通勤[花金企画]
ゴォォォ……。
電車が暗闇に吸い込まれていく。瞬間、耳が少しクッとなる。ほんのわずかな気圧の変化を感じながら地下を走る電車の窓ガラスに反射した車内の様子を見る。
携帯電話をいじっている人、眠っている人、見上げて何か――広告か電光掲示板の示す次の目的地か――を眺めている人、様々だ。私が見ているのは窓ガラスに映る女性。たまに通勤電車で彼女と同じ車両に乗れた時はラッキーだ。
膝上の大きめの鞄に手を置いて携帯電話を両手でいじる女性。長い髪をゆるやかに巻いて、キレイめツーピース。仕事のできるオシャレな会社員という雰囲気をまとった女性。よく似合うセンスの良いイヤリング、ネックレス。右手に光る指輪。
フッとその姿が消える。
地上に出た電車の窓からは、緑の映える堀沿いに建ち並ぶオフィスビルや大学が見える。もう降りる時間になったのかと、目を伏せて席を立つ。
「あれ、同じ電車だったんですね。お早うございます」
「おはよう。鈴木さん」
「ちょっといい加減覚えてくださいよ。吉田です」
彼女は左手の指輪を見せて笑う。
「おはよう、吉田さん」
私は彼女に笑顔で返す。
だから、窓ガラス越しにしか見たくないんだよ――なんて心の中で毒づいて。
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