ゲームをしよう
「ねえ、暇なんだけど」
「俺は暇じゃねぇの」
「なんでよ。万年球拾いのくせに」
「おい、マネージャーのくせに」
「みんな遅いねえ」
「ダラダラ言ってねぇで、お前も磨けよな」
少年は、そう言いながら
汚れたボールが入った黄色いケースを
マネージャーの前まで蹴る。
「行儀悪いんだあ」
「うっせ」
マネージャーはボールを手にするでもなく
ベンチに座ってグラウンドを眺めてる。
「春だなあ」
「お前なぁ」
「ねえ、ゲームしようよ」
「はぁ?」
少年は、ため息を吐く。
監督に怒られるからボールを磨く手は止めない。
それでも一応聞いてみる。
「どんなゲームだよ」
「『好き』――」
「ん?」
「しか言っちゃだめゲーム」
「なんだそれ、面白いのか? それ」
「面白いよお。きみからね」
「ふうん」
「わたしが何を言っても好きって言って」
「めんどくせぇ」
「ハンバーグ」
「おー好き好き」
「焼肉」
「好き」
「野球」
「好き!」
「学校」
「好き」
「宿題」
「……好き」
「マネージャー」
「す、き……?」
少年はボールを落とす。
せっかくキレイにしたのに。
「おい、このゲームって」
少年がボールを拾って見上げると
マネージャーは反対側を向いている。
少年の方を見ようとはしない。
「おーい」
マネージャーは振り返らない。
「なんだよ、無視かよ。ってかお前も磨けよ」
背後で続く少年の文句を聞きながら、
マネージャーはただ黙って桜を見ていた。
満開の花びら色に、頬を染めたまま。
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