第参夜



 其の夜は明るかった。


 人と云う生物は面倒臭がりだ。新しさに驚くのを面倒がって、慣れる形で其れを放り捨てる。

 案外早いな、とは思ったが。今日の学校は昨日と比べれば、随分穏やかなものだった。眠れないと嘆く者がちらほら。遊びすぎたと笑う者がちらほら。其の程度。

 ニュースの情報も然程変化はなかった。進展はないらしい。だろうな、と云うのが感想ではある。さっさと解明されても面白くないし。まぁ、其のくらいで良いのだろう。少なくとも私にとっては。


 今日も母は帰って来ない。父からの連絡も梨の礫だ。自分から言い出しておいて酷いものである。別に、困る事はないから構わないのだけど。

 そろそろ冷凍スパゲティのストックが切れる、近々買い出しに行かなければ。電子レンジの前で突っ立ちながら一昔前の歌を口遊む。誰に教えてもらったわけではないが、存外気に入っているらしい。

 しかし、音楽には特段興味がない。私はどうも画面の中のアーティスト達とは違うようで、星や月に比べて浪漫を感じない。嫌いとは言わないが、極めようとは思わない。大概の人間はそうだろうか。尤も彼らは、其れが価値になるから極めるわけではないのだろうが。

 思う事を把握するのは容易だ。けれど裏腹に、其れを理解したり、共感したりするのは至難の業で、勝手に分かった振りをされるのは物凄く腹が立つ。だから、できる限り私は他人の意見を、頭ごなしに肯定も否定もしない。彼らの事を否とは言わないが、特段頷きもしない。

 兎角、私と彼らは別の人種である事に間違いはない。基本的に私はどんな時も争い事が嫌いなので、違う人種の人間とは関わらないように生きてきた。まぁ、其の結果がこの始末なわけだが。別に後悔だとかはしていない。


 くたりと枯れた効果音が私の鼻歌を千切った。お腹は丁度よく空いたけれど、心地よい声出しを妨げるのは少々いただけないな、などと考える明るき深夜である。


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