第二十九話 ホログラムと思い出


「だ、ダメ!助けなきゃ…!!」


炎と攻撃魔法と剣が何かを壊す様な音の爆音の中、リーシャはドアに走った。


「リーシャ!ダメ!」


シェリアンがリーシャをドアから突き飛ばす。


「ぐっ…!」


リーシャは部屋の向こう側に飛ばされてシェリアンを睨む。


「どうして…?!」


「今行ってどうするの?!相手はそれこそSSS級並が10人以上!わかってる?!」


「だって…!」


「それにさっきの報告にあったみたいにさっきから作ってる小さなバリアは炎に触れた瞬間消えてくし、今外に出てく余裕なんかないのよ!何か対策しないと私でも一瞬で戦闘不能になるわ!」


「…!!」


「それにこの家は囲まれてる!多分罠も張ってあるから今出ていけばどうなるか分かるでしょ?」


「…うん。」


「とにかく、私はここにバリアを張るわよ。それからすぐに村人を助けましょ。」


窓から外をチラッ見ると村全体が燃えている。


「私は何とかして炎で解けないバリア魔法をかけてみるから2人は転移魔法をダメにしてる魔法をどうにかできるかやってみて!」


「はい!ほら、リーシャ!」


「…うん。」


リーシャとルーンは紫の稲妻の方向に向けて窓から解析魔法を放つ。


「「〈アイリメニウ・リフェクト〉!」」


2人の杖から同時に金色の光が飛び出した。


それと同時に薄いが超強力のバリアがシェリアンの魔法により家を包み込む。

そして続けて何枚かシェリアンによって同じようなバリアができていく。


リーシャとルーンも解析を進めていった。




◇◇◇




ザッザッと土を踏む。


ここの村人の叫び声が心地いい。


「お兄様、とりあえず作戦通り村の周りに火を巻いておきました。」


自分と同じ黒髪の少女がこっちへ来て言った。


「あぁ。」


そう言いながらポンッとその子の頭を撫でる。


「みんな!あの方がくれたローブを着ろ!あれを着ずにあの魔法の火に触れたら我々も溜まったもんじゃないぞ!」


『はい!』


その場にいた兄弟達全員が返事をする。


「推定される残り生存数は?」


「上手く火から逃げ仰せた若い者たち数人は捕まえてあります。命令通り尋問後、削除する予定です。あと…」


少女がバリアで守られて家を見た。

二階の窓から金色の光が出ている。

解析魔法だろうか?


ともかく、これ程のバリアが貼れるのはこの村で1人しか居ない。

解析魔法はセナーラン王女とあと協力者だろう。


「罠は貼ってあるんだろうな?」


「もちろんです。」


「これで出て来てくれれば楽なんだが…」


「来なそうですね。」


「あぁ。少し戦闘が出来る敵がいたろ?帝国の影のやつらだろう。て事はもう帝都に連絡がついてるだろう。早く準備して突撃するぞ。」


『はい!』


我々も複数人の転移魔法が使えたら良かったが、あいにく複数人転移魔法の陣を知ってるやつは俺の知る中でこの世界でたった1人。


シェリアン・フォン・ロンデンヴェルだ。


うちの家族にも一人、転移魔法を使える奴がいるが俺は剣しか脳がないし殆どの兄弟が魔法じゃなくて物理が得意な奴らばかりだ。


大人数で乗り込むには門から乗り込むしかないのだ。


「あっ…」


罠を張った家の二階の窓から出ていた金色の光がパッと消えた。


解析が終わったのか?


「?!」


こんどは二階の窓から青い紐が出てきた。

真っ直ぐ捕まった村人がいる所に向かう。


「?!あの紐を切れ!村人に触れさせるなよ!」


咄嗟に言って自分も加勢に動く。

窓から数十本の紐が出て来て村人達の元へ出てきたのだ。


足掻いても無駄だ…!


