Q3:優しくするのはキミにだけ?[ハーフ&ハーフ]

「関川さん、今度入ってきた後輩ちゃん、すごく可愛い感じじゃないですか?」


 と聞いてきたのは一つ年下の後輩の子。


「そうかな? あんまり気にしたことなかったけど」

「髪型とか服装とか、関川さんの好みなんじゃないですか?」


「うーん、そんな風に思ったことはないけどなぁ」

「本当ですか? なんか後輩ちゃん、いっつも関川さんの後ろについてるし」


「まぁこれでも先輩だからねぇ」

 

 と、急にジトッと上目遣いで睨まれた。


「でも後輩ちゃんには特に優しくないですか?」

「そうかな? キミが入ってきたときもなるべく優しくしてたつもりだったんだけど……違った?」


「違ってないですけど……どうやらあたし、自分が特別だと勘違いしてたみたいです」

「……」


「関川さん、聞いてました?」

「ん? あ、あぁ……」


 これは多分大事な二択。

 ボクは一呼吸して――











 カッと目を見開いた。


 『キミが好き』   『新入りが好き』


 ピッ。


 『キミが好き』◀  『新入りが好き』


 恋愛シミュレーションゲーム『LOVE四則演算』――何度も繰り返しプレイし、ついにたどり着いた最難関『後輩ちゃん』ルートの『告白』フェーズ。攻略本も読み倒したし、攻略サイトも巡りめぐったし、攻略動画も見まくったし――おっと、エンディングは見てないぜ。それは一番のお楽しみだからな!


 好感度、よーし! 他の女の子とフラグ、なーし!

 いくぜ! トゥルーエンディング!!


「決定!」


 親指で強くボタンを押すと、画面の中の『後輩ちゃん』がボブヘアを揺らして、照れてる表情になる。この細分化されたグラフィックの変化。この上目遣いがたまらん。


 神ゲーすぎるぜ! 『LOVE四則演算』!!


『関川さん、それって……信じていいんですか?』


「もちろんだよ!」

 思わず、『後輩ちゃん』のセリフに被せるように答える。


『嬉しい……あたしも――』


 ブツン。画面が真っ暗になる。


「んはぁっあ!!!??」


 慌てて周りを見渡すと、いつの間にか彼女が俺の後ろに立っていた。テレビのリモコンを片手に、すっごく可愛く頬を膨らませている。


「ピンポン押しても反応ないし、メッセージも既読つかないし、電話も出ないし……どうしちゃったのかって心配してたら――」

「ごめんごめん、キミが来る前に終わらせるつもりだったんだけど」

「んもう、よりによってギャルゲーとか!」

「ごめんってば」


 ボクは慌てて立ち上がって、彼女に近づく。彼女はボブヘアを揺らして、上目遣いでこちらを見る。『後輩ちゃん』そっくりで可愛い。


「もお……最近、こんなのばっかり」

「こんなのって?」

「今度入ってきた新人、すごく可愛いでしょ?」

「そうかな? あんまり気にしたことなかったけど」

 っていうより、キミの方が断然可愛いし。


「髪型とか服装とか、君好みでしょ?」

「うーん、そんな風に思ったことはないけどなぁ」

 そもそもボクの好みのタイプはキミだし。


「本当? なんか彼女、いっつも君の後ろにいるし」

「まぁこれでも先輩だからねぇ」

 あるいは背後霊なのかもしれない。どちらにせよ、言い掛かりだ。どうせ背後を取られるならキミがいい。


 彼女は、急にジトッと上目遣いで睨んでくる。これはなんのご褒美だろうか。


「でも彼女には、特に優しくない?」

「そうかな? キミの時も優しかったでしょ?」

 キミに出会ってからずっと下心丸出しだぜ。


「……あたし、自分が特別だと勘違いしてたみたい」

「……」

 いかん、『後輩ちゃん』にそっくりすぎて集中できん。愛しさに溢れて意識が途切れそうだ。


「聞いてた?」

「ん? あ、あぁ……」


 確かに、キミが好きだから似ている『後輩ちゃん』を狙おうと思ったのか、『後輩ちゃん』がモロ好みだったから似ているキミを好きになったのか。これはすでにニワトリかタマゴかみたいな話になっている。


 でも、シミュレーションはすでに成功している。だって――


「ボクの恋人はキミだよ。キミだけだ」


 そう言ってボクはゲームのコントローラーを置いて、彼女を抱きしめた。

『後輩ちゃん』のエンディングは動画で見ればいい。


 キミとのエンディングは、ボクだけのものだから。

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