第陸夜
其の夜は明るかった。
陽が照り続けているせいか、ここ最近は乾いた日が続く。そう云えば、此の白夜が始まって以来、雨というものを見ていない気がする。農家は痛手を負っている所だろう。まぁ、私の知る事では無い。
日曜日ほどやる事が見付からない日もない、と私は思う。面白くもない役にも立たない勉強をするよりはマシだが、それにしても休みというのは、中々何をしようにも気が乗らないものである。
久しぶりに見えないものにご縁を献上しに行くか。どうせやる事がないから、それと決まれば早かった。本日は晴天。上着は必要ないので、幾分か楽である。
扉を開けたら、丁度母の車が家の前を通り過ぎて行った所だった。近くまで来てたのか。それなら少しぐらい、帰ってくれてもよかったのに。言葉にするには稚拙な甘えだ、もう諦めて何年経ったか。見なかったことにして歩き出した。
神を信じる質ではない。御座すならさっさと救ってくれと何度願っても、救われることはなかったからだ。信仰が足りないのだと言われればまぁそれはそうだろうけれど、生けとし生けるもの全てを救ってくれるはずの神が何の罪も犯していない善良で一般的な子供を救ってくれないなんて、おかしな話だ。伝えられている通りの神など存在しないと、私はそう思っている。けれど、
一礼。神の通り道を踏まぬよう手水舎へ。最近は手入れをする者が少ないのだろう、少々苔の生えた石に一抹の寂しさを覚えながら手と口を清めた。
本堂は相変わらず立派だった。特別大きいわけではないが、細かい意匠が施されており、丁寧で繊細な
賽銭箱を目の前にして、祈ることを決めてこなかったのを今更ながら思い出した。どうしようか。世界平和を願うほど崇高な人間ではないし、かといって人類よ滅べとかいう戦隊物の悪役のような願い事もくだらないし。さて。
考えていたら、一つ。ふっと降りて来た。二礼二拍、そのまま瞼を伏せる。
「此の白夜の謎が、明かされますように」
未だ分からないことが多い今日の夜。せめて此の微かな祈りが、研究者らの助けになれば。
そこまで思って小っ恥ずかしくなって、一礼を済ませて逃げるように社を出た。最後の一礼は忘れていなかったので無礼は働かなかったはずだ。体に染み付いた習慣とは恐ろしいものである。
帰り道もまた明るい。星は出ずとも美しい不思議な世界を、遥か北へ腰を上げることなく見上げられるのは、何とも面白いものだ。
白夜、睡る星一つ メルトア @Meltoa1210
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