第3話 太陽はとっても明るいのに

       プロローグ



 その場所に一報がとどいたのは、デルサリオが命を落とした次の日だった。

 ピサリオの死に続き、デルサリオの死を聞いた評議会は、紛糾の末一つの結論に至った。

「英雄召喚しかない」

 英雄を召喚し、対抗しようというのだ。彼らは早速英雄召喚の準備を始めた。



               1



 オルステッドさんたちは、ようやく国境のセタール砦を出たのだった。ここからはどこの国とも定められていない土地だ。蛮族や魔族がはびこる地とされている。

「そうだな。守りが強固な砦だったな」

 アリシアに話しかけるオルステッドさんの顔は明るかった。砦で四人前はごはんを食べたからだ。満腹なのでご機嫌という短絡的なオルステッドさんだったが、周囲の警戒を怠っているわけではなかった。

 ここはもうゴン高地。いつ魔族の襲撃があってもおかしくはない。

 オルステッドさんは軽い足取りながら、耳をそばだてていた。

 目指すはこの先にある魔王山と呼ばれる山だ。そこには魔族がたくさん居るという話だった。

 オルステッドさんが震えているのをストレイボウは見逃さなかった。

「なんだ? オルステッドさん、怖いのか?」

 オルステッドさんは首を横に振る。

「無理すんな。オレだって怖いさ」

 オルステッドさんはストレイボウを見上げる。ストレイボウは杖をぎゅっと握りしめる。

「オルステッドさん大丈夫だ。わたしが必ず守る」

 アリシアの言葉に、オルステッドさんは首を横に振った。

「え? オルステッドさんがわたしとストレイボウを守るって? ハハハ、頼もしい」

 オルステッドさんたちは、ゴン高地をどんどん進んでいった。


 セタール砦を出て、三時間くらいが過ぎた。三人の行く手には他を寄せ付けない、断崖絶壁に近い山がかまえていた。

「アリシア、あの山が……」

「そうだな、魔王山だ」

 魔王山の方では黒雲がかかり、雷が何度も鳴っている。しかし雨は降っていない。

「よし、行くぞ」

 アリシアが第一歩目を踏み出すと、大地が揺れた。

「な、なんだ?」

 大きな岩を中心に、様々な岩が人型に集まっていく。

「ストーンゴーレムか」

 ここから先へ行かせないための、魔族の手先だろう。そうストレイボウは気づいた。早々に大剣をひきぬいたオルステッドさんは、ストーンゴーレムに飛びかかる。

「待て、オルステッドさん!」

 オルステッドさんはストーンゴーレムに斬りかかる。しかし、大剣はストーンゴーレムが防御に使った腕を、わずかに削っただけだった。逆にオルステッドさんが、あまりの硬さにシビれてしまった。

 ストレイボウは、氷魔法シルバーファングの連打で、ゴーレムの腕がオルステッドさんを掴むのを阻止しようとする。しかし、ストーンゴーレムはシルバーファングすら無視して、シビれているオルステッドさんを捕まえようとした。

 アリシアは舌打ちし、オルステッドさんを救出に向かう。

 しかし、ストーンゴーレムは、既にオルステッドさんを捕まえていた。

 アリシアはオルステッドさんを捕まえている手を剣で攻撃する。

「オルステッドさんを放せ! この石ころヤロウめ!」

 しかし、ストーンゴーレムの堅さは尋常ではなかった。アリシアの剣も、歯が立たないほどの硬さだった。

 アリシアは振り落とされ、捕まったオルステッドさんは地面に叩きつけられた。それでも二人が動けるのは、彼らが改造人間だからに他ならなかった。

 ここを突破出来なければ、魔王山に行くことは出来ない。

 しかし、ストーンゴーレムの硬さは、異常すぎた。石の壁を吹き飛ばす、爆裂魔法バスターボムを使ってすら無傷という硬さだ。ストレイボウは確信した。コイツは魔族の加護を受けたゴーレムだ。

