Q5:この服を着ろと?[ハーフ&ハーフ]

 目の前で、愛しい彼女が微笑んでいる。


 こんなに幸せなことはない。

 ここのところ、お互いに忙しくて、なかなか二人の時間を持てなかったのだ。


 やっとできた、二人だけの時間。

 キミが満面の笑みでボクを見つめてくれる。

 キミのためなら、なんだってしてあげたい。

 心から、そう思える。


 ――と、ついさっきまでは思っていたんだけど――


 すまない。

 やっぱりムリだよ、コレ。


「似合う! 似合うよ、関川君!!」


 キミが絶対に似合うと言いながらボクに着せた服。

 鏡の前で、言われるがままにポーズをとってみるボク。


 でも……ダメなんだ。

 今日だけは、キミの願いをきいてあげることができそうにない。


「これ着て一緒にお出かけしようねっ!」


 ああ、彼女の弾ける笑顔がまた可愛い。

 この笑顔を曇らせるなんて想像するのも嫌だ。

 嫌だけど、この格好だけは……

  

 ああ、ボクはいったい、どうすればいいんだ?











 ボクはカッと目を見開いた。


 バカな!? こんな薄っぺらいだけの布が●万円だと!? 白金やレアメタルなんて特殊な素材でも使われているのか! いや、どうやって使うんだそれ。って、タグは『綿100%』とだけ書いてあるし。そうか、幻の蚕でも使っているというわけか。いや、落ち着けボク。蚕はシルクか? くそ、わからん。なんだ幻の蚕って。ボクはバカか!?


 この間わずか3秒。ボクは思考の大河を泳いでいき、彼岸をクイックターンで戻ってきた。久方ぶりの此岸の空気は重い。


「いやあ、これはちょっと予算オーバーかな……」


 なんてナイスな発言なんだ、ボク! この常識的な判断で買えないということになれば、この服を着なくて済むじゃないか! ボクは天才か!?


「大丈夫! ボーナス出たから、私に任せて!」

「そー……なんだー」


 魂が抜けそうになる。だが、ここで負けてはいけない。どうにか根性で魂を手繰り寄せながら、ボクは彼女の肩を掴む。


「でも、こういうのはちゃんと買わせてくれ。キミとちゃんと歩けるように、お金を貯めるから! は、半年! いや、一年待ってくれないか!」

「関川君……私……」


 彼女が真面目な顔で続ける。身も心も凍りつく真顔だ。


「甲斐性がない人、無理なの」


 ごめんなさい! と言われたところで、ボクは魂を解放して、意識を失った。


 ――でもだって 無理なんだもの メイドコス

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