脳内会議

「ねえ、この服どう思う?」


 ――コンコンッ。


 試着室から出てきた彼女の言葉とともに、

 頭の中に突然、

 議長のハンマーの音が鳴り響く。


『それでは本日の緊急会議を始める』

 ハンマーを手にしたオレ①が口を開く。

『議題は、彼女の服、似合うかどうかだ』


『いや、いつも聞かれるけど分かんねぇよ』

 と、オレ②。

『それより腹減ったよ』

『おい! オレ③! 真面目にやれ』

 オレ①がハンマーをオレ③に向ける。


『なんだよ!

 じゃあオマエはどうなんだよ!』

 オレ③は、そのハンマーを取り上げる。

『いつも議長ぶりやがって!』


『おい、ケンカしてる場合かよ』

 オレ②が腕を組んでふんぞり返っている。

『彼女を待たせたら、

 どうなるか分かってるだろ』

 そう言われて、オレ①と③が彼女を見る。


 反応のないオレに

 彼女は頬を膨らませている。


『おい! オレ①、なんか言えよ!』

『なんでもいいから、ほら!』

『え? えええ??』


「オ、オレは……前のワンピースの方が」

 苦しかったか? 思わず目を逸らす。

「好き、かな……」


 彼女は目をパチクリとさせてから

 はにかむように一言。


「……えっち」


 そして、彼女は試着室のカーテンを閉めた。


『うおぉぉ。可愛い! 見たか今の』

『ちょっと待て! 今のは正解なのか!?』

『分からんが、きっと勝利だ!』


 頭の中で万歳三唱するオレたち。

 いいんだ。これで終わった。

 彼女が服を決めて、これから食事だ。


『オレ、かつ丼がいい!』

『肉! 肉!!』

『彼女と一緒ならどこでも……』

『やーい、ムッツリ~』


「ねえねえ」


 彼女の声で思考が途切れる。

 試着室のカーテンを開けて、

 彼女が顔を出す。


「こっちはどう思う?」


 ――コンコンコン!!!


 ハンマーの音が響き渡る。


『『『腹減ったよ!!!』』』


 脳内会議は踊る――。

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