第二十七話 『ビデオ』1


◇リーシャ◇


「ん…」


気がついて目を開ける。


「…知らない天井だ。」


ありえないほどピカピカでツルツルな白い天井で、小さなシミ1つさえない。

拳よりも小さな電球が1つ、ぶら下がっていてこれも小さな電球とは思えないほどパァっと光り輝いていて不思議だ。


ここどこだよ。


ってそう言えばあの紫の稲妻は?


ばっと体を起こす。


「うっわぁ…」


知らない部屋だ。


リーシャが眠っていたのは城のよりもふかふかの大きなソファでその部屋は城の客室程広く、金や銀などの豪華なものでは無いが家具の一つ一つが洗練されていた。

おまけに見たことの無い道具がたくさん置いてあった。


ソファから降りて部屋を見渡す。


なんでこんな所にいるのだろう?

まさかあの稲妻のせい…


とりあえず早く村に戻らなければ。

リーシャはドアらしき物の所に歩いていった。


ドアらしき物と言ったのは、それにドアノブがついていなかったからだ。


リーシャはドアを押してみる。


うん。ビクともしない。


コンコンとドアを叩いてみる。


ビクともしない。



あーあ。もしかして私閉じ込められちゃったのかな…

しかし、それにしてはこの部屋のものは豪華だ。

それこそカシュクランの城の物とは技術力が違う。こんなに綺麗に削ってある家具は見た事が無い。


リーシャは何気なく置いてあった机の方へ歩いていった。


大きな机なのにそこには何も無かった。

メモするための薄い木の板も、リーシャの村にさえあった魔法で大量生産された羊皮紙の本でさえこんな豪華な部屋なのに1冊もない。


ふと机の端っこに唯一あった物を見た。


「なんだこりゃ」


それは不思議なものだった。


空中に青い光の板が浮かび上がっていて、それには何やら文字が書いてあるのだ。

その板に触れようとすると、まるで何も無いようにすり抜けてしまう。


リーシャはその板に書いてある文字を読む事にした。


「これって…」


この文字は古代文字じゃないか?


古代文字は文字通り古代の文字で、天使達が使っていた言語と言われている。


カシュクラン帝国では全く違う言語を使うが、リーシャはもちろん本で勉強して古代文字を習得済みだ。


「えーっとなになに…あ、あ?アメ?…そうか、アメリカ…これってなんかの名前かな…えっと…ワシ…ワシントン!ディー、シー?それとス、スター?星かな。つまり…アメリカ・ワシントンD.C.星?」


読みといていくとこんな感じになった。



ーーーーーーーーーー


アメリカ・ワシントンD.C.星 3051年 12/5 13:58

アメリカ・フロリダ星 2895年 24/6 15:6

ジャパン星 3042年 16/9 18:34

チャイナ星 2864年 6/45 16:49

E.15386レスリー星 562年 9/5 4:65

E.15387ハノン星 987年 7/4 5:4 資源回収済み 破壊可


ーーーーーーーーーー


なんで年が全部違うのかな?

それに3051年?意味わかんない。

日にちも16月なんてある訳ないし、65分なんてあるわけない!


それに星って言うのも空に浮かんでる光でしょ?それとなんか関係があるのかな…

資源回収済み、破壊可ってのも意味が分からない。…なーにが破壊可だ!しれっと物騒なこと書いてるなぁ。


結局なんも分からないじゃん!



シュー



「?!」


音がしてリーシャがパッと振り返ると


さっきの開かなかった扉が横にスライドして開いていた。


そして…


「誰?!」


茶髪青眼の背の高い男の人が入って来た。


リーシャが警戒して、杖を出したのに全く気にする様子もなくトントンと一定のリズムで部屋を歩いていく。

まるでリーシャの事が見えて居ないようだ。


音もなく扉が自動的に閉まった。


あれは魔法?


男は机の方に行って椅子に座った。


「あの、ここどこなんですか?」


リーシャが話しかけるが何も聞こえて居ないようだ。


「ねぇ!」


リーシャがその男の肩を触った…と思ったがなんと、リーシャの手は男の肩をすり抜けてしまったのだ!


「?!」


人間じゃないの?


