第弐夜



 其の夜は明るかった。


 どうやら日本はそこそこ奇怪な事象に遭遇しているようだ。今宵も街灯は光らない。ニュースは一層賑やかになった。

 専門家によれば、現在此の国で起こっている白夜は、通常とは違い太陽が沈まない事で発生しているわけではないと言う。何故今夜もまた明るいのか、列記とした理由は未だ分からないらしい。まぁ、研究って云うのは時間がかかるものなんだろう。

 今日は学校もやんやか大騒ぎだった。笑っていなかったのは学年一位常駐の赤峰と、本が友達の長江、あとは私ぐらいか。先生方も落ち着けとは言いながら半分笑い調子だったので、本気で止めようとはしていなかったのだと思う。


 嗚呼、そんなのはどうでもいい。課題を終わらせなくては。此の明るい夜は受験生には有難い。何せ、態々卓上の電気を灯さなくとも、無理せず手元が見えるのだから。何とも助かる話だ。

 機械仕掛けの鉛筆を走らせる。気が乗らずとも筆が乗れば問題はない。数学は答えが出る物だし、此の課題は藁半紙だ。


 正直な所、続いてくれて良かったなぁ、とは思っている。やる事が終わったら眠気がそそくさ襲ってくるいつもと違って、明るいと目が冴えるから。やりたい事がたくさん出来るから。

 終わった紙を鞄に突っ込んで雑記帳を開いた。頁一杯に描き殴られた人間型のデザインと、其の全ての設定。主題には、必ず星座。私が好きな物。好きな事。

 天文学、とは言わない。難しい話は年相応に難しい。ただ純粋に、月と星と、星が織り成す物語が好きなだけだ。未知がある。浪漫がある。だから其れが好きなだけ。

 今見える星座は、未だ描いていなかった。角が潰れた図鑑を捲る。長い夜を彩る天秤Libra。相応しいのは宙の審判。如何なる時も公平に世界を見下す、残酷な使者。星に魂が宿った其の時、私は誰より幸せだ。


 朝になって欲しくないな。そんな事を考えた。現在時刻は01時32分。まだもう少し、未曾有に浸っていられそうである。


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