変えようという提案だった。

 ハカセは剣から刀身を外す。

 そして、なにか機械の中へと入れようとする。

「いいよね? それともこのままボロを使い続ける?」

 オルステッドさんは一瞬考えた後、やはり首を横に振った。

 するとハカセは機械の中へ剣を入れる。フタを閉めると機械は動き出し、ガッシャンゴラゴラドンツクドンと上下左右に膨れたり縮んだりした。

 待つことおよそ一分。機械からピーと笛の音が鳴った。

「出来たみたいね」

 ハカセは機械を開ける。そこには少し青みが強くなった、クリアブルーの刀身があった。

 オルステッドさんは愛おしそうに刀身を抱くと、刀身に柄をつけた。

 重さもリーチもアリシアの剣と変わっていなかった。

 オルステッドさんはもう一度剣を抱いた後、やさしく新しい剣を収めた。

「大切に使ってね。そのブレイジングキャリバーを」

 剣に名前が生まれた。初耳だった。



            エピローグ



 オルステッドさんはハカセに別れを告げ、サイハテ研究所を後にした。

 そして歩き出した。

 向かうはゴン高地。あの場所へ、ストレイボウとアリシアがオルステッドさんを生かしてくれたあの場所へ。

 二人のことを思い出したオルステッドさんは、こぼれそうになった涙を拭き取ってゴン高地へと急ぐ。

 もう泣かないと決めたんだ! そう心に誓っていた。

 ゲヴァースが邪神を復活させる日は近い。そうオルステッドさんはにらんでいた。

 ゲヴァースだけではない。本物のゲルヴェールも倒さねばならない。

 だから可能な限りオルステッドさんは急いでいた。

 バッタにもチョウにも目をくれず、オルステッドさんは急いだのだった。





                    つづく

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