第8話

「おかえりぃ ラズィちゃん!」


 馬車が1軒の家の前に止まり、私が馬車から顔を出すと、ピンク頭の女の人が走ってきた。


 うゎぁあ・・・・・・ 母だよね?


 ベンジャミンさんが、先に馬車を降りて、あたりを見まわし安全確認をしている。

 あたり一面いちご畑で、怪しい奴は、いなさそーな田舎なんですけど・・・・・・

 それから、ベンジャミンさんに手を引かれて、私とイザベラさんが降りる。


「ただいまぁー お母さん」


「おかえりぃ ラズィ、すごい馬車で帰ってきたねぇ。そちらはお友だちかい?」

 今度はピンク頭の中年男 父らしき人が家から出てきた。



「お初にお目にかかります。ベンジャミン・ロマネスコと申します。この度は、人生の修行のため、ベリー領を訪れました。どうか存分に鍛えてください」


 父と母は、「はぁ・・・・・・」と言って、私の顔を見る。


「お父さん、お母さん、この人王子様なのぉー。 なんか着いてきちゃったのぉ」


「えぇぇぇえー ラズィ、早くいいなさい!」

 父が慌てる。母は、髪の毛をなでつけている。あんまり意味ないと思うけどね・・・


「ブブ、ブ、ブラック・ベリーでございます。国王より男爵位を授かっております。ラズィの兄、ブルゥは間もなく戻ります故、後程ごあいさつさせていただきます」


「妻の、ストロー・ベリーです。このような辺鄙なところへいらっしゃるとは・・・・・・」

 両親はアグアグしている。


「イザベラ・シストルでございますわ。国王より、ベリー領にて、いちごを愛するように命を受けてまいりました。よろしくお願いいたします」

 イザベラさん、カテーシー 様になってるじゃない!


「シストル侯爵ご令嬢!!!」

 2人はピンクの頭をフリフリしている。


「お父さん、お母さん、ベンジャミンさんもイザベラさんも追放されたから、普通どおりでいいんだよ!」


「そうです! お父様、お母様。ベンジャミン とだけお呼びください」

「ベンジャミンさんの言う通りです。召使いと思っていただいてもけっこうです。

 わたくし、料理が好きなので、ぜひ教えていただきたいです」


 たぶん、この家、召使いなんかいないと思うよ。うん、間違いない。

 ベンジャミンさん、どさくさに紛れて お父様、お母様って呼んでたよね??



 追放されたと言われても、貧乏男爵には嫌がらせで押しつけられたとしか思えない。 お父さん。一生に一度会うか会わないかという雲の上のお貴族様だ。


「お部屋もベッドもどうしましょう? お客様をお泊めするお部屋なんて・・・・・・」

 お母さんはオロオロしている。




 平屋の民家が多いベリー領で、ベリー家の2階建ての建物は一番大きい。ちゃんとお風呂だってトイレだって家の中にある! 子どもたちにも個室を与えることができるくらいだ。外から人が来ることがないベリー領では、客室や予備のベッドなんて無駄なものは必要ない。


「後で、ブルゥが帰ってきたら、トムさんとこでベッドを急いで作ってもらうように使いに出そう。今日は間に合わないけどなー」

「お父さん、ベッドを作ったって、ベッドを入れる部屋がありませんよぉ」

「なんとかなるだろう! 今日はお客さんには子ども部屋を使ってもらうとして、お母さんとラズィは、私たちの寝室を使おう。私とブルゥはリビングだ」



 お父さんが部屋割りを決めていると、ピンク頭のひょろっとした青年が入ってきた。

 ブルゥに違いない!! ピンク頭家族!!


「あれぇ? 誰か来たのぉ?」

 間違いない!  ラズィの兄だ!



 あいさつもそこそこに、お父さんはトムさんとこにブルゥを使いに出す。

 お母さんは夕飯の支度が途中だと言って、慌てて家の中に入っていった。



「お母さん、手伝うよー」って言うと、「お部屋に案内してあげてぇ」とお母さんが言った。




 あの・・・・・・この家、私も初めてなんだけど・・・・・・


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