第二十六話 最悪とトラウマ
◇リーシャ◇
「え?」
リーシャは空中で村にむかう紫色の稲妻を少しの間、呆然と見ていた。
「あっ」
驚き過ぎて、怖くて、空中に浮かんでいる魔法が揺らぐ。
急いで体制を戻すと、急に頭が鮮明になって凄い勢いでルーンの元へと飛んだ。
「ルーン!大変!村が…!」
「は?!何?」
地面に降り立つと稲妻で頭がいっぱいになりながらも村の方へとかけていく。
「は?!何があったんだよ!」
ルーンも急いで追いかける。
「とにかく!早くお母さんの所へ行かなきゃ!」
「なんで?!」
「とにかく大変なの!」
「説明しろよ!」
「それどころじゃないの!馬鹿ルーン!」
「はぁ?!」
あの禍々しい稲妻がもうすぐ村に到達してしまう事は明らかだ。
早くどうにかしなければ、何が起こるのか分からない。
それにしても今まで見せてもらった魔法は皆青い稲妻だったのになんで紫色なんだろ…?
ルーンの待って!という声がかなり後ろから聞こえたが気にせず村に向かって走った。
村に着いて自分の家に走った。
「お母さん!お母さん!どこ?!」
家は空っぽである。
「あら、リーシャ?シェリーさんなら森へ行ったわよ?あ、リーシャ焼き芋いる?」
村人のおばさんがリーシャに声をかけた。
「…ッ!」
なんでこんな時に…!
サーっと血の気が引く。
「…おばさんありがと!」
そう言いながら森の方へ全速力でかけていく。
「あ、ちょっと!焼き芋…」
おばさんが後ろから焼き芋を持って声を上げるのがきこえた。
村から森への道のちょうど半分くらいの位置でお母さんを見つけた。
森での用事が終わったのだろうか?こっちに歩いて来ている。
「お母さん!」
◇ルーン◇
ルーンはリーシャのありえないスピードについていけず、途中でヘトヘトになって膝をついた。
「はぁ…!はぁ…」
村へはあと少しだ。
リーシャは一体何をしたいんだ?!
「あーくそ。」
何とか立ち上がって村へと急ぐ。
「ルーン!リーシャがさっき…」
「リーシャが何?!」
「やっぱりなんかあったのかい?リーシャがなんか深刻そうな顔してシェリーさんを探して森に行ったよ」
「はぁ?!」
もう走れるかよ!
「もう!」
何とか魔法を自分にかけようとするが、さっき遊んで元々ヘトヘトだった事もあってかけられない。
仕方なく森に行ったリーシャを追いかけて走る。
「おばさんありがと!」
「あ、ちょっと焼き芋…」
おばさんが後ろから焼き芋を持って声をあげるのが聞こえた。
村から森への道を死にそうになりながら何とか走る。
「あ!」
リーシャらしき人影が見える。
もう1人、大きな人も見えた。シェリーさんかな?
…やっと追いついた!
もっと走るとか言うのやめてくれよ?!
◇リーシャ◇
「お母さん!」
「リーシャ?どうしたの?」
お母さんが呑気にこっちに歩いて来る。
「あのねあのね!なんかさっき…あっ」
リーシャは耳が割れるような音で左を見た。
…その瞬間、目を閉じてしまうくらいのリーシャやアイリス騎士にしか見えない強い紫色の光が地面から溢れ出たように村と、その周辺を飲み込んだ。
「ッ?!」
遅かった?!
お母さんは何も気づかずに私を見ている。
「お、お母さん!に、逃げなきゃ…!」
リーシャは夢中でそう叫ぶ。
その瞬間、リーシャの中で何かがバチンと弾ける音と共に何かの映像がパッパッパッとフラッシュバックした。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
背筋が凍りつくような何かを感じる。
いつも訓練で呼び出したトラウマの炎と同じなのに、何かがいつもと違う。
いつもより、鮮明で炎は赤く燃えているのにどす黒い紫の稲妻がバチバチと飛んでいた。
それはまるで、今村に来た稲妻と同じような色だ。
いつもよりリアルで実際は寒くてブルブル震えているのに熱ささえ感じるような炎。
ふと、いつも見ている私を抱える女の人の顔が見えた。
いつもならぼんやりしていてほとんど何も見えない。
しかし、今ははっきりと鮮明に見えた。
美しい顔立ちの彼女は茶髪青眼で、悲しげ表情をしてこっちを一瞬向いてから、前を向いて必死な表情をしている。
…彼女の瞳から涙が散った。
バクバクと心臓が鳴る。
周りの音が何も聞こえない。
お母さんが何か言っているのがうっっすらと見えたが、すぐに視界がフェードアウトしたように暗くなっていく。
不意に足の感覚が無くなる。
「「リーシャ!!」」
…ついにリーシャは意識を手放した。
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