男は椅子をくるっと回してリーシャとは別の方向を向いた。


そして、男が話し始めた。


「こんにちは。私はセリン。セリン・ニンドーラ。私は君が誰だか分からないし、どの方向にいるか分からないけどきっとセンターランドの君主の子だね?そう願うよ。まぁとりあえず、そこに座ってくれ。」


そう言って男ーーセリンは自分の目の前のソファを指さした。


それにしても、『セリン』なんて…

神様の名前じゃないか。


そんなことを思いながらリーシャは恐る恐るソファに座った。

心臓がバックバックいっている。


「うん。多分座ってくれたよね?…君は今、困惑してるだろう。気がついたらここに居て、扉は開かなくて、君がもし、この部屋を探索したのならこの机の文字を読んだかな?さっぱり分からなかっただろう?物は動かせないし、君が私に触ろうとしたのなら触れなかったはずだ。」


うんうん。その通りだよ。


「安心して欲しい。私の話が終わったら君は元の場所に元通り。いつものベッドで目が覚めるのさ。私は君が見えないし、これは私が作った立体映像だ。『ビデオ』と言う。バーチャルなんだよ。ここは実際には存在しないし全ては君の頭の中の出来事だ。夢と同じさ。私にとって君は未来だし、君にとって私とここは過去。だってこれは君が生まれるずっと前に私が作った映像なんだから。」


はぁ?そんな魔法聞いた事ないよ。


「うん。きっと君はそんな魔法無いとか思ってるんだろうね。私は君に、それについて話しに来たんだよ。…という事で今から君に知識をあげるよ。誕生から私が今いるこの時までの人類の大まかな歴史と宇宙と星について少しとあと機械類、簡単な物理を送るよ。」


彼がニコッと笑うとリーシャの頭に何かが流れ込んできた。


「ぐっ!」


あったま痛!!


………


やっと治まったよ。


これって…化学?

あれ?魔法は?


「少し痛いだろうけど、これが1番手っ取り早いから許してほしい。」


かなり痛かったんですけど?!


でも…星が球体で宇宙に浮かんでるなんで…知らなかったな。


それに…

リーシャは頭をぐるぐる回転させて今得た情報を解消していた。

大量の情報を脳がまだ把握出来ずにいる。


「今、君に送ったように人類は今まで随分とおかしな歴史を送ってきたんだ。脳がパンク状態だろうから少し整理しようか?」


そう言いながらセリンが右手の人差し指を立てた。


するとその先に小さな球体がでてきた。


「うん。君にもこれが見えてるかな?これが出てくる仕組みについては後で教えてあげるよ。…まあとにかく、これは地球。私達人類の故郷の星で人と言う種が生まれた所。青く煌めく奇跡の星。人類は元々猿で、進化して進化してやっと『人』という種になった。やがて様々な事があり、文明を持つようになった。まぁ、ここまではよかったんだ。」


セリンは立ち上がってリーシャの前を行ったり来たりしながら話す。


「人類というのはね。実に愚かな生き物だ。君に送った情報にはそんなに細かく入れなかったけれど欲のおかげで何度も何度も同じ過ち犯す。しかし、それでもその『欲』により人類はより高度で便利な文明を築いていった。寿命は上がり肉体労働は減り、とにかく便利でとにかく何もしなくていい世の中を作ろうとしたんだ。やがて電気が発明されそれで動く、コンピュータやロボットという物が出てきた。彼らは人間の変わりに色々やってくれる。人類の実に優秀な助手だ。」


一息ついてまた話す。


「最初は単純なものしか出来なかったが、やがて簡単に複雑なコンピュータを作れるようになってしまった。これもロボットを使ってね。地球にいた頃の人類は『プログラム』と言う物を書いて覚えれば誰でも簡単にプログラミングでロボットを作れるようにした。

…さて。それとは別に、人類は地球が球体であり太陽の周りをぐるぐる回っている事を知ってしまった。そして、地球も月もその他の星も『宇宙』に浮かんでいる事を証明してしまった。すると、誰でも地球を出て未知の宇宙に行ってみたいと思うものだ。」