紐を数本まとめてぶっ叩きながらそう思った。




◇◇◇




「あーもう!」


シェリアンは杖から出ている数十本の紐を操っていた。


大変高度な魔法だが、こうでもしないと村人をこの部屋に入れるどころか届く前に切られてしまう。


ところで、リーシャとルーンはと言うと解析が終わってどうにかして解除が出来ないかと試行錯誤していた。


解析結果は『範囲内の人間を外に出さない、範囲内の転移魔法を阻止する魔法』だ。


同じような系統の魔法はあるが、こんな広範囲にそれもひとつの魔法が複数の意味を持つなんてリーシャ達は聞いた事が無かった。


「もう!発動してよ!」


リーシャが手に持っていたイレークスを魔法陣の真ん中に立てて転移魔法をヤケクソで発動しにかかる。


「?!」


魔法陣がパァァァァと光り出した。


「え?!やった!イレークスだから出来たのかな!」


しかし…


『システムエラー。システムエラー。プログラムを実行出来ません。』


光がパッとやみ、手に持つイレークスからそんな声が聞こえてきた。


「し、しすてむえらー?」


『プログラムを開きます。』


パッとイレークスから何かが浮かび上がった。


それは枕ほどの大きさの薄い青の文字が書いてある板。

リーシャが眠っていた時に見た、セリン・ニンドーラの立体映像の中にあった日にちや時間が書いてあったものに似ている何かだ。


リーシャはセリンから貰った知識の中に情報が無いかと必死で考える。


そして貰った知識の中にあった『ホログラム』と言うものだと言う事を突き止めた。


しかし、魔法の星になぜ化学が出てくるのだろう?

リーシャは目の前にあるホログラムの板に書いてある言葉を見た。


…古代文字だ。


何だこれ?

def?if?a == 5748j6?

大量の古代文字と古代数字が並んでいる。

普通に読むと文法的にもおかしくて、計算的にもおかしい。

count =+ 1?

成り立って無いじゃないか!とリーシャは思う。



「り、リーシャ!それ、なんなんだ?!」


ルーンがホログラムの方を向きながら言った。


「あ、えっと…」


「え?!なんか声が聞こえたけどなんかあったの?!」


紐を操る事に意識を集中させて、今まで話を聞いていなかったシェリアンが叫んだ。


「…えっと」


リーシャが何と説明したらいいのか考えていると、シェリアンがリーシャの方を向いた。


そしてホログラムの板も見る。


「何それ…?」


シェリアンが目を細めてそのホログラムをじっと見た。




◇シェリアン◇




私はリーシャが持っているイレークスから浮かび上がった『それ』を不思議な感覚で見つめた。


何か、引っかかり、何か見た事がある。


「うっ…!」


不意に頭が痛くなった。


「え?お母さん、大丈夫?!」


リーシャの声が聞こえる。


頭の痛さが最頂点に達し、膝をつきそうになるのを何とか耐える。


そして…思い出した。

20年前程前の、その記憶を。



◇◇20年前…◇◇



「お初にお目にかかります、セナーラン国王。」


少し若いロンデンヴェル大公…お父様が緊張しながら跪いたその人は、大公と同じくらいの歳で茶髪の男性だ。その目はキラッと輝き、全てを見据えるようなグリーンの目。


…その6年後、原因不明の病気で死ぬとは思えない目だった。


「これは、ロンデンヴェル殿。ようこそ我が国へ。」


どこか安心させるような声のセナーラン王が言った。


「ありがとうございます。この国に来てからどこを見ても全てが輝いているようだ。このような素晴らしい国に来る事が出来てとても光栄です。」


「それは嬉しい事を言って下さるな。顔をあげてくれ。そちらの皆さんも。」


そう言われてお父様の後ろで跪いていた私は顔を上げた。

お母様や他の兄弟達数人もだ。


私達は数人の国の安全の為兄弟達を置いて、同盟国であるセナーラン王国に来ていた。


この頃はお母様も生きていたんだな。


「本当によく来てくれた。お嬢さん達、良かったら滞在中うちの子供達と遊んでやって欲しい。歳も近いし、長ったらしい国の説明やらを聞くのはつまらないだろう。」


ニコッと笑って王が言う。


彼はリーシャの祖父に当たるが、この笑い顔はリーシャに似ているな。


「ご配慮感謝致します。」


今、セナーランにいる中で1番上のお兄様が言って頭を下げる。


他の兄弟達も頭を下げたので、一番下の私も慌てて頭を下げた。


私は王の隣にいる王妃と5人の子供達を見た。

セナーランは、子孫を必ず残すために主要貴族、王族は一夫多妻制の他の国と比べて一夫一妻制である。


あとから聞いた話だと、5人の内一人は王太子の婚約者で城で育てられているらしい。

他の4人は大きい順に王太子、第2王子、第1王女、第3王子だ。


一番大きい王太子でも10歳前後で、私と同い年なのが王太子の婚約者だった。


後に、第2王子がセナーランを裏切ることになるなど誰も思わない。


そして、私はその城で1ヶ月過ごすことになる。


…後で私に大事件が起こるのをその時は知らなかった。

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