第5話

 卒業パーティの前日、ベンジャミン王子からはいつもの花束とパーティ用のドレスが贈られてきた。

 フリフワピンクのに赤い大きなリボンがたくさんついている。趣味じゃない。

 でもうちは貧乏男爵家だから、ドレスなんか準備する余裕はないので、ありがたく着ることにする。

 ヘアスタイルはアップにはできないので、そのまま髪を下ろす。髪の毛もフワフワのストロベリーブロンド、ドレスもフリフワピンク。 赤いリボンがアクセント??

 ゲームの中では、エフェクトのキラキラお星さまが散りばめられていたから、気にもしてなかったけど、これってナシ! だよねぇ 

 でっかいピンクの綿菓子の着ぐるみにしか見えない。


 学園のホールに到着すると、ベンジャミン王子が爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

「ラズィ、今日はなんて愛らしいんだ!! 朝露にぬれたいちごのように輝いている。摘みたての君を食べてしまいたい!」

 いやぁ、その言葉、ちょっと引きます――王子……


 それから満面の笑顔を振り向いている王子にエスコートされて、私はパーティ会場に入場した。

 案の定、ホールのあちこちから、ひそひそ声が聞こえてくる。


 やはり、ベンジャミン王子はイザベラ様に見切りをつけられたのね。

 あんなピンク女のどこがよろしかったのかしら・・・? 礼儀作法も身に着けていらっしゃらないと伺っておりますわ。

 御覧になって イザベラ様のお顔!

 まぁ、こわい・・・・・・あれでは王子もお逃げになるわよね・・・・・・


 みんな好き勝手なことを言っている。でも、イザベラさんのあの顔、 あれは、不安になってる顔だ。

 私をじーっと見つめてるけど、悪役令嬢だから、目つきが怖いよ!!

 睨みつけてるようにしか見えない。


 私をエスコートした後、ベンジャミン王子は王家の一員として王様と一緒に登場することになるので、いったん私から離れていった。

 王子が去っていくと、噂好きの女生徒たちが数人、私のところへやってくる。

「ラズィ様、おけがはもう大丈夫ですの? 災難でしたわねー。 イザベラ様とは・・・」と、心配顔を作ってるけど、好奇心丸出しですよ。


 イザベラさん、相変わらずイジワル顔で私を見てるしかない。

 いつもは派手なドレスを着ているのに今日は落ち着いた色目のドレスをチョイスしているみたい。モスグリーンの生地に金糸で蔓草が刺繍されたドレス。それと共布のリボンにも刺繍が施されている。きれいなんだけど・・・・・・

 ちょっと昔のマンガにあった、ドロボーさんの唐草模様の風呂敷に見えるのは私だけ・・・・・・?


 そんなどうでもないことを考えていると、「王様のご来場―!」との声に、会場内が一斉に静かになり、王様御一行様がホール上段にお姿をお見せになった。

 通年であれば王様からの卒業を祝うお言葉を卒業生は賜るのだが、前に出てきたのはベンジャミン王子だった。


 ついにキターッ!!!!!

 思わずイザベラさんのほうを見ると、彼女もこぶしを握り締めて私をじっと見て(睨んで)うなづいている。     ・・・・・・ちょっとコワイ。


「イザベラ・シストル侯爵令嬢! 貴殿との婚約をここに破棄することを、私ベンジャミン・ロマネスコは申し伝える。

 なお、国王には了承を得ているので、この決定は覆されるものではないことを合わせて伝える!」

 ベンジャミン王子は、イザベラさんをキッとにらむ。イザベラさんは下をうつむいたままだ。王子はさらに言葉を重ねた。


「その理由をここで明らかとすることを、皆に許してほしい。

 イザベラ・シストル侯爵令嬢はラズィ・ベリー男爵令嬢に対して、度重なる嫌がらせを繰り返し、その所業、未来の国母としてあるまじき行動である。

 特にこの数日の間に起こした行動は目に余るものがある。階段から突き飛ばしたり、ラズィ男爵令嬢の丹精込めて育てていたいちごを踏み潰し、いちごを持って逃げ去る姿は多くの者が目にしている。さらにはそのいちごを、メイドにも咎められないようにと、こっそりと慣れない料理をして片付けようとしたというではないか。そなたのメイドが渋々と白状したのだ。申し開きはあるか?」


「ベンジャミン・ロマネスコ王子に申し上げます。いちごを踏み潰したわけではございませんが・・・・・・すべて事実のことでございます。わたくしイザベラ・シストルは慎んで王子のお言葉を承ります」


 イザベラさん! 認めちゃったよー どうしよう・・・・・・

 私に問題丸投げかしら?




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