 思わず舌打ちする。

「十秒持たせてくれ!」

 ストレイボウは、呪文の詠唱に入った。オルステッドさんとアリシアはフォローに入る。

 ストーンゴーレムは、呪文詠唱中のストレイボウに目をつけたが、その間もオルステッドさんとアリシアは攻撃の手を緩めなかった。

 十秒経ち、ストレイボウが呪文の詠唱を終えた。オルステッドさんとアリシアは、ストレイボウの元へ戻る。

「ウインディウイング!」

 それは転移魔法だった。ストレイボウは一度撤退することを選んだのだった。

 三人は気づくと、セタール砦の入り口に居た。

「すまなかった。ああするしかなかった」

 オルステッドさんはストレイボウの言葉に、首を横に振る。

「わたしもオルステッドさんも、ストレイボウをせめたりしないよ。一旦砦に戻って対策を練ろう」

 オルステッドさんとストレイボウは同意し、一度砦に戻ったのだった。



             2



 たった三時間歩いただけなのに、疲労がかなりたまっていた。高地特有である酸素の薄さのせいだろう。そういうことにしておいた。

「結構消費しちまったな」

 ストレイボウの魔力は、底をつきそうになっていた。

 そもそも「ウインディウイング」はかなりの魔力を消費する魔法。激しい戦闘の最中に使うモノではなかった。故に今回一番消費していたのはストレイボウだった。

「すまんなオルステッドさん。気を遣わせてしまった。大丈夫。オレは大丈夫だ」

 息も絶え絶えといった具合ではあるが平静を装う。ストレイボウはオルステッドさんの肩を借りながらなんとか砦の中へと入っていった。


 砦では食事を出してくれた。急に戻ってきたため、パンとそらまめのスープのみだったが、ありがたいことだった。

「あのストーンゴーレム。どうしたら倒せるか」

 食事中に切り出したのは、ストレイボウだった。オルステッドさんとアリシアは、手を止めてストレイボウを見る。

「やはり、足を狙ってバランスを崩させるしかないんじゃないか?」

 アリシアの提案は、大型のモンスターを倒す時の定石だった。しかし今回はそれは無理だろう。三人ともわかっていた。

「硬すぎるからなあ」

 二人の剣はほとんど傷をつけられなかった。今回の戦いでストーンゴーレムに与えられたダメージはほぼゼロだろう。

「残った可能性としては、『そばに居るであろう術者を倒す』か、『コアを破壊する』ってとこかなあ」

 ストレイボウは両手を頭の上で組みながら、独り言のようにつぶやいた後、再びスープに取りかかる。

 アリシアはオルステッドさんの顔に付いたそらまめの欠片を布巾で取りながら、話を聞く。

「どうした? ぶん投げられたとき、ストーンゴーレムの背中に、キラキラ光る石が見えた気がするって? ストレイボウそれか?」

 ストレイボウはうなりながら、頭をかいた。

「わかった。作戦を立てよう」

「あっ、あの……」

 スープのおかわりを持ってきた兵士が、消え入りそうな声で三人に話しかけた。

「どうした?」

 ストレイボウはじっと兵士を見る。アリシアも同様だが、オルステッドさんはパンをちぎり、口に運んでいた。

「ご、ゴーレムでお困りなんですか?」

「ああ、そうだ」

 言うべきか言わざるべきか、少し考えた後に兵士はようやく口を開いた。

「ゴーレムは昔から、笛の音を聞くと眠ってしまうといいう言い伝えがあります。ばっちゃが言ってました」

 それは博識なストレイボウですら聞いたことのない伝説だった。

「もっとも、この砦に笛はありませんが……」

「いや、ありがたい情報だ。助かった」

 ストレイボウはオルステッドさんを見る。オルステッドさんの胸が、キラリと光った。


 次の日、オルステッドさんたちは良くしてくれた砦の人々にお礼を言い、再び魔王山へと旅立った。

「今度は絶対に勝つぞ」

 アリシアの言葉に、オルステッドさんとストレイボウは同意する。

 三時間歩き、再びストーンゴーレムが現れた辺りに到着した。

 同じように大きな岩を中心に、ストーンゴーレムが形成される。

 三人は各々の武器をかまえた。

「今度は負けない」

 オルステッドさんはそう決意を固めた。


 ストーンゴーレムの攻撃は激しかった。

 基本パンチとキックだけなのだが、その破壊力は地面を穿つものだった。

「食らえ! シルバーファング!」

 ストレイボウの氷魔法で、ストーンゴーレムの足下が凍った。すっころんだ為ストーンゴーレムの動きが一瞬止まったのだ。

「オルステッドさん!」

 オルステッドさんは首肯し、胸にぶら下げていた『犬笛』を思いっきり吹いた!