セリンはまた人差し指を立てた。


すると今度はロケットが出てくる。


「案の定、宇宙に行ったんだ。ありったけの化学とありったけのロボットを使って地球を外から見てきた。やがて月に行き、火星に行った。…それと同時に地球では温暖化という現象が起きていた。人類が色々やりすぎたのもあるだろうが一番は地球だ。地球は寒暖化と温暖化を繰り返しするものでそれが理だ。でもとにかく、それが人類は嫌だった。そりゃぁ誰でも暑いのは嫌だ。それにゴミの廃棄場所とか水の汚染とか色々、地球は人類にとって住みにくい環境になって行ったんだ。」


セリンは今度は火星を人差し指の上に出した。


「すると、人類は地球を出ようと考えた。地球を乗り捨てようとした訳だ。…しかし火星は乾いていて水もほぼないし、地球のような環境の他の星も当時は見つからなかった。月は難しかったし、火星は人類が住むには適さない。…そして火星緑地化計画が始まった。」


セリンの指先にある火星に何か四角い鉄の箱の様なものがたくさん出来た。


「まず、初めにいくつもいくつも原子力発電所を置いて機械をいくつもいくつも組み上げた。それらは人口磁気を大量に出し、太陽風を妨げる人口大気圏を何とか作ってしまったんだ。…その後暖かく、大気圏の出来た火星に木を植えていく。木は火星に大量にある二酸化炭素を吸って酸素を吐き出すのだから大気圏内に酸素が増えていくね。そうやって森を作り水を作りとうとう火星が緑地化すると人類は地球の価値のある物を全て持って行って火星に移住してしまった。…まさに人類は神のような事をやってのけてしまったのだ。」


セリンの話に沿って姿の変わっていった火星が今や青と緑の星になっていた。


「火星に移住した事で舞い上がってしまった人類は今度はロボットとコンピュータを使って周りの星々を征服し始めた。資源を取り尽くした星は捨てられた。…それは地球も例外では無かった。人類はなんと、母なる星のエネルギーやその資源と動物も含めて全て回収して地球を丸裸にしてしまった。おかしな事だ。人類を誕生させてもらった恩を忘れ、仇で返した。」


指先の火星を消してまた、椅子に座ってこっちを見た。


「コンピューターの話をしただろう?プログラムで作ってた話も。そのコンピュータの中に、AIという物がある。学習能力を持つコンピュータ。人類はAIをさらに複雑に人間の上位互換であるように改良して、全て仕事を機械にやらせるようになった。」


ちょっと考えてからセリンがまた話し始める。


「例えば何か自分好みの家が欲しいと思ってボタンを押すとする。すると自分の思っている事を脳に取り付けた機械が引き出し、また別の機械がその人の好みにあったセンスのある家のデザインと設計をし、理想の星を探す。そしてこれまた別の機械類が超高速でその家と周辺環境をを作り上げてみせた。人間はただボタンを押すだけ。『お金』はまぁ、かかるがそれも広い広い宇宙に星という土地は大量にある訳だし資源も大量にあって全てロボットがやってくれるのだからずっと安く済むんだよ。」


セリンは話を続ける。


「やがて人類は会社という物も持たなくなった。だって全てロボットがやってくれるからね。商売をするならただボタンを押して方針を決めればいいだけだ。…だんだんロボットが進化してより複雑な思考を出来るようになるとそれも全部やってくれるから商売する人もいなくなり、辛うじて形を保っていた国に1人、ロボットが暴走しないための最終決定をする人がいるだけで何もかもできるようになった…それが私だ。」


…ってじゃあこの人その国の頂点って事?


「うん。今回はここまでにしようか。次は君たちの星の話と魔法の仕組みについて話そうかな。送った情報で脳の負担が大きいからね。君は寝込むかもしれない。その間、魔法の仕組みでも考えてみてくれ。ヒントは神秘も魔法の力なんて曖昧なものも、この世には存在しないって事だ。

じゃあ、またいつか。」


?!


もし寝込むなら大変だ!!

あの紫の稲妻が何の魔法かも分からないのに!


ガクンっと体の力が抜けた。


寝込んじゃダメ!私!起きろ!起きろ!


目がゆっくり閉じていく。



起きろ!!!


リーシャは完全に目を閉じた。

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