第三十一話 最悪の日


ーー気分が悪い。


まさか、私がセナーランに行ったことがあるなんて。


不思議な感覚だ。


もしかしたら、リーシャが私の家の前に置いてあったのもこの事があったからかも知れない。


窓の外を見ると絵の具が入ったバケツをこぼしてしまったような真っ赤な炎。

それに囲まれ、後ろ手に縛られる村人達。


結局私はあの人達を、ずっと一緒に暮らしてきた人達を見殺しにするのか?


それらから逃げるように顔を背けるとリーシャの方へ顔を向ける。

やはりあのホログラムは昔、セナーランで見た物と同じ物。


少しよろっとしながら夢中でリーシャの方に駆け寄った。


「…お母さん?」


やはりこのキラキラと輝く大きな青の目はミシェルそっくりだ。ちょっとクセがある焦げ茶の髪はウィル様と同じ。


「り、リーシャ。あのね。今思い出したんだけど私あなたのお父様とお母様に会ったことがあるわ…!」


「え?!それってどう言う…」


「今、それを話してる時間はないの!とにかくその板に書いてあるのはプログラムっていうんだって!それで魔法を作ってるの!」


「プログラム…?…あ、セリンさんが言ってた…」


「セリンさん…?誰だ?」


ルーンが考えながらリーシャに言う。


「ちょっとまって!今思い出してるんだから…」


リーシャは貰った知識の中にプログラムの事やプログラムの書き方が載ってないかどうか思い出す。


「無いな…」


プログラムという文章で、地球にいた頃の人類はコンピュータを動かした。

それしか思い出せるものは無い。


リーシャは何か方法が無いかともう一度ホログラムを見る。

板は何も変わらず、そこにある。


「どうしよう!プログラムなんて書けないよ…!」


「でも、脱出出来るとしたらそれ以外思いつかないわ!」


「どうすんだよ?!」


リーシャは頭の中をフル回転させて考える。

魔法がプログラムで動くなら、魔法はなにかコンピュータの様な物なのか?

いや、今そんな事を考えている時間は無い。どうにかしないと…


リーシャはわけが分からなくなってヤケになりながらもう1回ホログラムが出たままのイレークスで魔法陣を起動しようとする。


またパーッと光はじめて、また同じような声がする。

しかし今度は内容が違った。


『4053プログラムを実行。エラー。キー1が違います。非常プログラムを実行。エラー。キー1が違います。』


「キー1ってなんなんだよ!!」


ルーンが窓をチラッと見ながらパニックになって叫ぶ。

その顔は青いを通り越して真っ白になっている。


リーシャは、音声の内容が違う以外にもう一つ別の1回目に魔法陣を起動しようとした時とは別の変更点に気づく。


さっきのホログラムとはよく似ているがホログラムが、出てきて音声の内容が表示されていたのだ。


その時…


『4053プログラム、キー1を確認しました。突破。エラー。キー2が違います。』


「え?!」


よくわかんないけどキー1が分かったの?!

さっき分からないって言ってた癖に!


3人が縋るような思いで次の言葉が出てきたホログラムを見る。


『ユーザー02-576からメッセージ。セナーラン語で書かれているため読者の言語に翻訳します。』


「メッセージ?!」


リーシャは誰から何が来たのかを探ろうと今の音声も書き出されたホログラムを見て、夢中でパッと触れた。


何か物があると感じはしないがリーシャが動かす指にそって文字がスライド出来る。


もしかしたらとそのホログラムの中の下の方にズラーッと並んでいた小さなアイコンから手紙のアイコンを押してみる。


「うぉ?!」


ルーンがびっくりして声をあげた。


さっきまで音声を映していたホログラムが全く違う物になったからだ。


さっきの文章が消え、代わりに別の文章がでてきた。

ホログラムの上部には『02-576』と書いてある。


リーシャは出てきた文章を読み上げる。


「『リーシャ様。今、私達ができる限りのハッキングで傍受されていた転移プログラムのセキュリティキー1を解読しました。この調子じゃ全部で100程あるセキュリティキーを解読するまでにゲンデム村は占領されます。こちらはそちらで転移プログラムを起動しようとしている事しか分かりません。早急に返事をお願いします。』」