 起き上がらんとしていたストーンゴーレムの動きが完全に止まった。

「眠ったのか?」

 アリシアは好機と見て、ストーンゴーレムの背後に回る。

 次の瞬間だった。

 ストーンゴーレムは再び動き出した。そして辺り構わず暴れ出したのだ。

 犬笛だったからダメだったのか、それともあの兵士が嘘をついたのか。

 ストレイボウの出した答えは後者だった。

 三人は改造人間。それを知った人間はその強さを恐怖の目で見る。

「さっさと死ねばいいのに」

 自分たちの正体がばれたとき、そう言われたことは一度や二度ではない。救った相手に、恐れられる。そんな経験を何度もしてきた。

 ストレイボウは舌打ちをしつつ、爆裂魔法バスターボムをストーンゴーレムに放つ。

 どやらこちらに気づいたようだ。

「気を引け、オルステッドさん!」

 オルステッドさんは再び犬笛を吹く。怒りが頂点に達したストーンゴーレムは、オルステッドさんめがけ走ってくる。

 犬笛を吹きながらオルステッドさんは逃げ回る。巨大な岩の拳が、暴風のような勢いでオルステッドさんを襲う。

 失敗だったのは、一瞬ストレイボウがいる方を見たことだった。オルステッドさんは、足下の石につまづいて、転んでしまった。

「オルステッドさん!」

 悲鳴に似たストレイボウの声を聞いた。それでもオルステッドさんは、犬笛を吹くのをやめなかった。

 次の瞬間ストーンゴーレムは完全に動きを止め、倒れた。

 背後に回ったアリシアが、弱点のコアを破壊したのだ。オルステッドさんと、岩の拳との距離は、紙一枚分だった。

 アリシアはストーンゴーレムの体を構成していた、大岩の上に立ち、オルステッドさんたちに手を振る。

 オルステッドさんは拳を振り上げ、飛び上がって返事をした。

「行こうか」

 ストレイボウの言葉に、オルステッドさんは二回頭を縦に振り、アリシアの元へと走った。

 ストレイボウは砦のある方を一瞬見たが、フンと鼻で息を吐いて、二人に続いたのだった。



                3



 三人はなんとか魔王山の麓へと到着した。

「これが……」

 アリシアが思わずつぶやく。王都で聞いたとおり、魔獣を頭部模した大きな像がそこにあった。口の部分だけでも、さっきのストーンゴーレムがまるまる入りそうだ。

「さて、どうやって入るか、だが」

 ストレイボウはつぶやきつつ辺りを見回す。アリシアはそれに対し行動で答えた。

 アリシアは目を赤くさせ、魔獣の像を切りつけた。

「そんなことしたって……」

「この門は戦う資格のあるモノに対してのみ開く」

 目の色を元に戻しつつ、アリシアは剣をしずかに収める。

 魔獣の像は大きく口を開けた。魔王山の扉が開いたのだ。

「行くぞ!」

 アリシアの号令の元、オルステッドさんは顔を叩き、ストレイボウも気合いを入れ直したところで魔王山へと入っていった。


 大軍勢が押し寄せ、オルステッドさんたちを襲う! そう考えていたが、魔王山の中はシンと静まりかえっていた。音は、水滴のしたたる音のみ。 オルステッドさんたちは、暗視モードに切り替え、辺りを見回す。やはり誰も居ない。

「魔族どもがいると思ったのだが」

 ストレイボウのつぶやきは、反響してオルステッドさんたちの方へと帰ってきた。

「何か邪悪なことを考えているかもしれない。急ぐぞ。オルステッドさん! ストレイボウ!」

 三人は山の洞窟内を進んでいった。


 暗い洞窟の中を進んでいく。しかし魔族は現れない。蛮族すら現れない。

 拍子抜けもいいところだった。それでも三人は慎重にすすむ。

 もしその辺に罠が仕掛けてあるのであれば、魔族自身がここにいる必要が無いのだから。

 しかし見たところそれも無いようなのである。

 ここで生活している様子も無い。

 本当にここが魔王山なのか怪しくなってきた。

「一旦戻るか?」

 ストレイボウの提案を、オルステッドさんは否定した。

「何? 連山になっていて隣の山こそが魔王山ということもあり得るって? まあそれもそうか。それなら背後を取れるということにもなるしな」

 ストレイボウはうなずいて、再び進み始めた。


 進むことおよそ一時間。結局連山にはなっていなかった。しかし、洞窟の内部に城が姿を現した。これが魔族の王、「魔王」が住むという城なのだろうか?

