Q4:特別な日のかわし方とは?[ハーフ&ハーフ]

 今日は彼女との久しぶりのデートの日だった。


 待ち合わせは駅の中央改札にある時計塔の下。

 いつも人がたくさんだけど、ここなら間違うことはない。


 彼女との約束の時間は午前十一時。今はその十五分前。 

 これから一緒に早めにランチして、近場の水族館に行くデートプランを立ててある。


 ほどなくして彼女がやってきた。

 

 いつもはジーンズ基本のラフな格好がほとんどなのだが、今日は春らしい色のワンピース。

 普段は口紅ぐらいしかつけないのに、今日はメイクもバッチリしている。


 か、かわいい……


 あんまり見つめ過ぎていたのだろう。

 彼女はちょっと赤くなる。


「あ。やっぱり気付いちゃいました?」


 え? 何に? 何も気づかなかったけど?


「……今日は関川サンとの特別な日ですからね、気合い入れちゃった!」


 ……今日ってなんか特別な日だっけ?

 ……なんだろう? さっぱり分からない。


 正直に言うべきだろうか?

 それとも会話しつつ探るべきか?


 僕にゆっくりと考える時間はなかった……











 僕はカッと目を見開いた。


「ああ……そうか」

 左手の腕時計をもう一度見る。十時四十五分を指したまま動かない針。中央改札の時計塔はすでに十一時を過ぎているというのに。行き交うたくさんの人たちは、まるで無関心に通り過ぎていく。

 でも、可愛いらしい彼女だけ、視線を奪っている。いや――可愛いからではなく、に向かって話しかけているから。


「僕は今年も出てしまったんだね」


 あの日、僕は急いで駅に向かっていた。身体に痛みを感じながら、それでも最後に彼女に会いたかったから。早めにランチして、近場の水族館に行ってって、完璧なデートプランがあったから。

 ジーンズ姿のラフな格好の君が僕を時計塔の下で見つけた時には、もう救急隊員に運ばれるところで。


 僕は意識を手放したんだ。


 それから毎年、僕はこの時計塔の下に現れる。彼女との待ち合わせのために。

「関川サンが助けた子、元気に学校に通ってるみたいですよ」

「うん」

「そんな彼氏がいたことが、私の誇りです」


 彼女は瞳を潤ませて伏し目がちに言う。それがとても――


「とてもきれいだね」

「……ありがとうございます」

 春色のワンピースで、メイクをしている君はいつもより大人びていて。何回、僕のいない春を過ごしたのだろうか。彼女はさらに俯く。光の筋を頬が伝う。

「……今日は関川サンとの特別な日ですから」


 おそらく、彼女にだけ見えている僕は、彼女をぎゅっと抱きしめる。温もりは届かないけれど彼女を思う気持ちだけは届いて欲しくて。


「もう行かないといけない……さようなら。ありがとう」


 今日は彼女との久しぶりのデートの日だった。

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