リーシャはその後の言葉に目を疑った。


「『アイリス七大騎士 セルミニ・アイリス・ハープ』」




◇アイリス共和国◇




「セルミニ!どう?!返事来た?!」


青髪の七大騎士の女性が、長い白髪のメガネをかけた七大騎士の女性ーーつまりセルミニに向かって叫んだ。


その声には縋るような恐怖のような何かが混じっている。


「まだです…あっ!来ました!」


その場に居た4人のアイリス七大騎士達が全てセルミニのホログラムに駆け寄る。


後の3人はまだドンデ王国に残って稲妻の出処などを調べているので、その場には居ない。


『キーボードに触った事がなくて音声入力を見つけて送るまでに少し時間がかかりました。私は今、家にいるのですが母のバリアが守っている私の家以外のゲンデム村はドンデ王国の第二の天使の手により、全て燃えています。何人かは殺されて、その他は捕虜として捕まえられています。お母さんは恐らくこのままじゃ彼らは拷問されるだろうと…家の周りにはドンデの第二の天使が張り付いて立てこもっている状態です。…私、“星”の事も昨日知ったばかりなんです。助け下さい。アイリスの騎士様。


リーシャ・フォン・ロンデンヴェル』


「あーくそ!どうすんだよ!」


黒髪の青年がしゃがみこむ。


「リーシャ様は恐らく5歳。そして最後のセナーランの王族。あの転移プログラムを無効化するプログラムを作ったのは天才であるセナーランの裏切り者。キーを一つ解くのに4人で何分もかかった私達。どうしよう…」


青髪の女性が頭を抱える。


すると、お爺さんの七大騎士が閃いたように話し出した。


「現在地座標を送って貰ったらどうじゃ?!あやつのプログラムのせいで転移プログラムが作動しようとしている座標もあやふやだが、それが完璧に分かればそこに集中して攻撃できるじゃろ?」


「いいですね!そうしましょう。ついでに炎の事も警告して置かないと…」


セルミニがタイピングし始める。


その時。


ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…


アイリス・ベースにある大きな鐘がなり始めた。


12回。


日にちが変わったのだ。


青髪の女性が外を見て言った。

その目には寂しげな影がある。


「この日にこんな事件が起こるなんて…偶然かしら?必然かしら?…どっちにしろいい気がしないわ。今日は私達の友がたくさん死んだ…セナーラン滅亡の日だもの。」




◇カシュクラン帝国◇




ポーン…ポーン…ポーン…



アイリス・ベースで鐘が鳴ったその何分か後、リーシャの家にあった鐘も鳴った。


12回。


日にちが変わったのだ。


リーシャは返事を待ちながら窓の外を見た。

もはや景色が見えない程の真っ赤な炎が踊っている。

その目にはどうしようもない哀しみの影がよぎる。


「この日がこんな事になるなんて…偶然かな?必然かな?…どっちにしろやだな。私は今日を楽しみにしてたのに…私の誕生日だもん。」


『ユーザー02-576からメッセージ。セナーラン語で書かれているため読者の言語に翻訳します。』


メッセージが来た!


リーシャは窓から目を離し、ホログラムを見た。

他の2人も食い入るように見る。


『もちろんお助けします。まず、現在座標を教えて頂けますか?それと、多分その炎は炎では無く“魔法”のプログラムを解除する小さなロボットの塊です。お母上のバリアを解除されてしまうかもしれません。お気をつけください。』


「座標…?」


リーシャは魔法陣の上に杖を向けて魔法を唱える。


「〈ザンミリュジュ〉」


すると頭の中に数字が思い浮かび始める。

リーシャはペンを取ってその長い数字をメモ用の木の板に書いた。


それが、座標である。


リーシャはそれを急いで読み上げて音声入力した。


「送信!!」


急いでキーボードのEnterキーを押して送った。



パリンッ



希望が見えたその時、大きな音がした。


その音は3人に何層にもなっているバリアの1枚目が割れた、すなわち向こうの準備が整い攻撃が開始されたことを語っていた。

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