 オルステッドさんたちは、躊躇なくその城の中へと入っていった。

 オルステッドさんたちは、エントランスホールから伸びている階段をのぼっていく。のぼりきったところで、大きな扉が現れた。オルステッドさんが、縦に三人は入れそうな大きな扉だ。オルステッドさんはその扉をおそるおそる開ける。

 そこには大仰な椅子が奥の方に一脚あり、誰だか知らないが、人物が一人座っていた。

 各々武器を取り、近づいていく。そして、間合いまで二十歩と言うところで止まり、ストレイボウはその人物へと叫ぶ。

「貴様、魔王か!」

 人物は立ち上がった。

「いかにも。余は魔王ゲルヴェールである」

 オルステッドさんとアリシアは、正面から魔王ゲルヴェールに飛びかかった。



                4



 ストレイボウにより女神の加護を付与された二人は、魔王ゲルヴェールに斬りかかった。

 ゲルヴェールは、外套から手を出し、オルステッドさんたちに向ける。

 ゲルヴェールは魔力障壁を作り、オルステッドさんとアリシアの第一撃目を楽々かわした。

 オルステッドさんとアリシアは、左右別々に弾き飛ばされたものの、すぐ体勢を整え間合いを作る。

 ゲルヴェールは手をおろし、外套の中へと手を戻す。

「なかなかの力だ。どうだ? そなたら。余のものにならんか? そうすれば、余の力は盤石となる。人間などにかしづくことも無いのだ」

 オルステッドさんはゲルヴェールに斬りかかる。「そうか、それが貴様の答えか」

 ゲルヴェールは再び外套から手を出し、魔力障壁を作り出す。

 そして、空いた手で、オルステッドさんを殴った。それは銀の鎧がひしゃげるほどの威力だった。オルステッドさんは吹っ飛ばされ、ゴロゴロ転がった後、体勢を立て直そうとする。しかし、足に力が入らなかった。膝立ちながらなんとか立ち上がり、ゲルヴェールに襲いかかっているアリシアに加勢しようとする。

