第二十八話 戦いの始まり
「…はっ」
リーシャはパッと目を覚ました。
はぁ…はぁ…と荒い息をしながら天井を見る。
知ってる天井だ。
いつも寝ているベットの上のいつもの天井。
リーシャはあの時、森へ行く道で倒れた筈だ。
リーシャはパッと体を起こして周りを見た。
リーシャの足元にベットを枕にして、よっかかってシェリアンが寝ていた。
周りには杖と木のバケツとタオル。
どうやらリーシャは熱を出していてシェリアンが看病してくれていたらしい。
そして、リーシャは時計を見る。
魔道具であるその時計は、日にちまで分かる代物だ。
今は夜の10:48。
日にちは1日過ぎていて、つまりリーシャは24時間と少し寝ていた事になる。
そして明日はリーシャの誕生日だ。
リーシャはあの紫の稲妻の事を思い出してパッとカーテンを開けた。
…紫の稲妻はまだそこにあった。
真っ暗な夜空に不気味に稲妻が輝く。
しかしリーシャが寝る前に見た地面付近にある訳ではなくて、リーシャの村を中心に大きなドーム状になっていた。
まるで稲妻でできた檻の様だ。
リーシャが窓の外の光景に唖然としていると、ふと窓の真下にあたる地面が白くキラキラと輝いているのを見つけた。
その光はだんだん強くなる。
リーシャは何かに呼ばれた様にベッドを飛び起きてバタバタと階段を降り、玄関に走った。
「え…」
リーシャが家を出て、窓の下に向かおうとするが、さっきと同じ白い光が自分の足元の地面にあるのに気づいた。
そして、リーシャが歩き出すとその白い光もついてきた。
どうやら白い光は地面の下にある何かが光っているらしい。
…リーシャはしゃがんでその白く光る地面に触ってみた。
「ッ?!」
すると白い光がパァァァァといきなり強くなってリーシャは思わず目を瞑った。
ストンと何かが地面から飛び出てリーシャの手に収まった。
辺りが見えない所まで白い光が光ると、いきなりシュンと収まった。
リーシャはすぐに手に持っている、さっきまで地面の中にあった物を見る。
「は…?」
それは本当に美しい杖だった。
杖の芯に、薔薇とそのツタを模した飾りが巻きついていて誰もが見とれてしまう程の美しい杖。
しかし、リーシャにはそんな事よりも重要な事があった。
その杖は…
透明なクリスタルで出来ていたのだ。
リーシャの頭の中に走馬灯のように色々な言葉が駆け巡る。
ーー『世界で唯一透明な素材で出来た杖。その名はイレークスだ。』
ーー『イレークスはセナーランの王の持ち物。』
ーーーー『私はセナーラン最後の本当の王族』
ーーー『イレークスはカシュクランの東側にあるとー』
ーー『東の国境近くの村』
ーーーーー『センターランドの君主の子』
ーーーー『この詩のセンターランドは恐らくセナーランだとーー』
ーーーー『裏切り者はセナーラン王族の者』
ーー『紫の稲妻』
ーーー『ドンデ王国の方向から来た稲妻』
ーー『まるで稲妻の檻の様なーーー』
「…大変だ…!」
リーシャは走った。
イレークスを持ったままさっき自分が寝てた寝室へ。
リーシャはバンッと寝室のドアを開けた…
丁度その時。
ビリリリリリリリリリリリリ
シェリアンのポケットから耳が割れるほどの音が聞こえた。
すると寝ていたシェリアンがパッと起きた。
ルーンも眠そうに起き上がった。
「お母さん!」
シェリアンがポケットからサンデル皇子がここに来ていた時にも使ったレシーブサファイアが入ったサイコロを取り出した。
つまり、受信機だ。
シェリアンはそのサイコロを床に叩きつけて割る。
すぐにその中から声が聞こえた。
とても慌てているような女性の声でその声と一緒に悲鳴や何かが倒れる音がした。
随分と音割れが酷い。
「ジジ…緊急連絡!…急連絡!!こちら東門!…ちらカシュクラン帝国…門!!…襲撃!…撃です!!!敵は確認できた…でも9人!…特徴か…恐らくドンデ王国…第二の天使達…不思議な炎…全ての防御バリアを無効化する……こちら壊滅的状況です!」
リーシャとシェリアン、そしてルーンは顔を見合わせた。
震える声で報告は続く。
「…もう増援はいいです!…余程強くないとただ死んでいくだけ…ですから!!…シェリアン様!今すぐ…避難を!!…と…母に…私の家族に…どうか!!りがとう…と…お願い…致します…」
そこで通信が切れた。
「…ッ!!」
