終幕のパキラ
53panda
デッドエンド・メモリー
第1話
焚火は真ん中で煌々と燃えていて、暗闇が残りの世界をすべて包んでいる。
その境界線にぐるりと陣取る4人の人影を、5人目の僕はぼんやりと眺めていた。
「セーブは?」
短髪の精悍な青年が尋ねた。結果として寄り集まった五人だが、いつしか彼がリーダ的に振舞うようになっていた。誰もそれには異論はない。
長髪の青年が、懐中時計のようなものを開いて目を落とした。
「終わってるな」
「僕も」「右に同じだね」
後を追うように時計を開き確認する僕と、最後の一人の金髪の美少年の声が響く。
「よし、行こうか。今から進めば明るいうちに目的の教会につける」
リーダーは自身も懐中時計を開いて、それから少し神経質な顔をした。
「近づいてるのか?」
長髪の青年がその表情を見て思わず尋ねる。懐中時計には、セーブの完了を示す以外の役割もある。
「大分。これはもしかすると根との決戦も近いかもしれない」
「根?懐中時計の方位針がさす先には、果実があるんじゃないの?」
彼の言葉に反応したのは金髪の少年だ。僕もまたその問いに耳を傾ける。針の示す先に進めばいいという話ではなかったのか。
「ンなことも知らないってお前、もしかして
長髪の男の声には嘲笑の色が混じっていた。
「だったら、問題ありますか?」
金色が似合う美しい顔にむっとした表情が浮かぶ。この少年見た目に寄らず気が強そうだ。まだ入隊して間もないという点は僕にも当てはまったが、やりとりを少年に任せて何気ない表情で話しの成り行きを見送る。
「わりいわりい。そりゃ新入隊員だっているわな。誰にでも初めてはありますよってね」
嘲笑に近いトーンだったのを反省したのか長髪は少しばつが悪そうに頭を掻くと謝罪する。
「根ってのがいるんだよ。連中…いや、そもそも人なのかね。とにかくものスゲーヤバい奴」
「旧神の一派もバカじゃないってことだろうね。僕たちは針に従って果実を追う、でもその先で待ち受けているのは果実じゃなくて悪魔さ」
言葉を引き継いでリーダーが付け足す。
「悪魔、ですか」
「神経質になるなって、だとしてまだ少し先の話だ。なあ?」
少年の表情がこわばるのをフォローしながら長髪がリーダに同意を求める。
「そうだね、対峙することになるとしても、まだ先だ。そのころにはもと多くの隊員が集まっているはずだしね」
針は常に一方を指しているのだから僕ら五人のように隊員たちが集まってくるのは自必然。戦力はこれからさらに増えると考えてよさそうだ。
「そういうこと。心配する必要はないさ、世界を救うべくその身をささげる心強い同志はここにもいるだろ?」
長髪の男は冗談めかして言う。まだ付き合いは短いし、少し粗野な感じもするがそれでも何となく憎めない男だった。
「ああ」「そうだね」
美少年とリーダーはつられるように笑うが、僕には感情が少し遠かった。短い時間を過ごす中で五人との間に少しの距離があるのを感じている。滅亡する世界の為に命を懸ける彼らに対する気後れだろうか。僕がここにいる理由は彼らに比べるとちっぽけだ。
フッ、焚火の火が突然消えた。
視界は当然のように奪われ、四人と一人は闇の中に取り残される。
「なんだなんだ」
長髪の男の調子はずれの呑気な声が闇の中で響き、次に聞こえたときには断末魔だった。
頭が混乱した。突然の事態に体は硬直し、闇の中ですべての感覚器が状況とらえようと必死になっている。
次の悲鳴は上がらなかった。代わりに生暖かいしぶきが顔に当たって、鉄のにおいが鼻腔を刺激する。目の前の人が立っていたはずの暗闇に、質量があるものが倒れる音がしたのと、思考する僕の頭が首から下のシナプスを失ったのはどちらが早かっただろうか。
重力に従って落ちるボール大の球体に取り付けれれた視界が回転する。ようやく慣れてきた目が月明かりの中で辛うじてとらえた像は、さっきまであれほど精悍で頼りに見えていたリーダーの恐怖におののく表情を切り取る達人芸のような鋭い剣の切っ先と、それを振るう人影だった。
デッドエンド。
視界は僕の意識を連れて暗転した。
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