 初級攻撃呪文マジックアローでアリシアのアシストをしつつ、ストレイボウは輝く左手でオルステッドさんに触れる。回復呪文ヒールタッチだ。

 なんとか体勢を立て直したオルステッドさんは、ゲルヴェールに再び立ち向かう。

 アリシアが連撃を食らわし、オルステッドさんが一撃を食らわせる。攻撃スイッチのスキを無くすストレイボウの魔法連打。なかなかの連携だった。

 魔王ゲルヴェールといえど、さすがに対応しきれなくなってきた。

「ふむ、虫ケラでも三匹集まればうっとうしくもなるか」

 ゲルヴェールは、魔力を集中する。

「大魔法がくるのか?」

 ストレイボウは一瞬身構える。

「チャンスだ!」

 叫んだのはアリシアだった。オルステッドさんとアリシアは左右から同時に突きを放った。

 しかし、突きは届かなかった。

 衝撃波が三人を襲ったのだ。当然ながら衝撃波を生み出したのはゲルヴェールだ。

 三人は体勢を立て直す。

 そこでオルステッドさんが見たのは、禍々しい赤い光とともに空中に浮かぶゲルヴェールの姿だった。

 ゲルヴェールは体を縮ませ、そして伸びると、その姿を一変させた。

 体は倍くらいの大きさになり、背中にはコウモリのような羽が生え尾も生えた。そして肌はブルーからモスグリーンのウロコが生えていった。

「ドラゴン種との混血か」

 ストレイボウは再び襲ってきた衝撃波になんとか耐えている。

「これが魔王の真の姿か」

 アリシアも剣を地面に刺し、なんとか衝撃波に耐えきった。

 オルステッドさんも、大剣で衝撃波を防御している。

 真の姿を見せたゲルヴェールは吼える。そして、オルステッドさんに殴りかかった。

 オルステッドさんは大剣で防御する。大剣はへし折れるかと思うほどきしみ、オルステッドさんごと壁へと吹き飛んだ。

「「オルステッドさん!」」

 叫ぶと同時に、二人はDDシステムを起動させる。

 オルステッドさんも壁から這い出て、DDシステムを起動させゲルヴェールに襲いかかる。

 オルステッドさんはゲルヴェールに上段からの一撃を食らわせた。ゲルヴェールはそれをなんとかキャッチする。キャッチしたゲルヴェールの足下がクレーター状にへこんだ。

 パワーで負けてない。ゲルヴェールと互角のパワーが出ている。アリシアの連撃も、ゲルヴェールに傷をつけている。ストレイボウの魔法も、ダメージを与えている。

 ゲルヴェールは吼え、燃えさかる火炎を吐き散らかす。

 オルステッドさんとアリシアは冷静に間合いを取る。ストレイボウは燃えさかる火炎を氷魔法シルバーファングで凍らせた。

 炎の驚異が無くなった直後、オルステッドさんとアリシアは攻撃に戻った。

 ゲルヴェールはアリシアに向かって蹴りを放った。突進中だったアリシアはもろにそれを食らった。

 そのままの流れで、ゲルヴェールはオルステッドさんに魔力の弾を手から放つ。

 オルステッドさんはそれを大剣で切り裂く。しかし、ゲルヴェールの空の手に捕まり、地面に埋め込まれ、何回も踏みつけられた。

 ストレイボウはその間に呪文の詠唱を完了させる。

「食らえ魔王! 大魔法ソウルフォース!」

 光の矢がゲルヴェールに突き刺さり、胸に穴を穿った。

 ゲルヴェールは断末魔の叫びを上げ、オルステッドさんの上に倒れた。

 DDシステムの限界時間を迎えたアリシアをかばい、ストレイボウがゲルヴェールの死体をどかし、オルステッドさんを救出した。

「やったなストレイボウ」

「ああ」

 オルステッドさんもストレイボウへ惜しみない拍手を送った。

 すると拍手が後方からも聞こえてきた。

「見事な戦いだった」

 その人物を見て、オルステッドさんは思わず大剣を落としそうになった。

「偽物の魔王相手とはいえ、実に見応えあったぞ」

 その人物を三人は覚えている。忘れるわけが無い。

 彼らを一度殺した相手だから。

「ゲヴァース!」

 オルステッドさんは相手の名前を叫び大剣をかまえ、飛び出した!

「よく覚えていたな。えらいぞチビ助」

 ゲヴァースは背後から漆黒の盾をとりだし、オルステッドさんの大剣を防御する。

 オルステッドさんは大剣の連撃を食らわせる。しかし全てをゲヴァースは盾で防ぎきった。

 気合いとともに、オルステッドさんは突きを放つ。ゲヴァースはそれをも盾で防ぎ、抜いた漆黒の剣でオルステッドさんの大剣を叩き切った。

 砕けた大剣は、オルステッドさんの自信をも叩き砕いた。次の瞬間オルステッドさんのDDシステムは限界時間を迎えた。

 オルステッドさんは盾の一撃で、仲間の元へ吹き飛ばされる。

 ストレイボウは詠唱を中断し、オルステッドさんをキャッチする。そこでストレイボウのDDシステムも限界時間を迎えた。

「さて、お前たち選ぶんだ」

 ゲヴァースはかまえをとく。

「オレに殺されるか、自ら死ぬかを」

 ストレイボウはそれを鼻で笑う。

「我々は一度は呼ばれたのだ。勇者と」

「そうそう。わたしたちこんな所では終わらんのだよ」

 そう言いつつ、アリシアは剣を収める。

「何のつもりだ?」

 アリシアは剣帯を外し、オルステッドさんに渡す。

「なに、お前ごとき、ダガーナイフが一本有れば十分だからな」

 ゲヴァースはほくそ笑み再び剣をかまえる。

 放心状態だったオルステッドさんはふと、顔を上げる。

 ストレイボウとアリシアはそれを見て優しく微笑む。

 アリシアはゲヴァースに突っ込んでいき、ストレイボウはオルステッドさんにだけあの魔法をかけた。

「ウインディウイング!」

 オルステッドさんはどこかへと転移した。



                エピローグ



 オルステッドさんは花畑のなかにいた。

 足がすくみ立ち上がれないので寝っ転がった。

 オルステッドさんはストレイボウの名を呼び、アリシアの名前を呼んだ。

 返事は無かった。

 ふと気づき手元にあるアリシアの剣を杖に立ち上がり、辺りを見回す。

 そこはオルステッドさんがストレイボウとアリシアに初めて会った場所だった。

 二人がモンスターと戦っていたところを加勢に行ったんだっけ。

 周囲を見てもやはり誰もおらず、それを知ってオルステッドさんは初めて慟哭した。


           つづく

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