第二十五話 稲妻と後悔


我々は常に『平和』と『正義』の元に行動する。

しかし、平和など正義など人の数だけ意味が変わるのだから結局我々など平和と正義の面を被って自分の価値観で行動するただの『人』に過ぎない。

だからこそ我々は授かった魔法の天敵とも言えるこの力を『正しく』使わなければならない。我々を動かすのは平和でも正義でもなく自分自身なのだ。


ーーー初代アイリス騎士 テンプセント・フォン・アースド・アイリス・カシュクラン



◇◇アイリス共和国◇◇


リーシャが村に向かってくる光をみた少し前の事…




アイリス騎士団の拠点である、アイリス・ベースというこの城。

白く塔がいくつも建ち、透き通るような青の屋根の美しい城。

そこは世界評議会セナートゥスの要請や、七大騎士達が決める任務を受けるのもここで全てのアイリス騎士の故郷である。


任務の内容は様々で、激化した戦争の難民の保護や秩序維持のためどちらかの国に味方する事もあれば危険人物の捜索、交渉、大きな戦争を防ぐためのスパイ活動など多岐に渡る。


時々、互いに手を貸す事はあるがアイリス騎士団よりも昔からある冒険者達はモンスター専門、アイリス騎士は人専門と分類ができている。


アイリス騎士は皆、魔法が発動前と発動後に視覚や聴覚で知る事が出来る。

彼らには稲妻がバチバチと鳴り、光り、それを認識する事で魔法を『見る』事が出来る。


そして訓練すればするほどより何の目的の魔法かや、魔法の残り香、そして魔法がよりはっきりと分かるようになる。

その他にも、魔法とは別の力で万物を切れる虹色に輝く物体を出せたり杖がなくても物を動かす事が出来る。おまけに通信も出来て、さらには魔法とは別の何かの力で大幅に身体能力を上げることができる。


魔法を使う人類の天敵とも呼ばれる彼らはその力を悪く使わないように『素質』のある者は必ずアイリス騎士にされ、その頃から日々道徳心や高度な勉強を教えられる。


城には教育設備や医療設備、とにかく色々あるのだ。


アイリス・ベースは総勢1000名以上のアイリス騎士の故郷でありその半数以上が城にいて、日々生活をして、任務をしている。


今日もそうだった。


当たり前のように城の中で多くの騎士達が話し、笑い、訓練をする。


そんな日になるはずだった。


城にいたアイリス騎士の一人…というか見習い騎士であるレイサントはポカンと口を開けてテラスにたって外のありえない光景を見ていた。

レイサントは黒髪黒目の少年で、隣にはポーラという親友が居た。


赤毛灰色眼のポーラも目を丸くしている。

2人はビニンという少年と共にエンダイアの弟子で、仲間である。

エンダイアが任務で城を出発していから4日。

ビニンが置いていかれた事に怒ってこっそりエンダイアの後をついて行っていた。


レイサント達がいるテラスには見習いや騎士が信じられないような面持ちでレイサントと同じ方向をじっと見ていた。

周りの至る所の窓とテラスにも見習いや騎士達が集まってやはり同じ方向を向いている。


夕焼けに騎士の白いローブが染まる。


「…ねぇレイ。あれなに?」


ポーラが震える声で言った。


「…しらない」


そう言いながらレイサントは目の前をじっと見た。


彼らの目の前は…そう、光っていたというのが正しいだろう。


目も開けられないほど強い光が、彼らの目の前にあるドンデ王国王都を中心に広範囲の地面の上に存在した。


その光はまるで稲妻のようで、どす黒い紫色色をしていた。

バチバチと耳を塞ぎたくなるような大きな音が辺りにこだまする。


そう。


それは正しく魔法が使われる時、アイリス騎士がみる『それ』に違いなかった。

ただ、ほとんどの騎士がこんな大規模で恐ろしい魔法をを見た事が無かった。


魔法は見える稲妻が濃い紫であれば紫であるほど敵意が高く、危ない。

つまり、ドンデ王国に広がる魔法は超巨大で、とても危険と言うことである。


「師匠…!」


こんな非常事態に師匠が居ないことで怖くて怖くてバックンバックンと鳴る心臓が、今にも弾けそうであった。



ーーーーー



「解析はまだか?!」


七大騎士の1人である黒髪の青年が叫んだ。


そこはエンダイアが任務を受けた部屋で、4人の七大騎士がキーボードを凄い勢いでカチャカチャと打っていた。


中心の大きなホログラムは立体的なドンデ王国で、紫色の稲妻がギラギラしている。


4人の前にあるいくつもの小さなホログラムは常に変わり続け、いくつもの危険マークがピコン!と出て来ている。


「まだよ!逆に終わったと思ってるならあんたがやってよ!」


イライラした様子で七大騎士の青髪の女性が言った。


「俺ができると思ってんなら見習い時代からやり直した方がいいぜ!」


青年がいくつもの小さな小型ドローンを操作しながら言った。


彼の目の前のホログラムには大量のドローンから送られてくる大量の動画が写っている。


ドンデ王国の内部のようだ。


「あーっくしょー!」


その動画の3分の1がドンデ王国に居るセナーラン王家の裏切り者が作った防御プログラムに引っかかって見えなくなった。


「っはぁー解析半分くらいは完了!どうやら…どこか遠い場所の転移魔法を阻止してそこにいる人を出られなくする魔法らしいわ。今から数分後に発動予定!」


青髪の女性が解析結果を読み上げる。


「なんじゃと?!このパワーでまだ発動前か!」


七大騎士のお爺さんがこちらも攻撃プログラムを組みながら叫んだ。


「ええ!でえっと…その場所の方向が…んーとなんでこっちの方向なのかしら?」


青髪の女性の前のホログラムに出てきた地図にドンデ王国からの矢印が伸びていた。


他の七大騎士がこっちによってきて地図と矢印を見る。


すると、白髪の女性がまずい!という顔をして言った。


「ッ!これは!」


彼女が矢印を指さして矢印の方向に指を動かした。


ピタッと手が止まる。


「ここだ…」


そこはには『カシュクラン帝国』と書いてあった。



ーーーーー



エンダイアはさっきまで自身の超能力とアイリス騎士おなじみの力を借りて空中をとんでもないスピードで走っていた。


しかし、何か様子がおかしいのに気がついて雲の上から高い丘の上の木の上に降りてきた。


「ッ?!」


エンダイアも城の騎士やリーシャが見たあの紫色の稲妻を見た。


信じられなかった。


こんなもの見た事がない。


それにかなり訓練してきたと自負していたが、その魔法が何の魔法なのか分からなかった。

とてつもなく嫌な予感がしてすぐに七大騎士に連絡をする。


「エンダイアです。何やら大規模な魔法が発動されたようですが…」


「エンダイア!すぐにカシュクラン帝国に走れ!…その魔法は発動前だ!場所はカシュクランの東国境付近!ドンデが攻撃しようとしてる!」


「…まさか!」


「とにかく早く!」


「どんなに無理して早く行ってもあと6日はかかります!」


「…そうか…とりあえず出来るだけ帝国に近ずいておいてくれ!」


「了解!」


エンダイアは再び、さっきより早いスピードで走り出した。


ビュンビュンと風が全身を突き刺すように吹くが、それでも走り、走り、走った。


途中で自身の弟子のビニンがドンデ王国に乗り込もうと言ったのを思い出して、深く後悔した。

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