それを聞いたリーシャはあの紫の稲妻の檻を思い出してイレークスを持ったまま家を飛び出した。
「ちょっとリーシャ!!」
それをシェリアンが追いかける。
「ルーンは転移魔法陣の準備しておいて!」
シェリアンが家を出ながら叫んだ。
◇◇◇
リーシャは走った。途中で身体強化の魔法をかけてあの紫の稲妻の方へ。
途中でシェリアンが追いつきリーシャに言う。
「ちょっとリーシャ!怖いのは分かるけど冷静に…」
リーシャはそれを無視して走る…走る…走る…
とうとうシェリアンには見えない稲妻の前まで行くと足を止めた。
「リーシャ!!どうしたの?!」
リーシャはふぅっと息をついて稲妻の檻を駆け抜け…ようとした。
「?!」
稲妻に触れた瞬間、足が前に動かなくなってしまったのだ。
「あ…」
後ろに動かそうとすると動いた。
出れない。
これは本当の檻なのだ。
シェリアンも足を踏み入れてびっくりして後ろに下がった。
「何これ…」
「お母さん…大変だ…ほんとに…」
リーシャはイレークスをチラッと見てそう言った。
「?!リーシャ?!その手に持ってる物って…」
シェリアンもイレークスに気が付く。
リーシャは今度は家に向かって全速力で走った。転移魔法を試してみようと思ったからだ。
シェリアンもそれにならう。
走りながら2人は会話をする。
「リーシャ!一体どういう事?!」
「私、魔法が見えるって言ったでしょ?!昨日、紫色の稲妻がこっちに向かってきてて今目が覚めたらこの村を中心に檻みたいに広がってたの!きっと私達は閉じ込められたんだよ!」
「…じゃ、じゃあその杖は?!」
「多分…イレークスって杖だと思う!起きたら足元の地面に光があって私についてきてたの!それを触ろうとしたら出てきたんだよ!」
「え?!」
「多分、今の今まで光ってないだけでずっとついてきてたんだと思う!だからドンデ王国はセナーラン王家の裏切り者が私とイレークスが一緒に居るって知ってて、私の居場所を突き止めてカシュクランの東側にイレークスがあるってきっと知ったんだよ!」
「そんなまさか…!」
「とにかく、どうにかしてここを出る手段を探さないと!このままじゃ村の人達も私達も…!いくらお母さんでも約10人の第二の天使には勝てないでしょ?!」
「…ええ!そうね!悔しいけど!」
リーシャとシェリアンは自分達の家へと走ってゆく。
「ルーン!魔法陣書き終わった?!」
家に入ったシェリアンが叫んだ。
「逆にこんな短時間で書き終わると?!」
「あー…私もリーシャも手伝うわ」
そう言いながらシェリアンもルーンとは別の所に記号をスラスラと書いてゆく。
リーシャも入ってきて別の所を描き始めた。
「リーシャ!どこいってたんだよ!」
「あー村の外?」
「なんで?!」
「それはあと!とにかく私達は閉じ込められたみたいなの。この魔法陣がダメだったら終わりだよ。」
「は?!」
そんな会話をしながら3人はスラスラと魔法陣を書いて、書いた魔法陣の上を削っていく。
魔法陣は1回使うと元に戻って使えなくなるのでいちいちこんな作業をしなくてはならない。
「…できた」
午後11:24。
魔法陣が完成し、すぐに発動にかかる。
シェリアンが魔法陣の真ん中に杖を置いてエネルギーをこめ始めた。
「あれ?」
本来光り輝いて来るはずの魔法陣は何も変わらない。
「…ミスをしたのかしら?」
そして3人は魔法陣をようく観察する。
しかし、どこにも間違いは無かった。
3人ともエネルギーを込めてみるが、みんなダメだった。
「じゃあ…あの紫の稲妻は転移魔法も封じ込めるって事…?」
リーシャが絶望的だという声で言った。
「そうね…多分。」
「どうしよう?!どうしよう?!もう敵が来る頃だよ!…私のせい!私のせいなのに!」
確かにリーシャがセナーラン王族でなければ、イレークスの保持者でなければこんな事にならなかったのだ。
というか、リーシャがこの村に居なければ…
バァァァァァアン
大きな爆発音が辺りに響いた。
「「「?!?!」」」
3人は一斉に窓の外を見る。
…一番東側の家が炎上していた。
人の叫び声と怒鳴り声、火の轟音が辺りに響く。
そしてリーシャ達は見た。
村の中にドンデ王国の旗を掲げ、入っていく十数人の黒髪の人々を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます